藤井聡太七冠を筆頭に羽生善治九段の会長就任など2023年も話題満載な将棋界。観る将のマンガ家・千田純生先生に今月も「イラストで将棋ハイライト」を描いてもらいました。
9月末まで30度超えの真夏日が続く中で、バスケットボールとラグビーW杯、サッカー日本代表の大活躍、プロ野球のクライマックス……と各競技が大盛り上がりですね。もちろん将棋も、ファンにとってたまらない対局が続いています。もしお見逃しの読者の方がいらっしゃったら、ぜひイラストとともに振り返ってみてください!
1)藤井聡太vs永瀬拓矢の王座戦が、まさに死闘
名誉王座か、それとも八冠全制覇か——永瀬拓矢王座が藤井聡太竜王名人を挑戦者として迎えている第71期王座戦が、第3局まで終了しました。ここまでの結果は以下の通り。
<第71期王座戦>
第1局(8月31日):150手で永瀬王座が1勝目
第2局(9月12日):214手で藤井竜王名人が1勝目
第3局(9月27日):81手で藤井竜王名人が2勝目
第1局の結果は先月のハイライトでもお伝えしましたが、3局すべて、対局内容が濃すぎて中継にかぶりつくように見ていました。第2局は妻氏、担当編集さんの3人で見ていたんですが、対局が終盤を迎えると、担当編集さんがポツリとつぶやきました。
「これ、現地からの話だと後手の入玉(※敵陣に王将が入り込むこと。相手は玉を詰ませることが難しくなる)になっていったら、最終的には持将棋(※両方の玉が入玉した場合、両者が合意すると成立。盤上にある駒を点数に変換して、双方が24点以上になった場合は指し直しとなる)になるかもしれないとのことです」
粘りが信条の永瀬王座ならありうる……。
担当編集さんは神奈川の元湯陣屋で行われた第1局も取材に訪れており、「取材していた皆さんが“小田原辺りで宿を取っておいたほうがいいかもなあ”という話をしていて震えました(終局は21時11分)。となると第2局、さらにどうなってしまうんだろう」と戦慄していました(笑)。
実際、ABEMAの評価値にも〈持将棋の点数〉がチラチラと見え始めて「こ、これは……」とブルブルしていた死闘は、22時2分に終局。「2人の対局だと長くなるのが基本らしいです」という感想戦は、23時近くまで行われていました。対局者のおふたり、関係者や報道の皆さん、本当にお疲れ様です……。
盤上の力比べは、まさに死闘の様相
そして9月27日に名古屋で行われた対局も、手数こそ第2局の半分以下でしたが濃密すぎる戦いでした。
評価値において“逆転勝利”した藤井竜王名人は「八冠へ王手」となりましたが――長年の研究相手である永瀬王座との盤上での力比べは、まさに死闘の様相を呈しています。
担当編集さんいわく「第1局前の会見で永瀬王座が〈実績と勢いと実力を兼ね備えている藤井七冠なので、本当にとても厳しいと思いますけど、自分が一生懸命頑張らないといけないと思っていますので、一局一局集中してよい将棋を見せられればと思います〉と決意を語っていたのを思い出しました」とのこと。全身全霊をかける勝負は、絶対に見逃すことができません。
2)アベトナ、将棋オールスターいろいろ
そんな藤井竜王名人と永瀬王座ですが、フィナーレを迎えた「ABEMAトーナメント」でも話題を呼びました。準決勝まで進出したチーム藤井(トウカイテイオー)ですが、なんとそこで4連勝で決勝進出をほぼものにした……かと思いきや、そこからチーム稲葉(稲葉陽八段がリーダーのNINNIN)が怒涛の5連勝で巻き返し、大逆転での決勝進出! 将棋の勝負は最後まで分からないですが、チーム戦での超早指し戦となるとさらにだな……という恐ろしさを感じました。
連覇を目指したチーム稲葉の前に立ちはだかったのは、チーム永瀬(川崎家)でした。リーダーの永瀬王座、増田康宏七段、本田奎六段が一致団結し、一気に5連勝でのストレート勝ち! 永瀬王座の采配はもちろん、リーダーの盟友で“バキバキの肉体”もファンにおなじみの増田七段、山根ことみ女流二段との結婚で話題となった本田六段の強さにも感服するばかりでした。ちなみに個人成績は以下の通りです。
最高勝率賞:羽生善治九段(6勝0敗)
最多勝、最多対局賞:永瀬王座(13勝3敗/16局)
敢闘賞:澤田真吾七段(6勝4敗)
予選最高成績賞:藤井竜王名人(5勝0敗)
羽生九段、永瀬王座、藤井竜王名人の成績が凄まじいことを感じつつ、チーム藤井の一員として戦った澤田七段の奮闘ぶりにも心打たれる大会でした。もうドラフト会議が楽しみすぎるので(笑)、ぜひ来年も大会開催を祈っています。
将棋オールスター東西対抗戦が豪華すぎる予感
さて年末恒例のイベントとして定着し始めた「将棋オールスター東西対抗戦」もファン投票での選出が決まり、対局も始まっています。
<将棋オールスターファン投票:東西トップ5の結果>
・東日本
1位:羽生九段(14217票)、2位:渡辺明九段(13276票)、3位:永瀬王座(12688票)、4位:佐藤天彦九段(12255票)、5位:伊藤匠七段(6786票)
・西日本
1位:藤井竜王名人(32604票)、2位:豊島将之九段(13852票)、3位:菅井竜也八段(8498票)、4位:山崎隆之八段(4323票)、5位:澤田七段(3959票)
誰に投票すればいいのかわからないほど豪華な顔ぶれ。昨年の同大会を観戦したんですが「リレー将棋」が行われたので「羽生&渡辺−藤井&豊島」の戦いが見られるんだろうか? とか妄想するだけで、妻氏はもう昇天してしまいそうです(笑)。
東京・関西のブロック予選も行われており、青嶋未来六段と山崎八段、稲葉八段の本選進出が決定しています。一方で丸山忠久九段は3年連続、決勝での敗退だなんて……こんなこともあるんですね。
3)女流も順位戦も奨励会も……将棋界全体がアツい
さて藤井竜王名人の〈八冠ロード〉が大きな注目を集めていますが……将棋界全体を見てみても、アツいトピックスが満載の9月でもありました。まずは白玲戦。9月2日に東京で開催された第1局は里見香奈女流五冠が白星を挙げると、第2局以降は挑戦者の西山朋佳女流三冠が3連勝を飾っています。
ちなみに第1局の会場控室には立会人の藤井猛九段、そして羽生会長らがいて検討が始まったらしく、清水市代女流七段が見守るという構図に。大盤解説会を担当した中村太地八段も「とてつもなく豪華な光景ですよね……」と感銘を受けていたそうです(笑)。
その西山女流三冠がタイトル保持者として香川愛生女流四段を迎え撃つのが、10月7日の女流王将戦です。三番勝負という短期決戦の中で“番長”の愛称で人気の香川女流四段が、どんな勝負を見せてくれるのか。
順位戦A級を見てみると、豊島九段が3連勝で好スタートを切りました。NHK「将棋フォーカス」で半年間講師を務めた(次の糸谷哲郎八段も超楽しみ)決めポーズの「パーフェクト」さながらの強さ! 藤井聡太名人が待つ舞台へとこのまま駆け上がるのでしょうか。
三段リーグを勝ち抜いた2人と、中学生棋士で注目の…
最後は、棋士への道を目指す「奨励会三段リーグ」の情報を。9月9日に行われた最終局の結果、宮嶋健太三段(24歳/15勝3敗)、上野裕寿三段(20歳/14勝4敗)で四段昇段を決めました。おめでとうございます! なお上野三段の師匠は井上慶太九段ですが……。
<井上九段が師匠の棋士>
稲葉八段、菅井八段、船江恒平六段、出口若武六段、横山友紀四段、狩山幹生四段、藤本渚四段
まさに安定の井上門下!
なお「藤井竜王名人以来の中学生棋士誕生なるか」との報道もあった山下数毅三段(15)は、次点でわずかに及ばず。次回の三段リーグ戦から参加する炭崎俊毅三段(15)とともに、どのような戦いを見せるのか……と、将棋界どこを見ても目が離せないポイントだらけなのがうれしい悩みなのです(笑)。
前述した王座戦第3局、観戦記者さんの熱いレポート、そして永瀬王座の貴重な肉声を記した記事によると、現場は“永瀬王座優勢”のムードだったようですが、一手を契機に展開がガラリと変わってしまう恐ろしさを目の当たりにしました。
担当編集さんは「永瀬王座が第2局後の夜、眠れなかったという事実を記事で知ると……その重みを痛切に感じます」と話していました。僕ら観る将夫婦もまた、棋士の皆さんが一局に懸ける思いについて、さらに深くリスペクトします。
秋の気配を感じる中での歴史的対局、またイラストで書き残していければと心します!<構成/茂野聡士>
文=千田純生
photograph by 日本将棋連盟/Junsei Chida