強豪アルゼンチン相手に堂々たる戦いぶりを見せたU-22日本代表。ポジションごとにどのようなチーム内競争があるか。パリ五輪世代を継続的に追うライター飯尾篤史氏が記す。

 来年4月にパリ五輪アジア最終予選を控えるU-22日本代表(大岩ジャパン)が同じく来年1月に南米予選を迎えるU-22アルゼンチン代表に5−2と勝利した。

 この結果に、アルゼンチンのレジェンド、ハビエル・マスチェラーノ監督は「心配だし、とても悲しい気持ちだ」と嘆くしかなかった。

アグレッシブさとハイプレッシャーを披露した

 2022年3月のチーム立ち上げ以来、大岩ジャパンが国内で強化マッチを行うのは初めてのこと。

「我々がどんなサッカーをするチームなのか、知ってもらいたい」

 試合前、大岩剛監督は繰り返し語っていたが、おおむね好印象を残すことに成功したのではないか。

 ボールを奪ったらゴールを目指し、難しければ、ボールを意図的に動かしながら狙うべきポジションに入ってボールとスペースを支配する。

 ボールを奪われてもすぐさまアグレッシブに奪い返し、相手のビルドアップの際にはハイプレッシャーも仕掛けていく――そうしたスタイルは随所に見えていた。

 1−1で迎えた後半開始から約20分間、ミスが続いて逆転され、相手に流れを明け渡したのは大きな課題として残ったが、指揮官は試合翌日、「ボールを保持しているときのミスや、保持していないときのポジショニングのミスを映像で見せて、自分たちがやれたこと、やれなかったことを整理した」と、21日の第2戦に向けてさっそくフィードバックしたことを明らかにした。

 第2戦は非公開で行われるため、取材ができる年内の強化マッチは第1戦が最後。来年3月に2試合の親善試合を行い、4月のアジア最終予選に臨むことになる。

アルゼンチン戦は想定内、難しいのはポジション争い

 立ち上げの頃からこのチームを取材してきた身としては、長距離移動をして本調子ではないアルゼンチンを相手にこの結果と内容は想定内だった。

 このチームは昨年9月から6月にかけて4度の欧州遠征を行い、ポルトガルやイングランドを破り、イタリア、ドイツ、オランダと引き分けた実績がある。

 アルゼンチン戦は日本での開催だったから、気候に慣れており、日本平のピッチ状態も良好。ウズベキスタンやバーレーン、アメリカで、酷暑や芝のハゲたピッチに苦しめられた経験のある選手たちにとって、アルゼンチン戦はこれ以上にないくらいプレーしやすい環境だったはずだ。

 一方、1年半、取材してきても判断が難しいのがポジション争いの行方だ。ここにきて、競争が激化してきているのだ。

 例えば、アルゼンチン戦との第1戦のピッチに立った顔ぶれも、現状のベストメンバーとは言い切れない。GK鈴木彩艶(シント・トロイデン)とFW細谷真大(柏レイソル)がA代表に昇格したのはさておき、このチームのキャプテンである山本理仁(シント・トロイデン)がスタメンから外れるのは珍しいケースだった。

 代わってキャプテンを務めたアンカーの藤田譲瑠チマ(シント・トロイデン)が絶対的なレギュラーかというと、そうとも言い切れない。藤田が所属クラブでサブに甘んじているのに対し、川﨑颯太は京都サンガF.C.で不動の存在。バイエルンに所属する福井太智も9月にトップチームデビューを果たしているからだ。

五輪最終予選で海外組を招集できる保証がない?

 アルゼンチンとの第1戦では、海外組から藤田、鈴木唯人(ブレンビー)、佐藤恵允(ブレーメン)、小田裕太郎(ハーツ)の4人が先発し、福田師王(ボルシアMG)、福井、山本がベンチスタートに回ったが、大岩監督は海外組の起用バランスについては考えを巡らせているという。アジア最終予選はインターナショナルマッチデイではないため、彼らを招集できる保証はどこにもない。

「今、所属クラブにお願いしている最中だが、来てくれる、来てくれないといったことも想定しながら、グループ(第1戦、第2戦のスタメン)を決めている。でも、そればかりを考えて、目の前の試合に向けた真剣さやリアリティを落とすわけにもいかない」

 海外組の一部の選手が招集できない可能性も視野に入れながら、特定の選手に頼らないチーム作りやメンバー構成を考えているというわけだ。

GK:鈴木彩が招集見送りの場合、正守護神は誰に?

 その上で、大岩ジャパンのポジション争いを見ていこう。

 GKは一番手と目される鈴木彩が10月の活動からA代表に昇格しており、来年1月のアジアカップにも参加することになりそうだ。1〜2月に1カ月以上、4月にも1カ月近くクラブを離れるのは難しいから、パリ五輪アジア最終予選での招集は見送ることになるだろう。

 アルゼンチン戦で先発した藤田和輝(栃木SC)は9月のアジア大会での活躍が認められ、大岩ジャパンの“正規メンバー”に昇格した選手。10月のメキシコ戦では野澤大志ブランドン(FC東京)を、アメリカ戦では佐々木雅士(柏レイソル)を起用したから、今回は藤田を試してみた、ということだろう。

 このポジションには10月と今回は未招集となったが、立ち上げ当初から選出されていた小久保玲央ブライアン(ベンフィカ)もいる。

SB:右は半田が一番手、左は佳史扶vs大畑の様相だが

 右サイドバックでは、半田陸(ガンバ大阪)が実に1年ぶりに大岩ジャパンに招集された。3月にA代表に選出された半田はその後、クラブ事情や負傷などで未招集が続いたが、アルゼンチン戦で満を持しての復帰となった。第1戦でのプレーぶりを見ると、このポジションの一番手と言えそうだ。

 コンディション不良のために途中離脱した内野貴史(デュッセルドルフ)も右サイドバックを本職とする選手。ポジショニングに長けた半田に対して、内野は上下動を得意とするタイプ。立ち上げからコンスタントに選出されているだけに、大岩ジャパンの戦術への理解も深い。

 左サイドバックは半田と同じく3月にA代表に招集されたバングーナガンデ佳史扶(FC東京)と、浦和レッズの大畑歩夢の争いとなる。実力的には甲乙つけがたいふたりだが、大畑が浦和で出場機会を得られていないため、現状ではバングーナガンデに分がある状態だ。

 畑大雅(湘南ベルマーレ)も常連メンバーのひとり。アルゼンチン戦では途中から出場して左サイドバックに入ったが、クラブでは右サイドでプレー。左右両サイドをこなせるため、登録メンバーが18人(22人になる可能性あり)と少ないオリンピック本番では貴重な存在となる。

CB:木村、西尾、鈴木海…チェイスはどうなる

 センターバックでは、これまでの起用を見る限り、木村誠二(FC東京)の評価が高そうだ。スピードなどの身体能力が高く、攻撃の起点にもなれるタイプ。さらにこのポジションでは、フィジカルコンタクトに強い西尾隆矢(セレッソ大阪)、インターセプトに長けた鈴木海音(ジュビロ磐田)が続くが、3人とも所属クラブでコンスタントに試合に出られていないのが不安材料だ。

 山﨑大地(サンフレッチェ広島)は藤田と同じくアジア大会からの昇格組で、攻撃のビルドアップに優れたタイプ。おそらくアルゼンチンとの第2戦で出番が巡ってくるはずで、そこでアピールできるかどうか。

 センターバックには今回は招集されなかったが、U-20代表からの昇格組であるチェイス・アンリ(シュツットガルト)も控えている。ただし、チェイスは海外組のため、4月の活動に招集できるかどうか不透明だ。

中盤センター:インサイドハーフ+両WGで起用される三戸

 アンカーは前述したように藤田、川﨑、福井の3人による争いとなる。

 インサイドハーフは、ボランチタイプに山本、セカンドトップタイプに鈴木唯。アルゼンチン戦に先発した松木玖生(FC東京)は、そのどちらの役割もこなせるタイプだと認識されている。

 9月のパリ五輪アジア1次予選では三戸舜介(アルビレックス新潟)もセカンドトップタイプのインサイドハーフを務めた。三戸は左右のウイングでも起用され、今年に入ってから大岩監督はサイドであれ、インサイドであれ必ず三戸をピッチに立たせているから、信頼が厚いように見える。

FW:多士済々のWG勢、CFにはA代表招集の細谷らが

 右ウイングは、左利きでプレーメーカータイプの山田楓喜(京都サンガF.C.)、裏抜けが得意で、センターフォワード起用もある小田、スピードスターの近藤友喜(横浜FC)、同じくドリブラーで、得点力も備える松村優太(鹿島アントラーズ)の争いとなる。近藤と松村はスーパーサブとしても期待がかかる。

 左ウイングは、アルゼンチン戦で先制ゴールを奪った佐藤に加え、三戸や松村もこのポジションを担う。負傷のために招集が見送られた斉藤光毅(スパルタ・ロッテルダム)と平河悠(FC町田ゼルビア)も左ウイングを主戦場とする選手たちだ。

 アルゼンチンとの第1戦でウインガーの小田が起用されたセンターフォワードは、細谷が絶対的なエース。さらに、U-20代表から昇格した福田、追加招集となった植中朝日(横浜F・マリノス)、負傷で選出が見送られた藤尾翔太(FC町田ゼルビア)が控えている。

大岩監督が口にする「チームの基準」

 国内組にせよ、海外組にせよ、この冬に移籍をすれば、所属クラブにおける立場も大きく変わる。それによってポジションを掴む選手も出てくれば、失う選手も出てくるだろう。そもそも、前述したように指揮官が望む海外組をアジア最終予選に招集できるのかどうか……。

 こうした問題を意識しながら、指揮官はここまでチーム作りを進めてきた。

「我々のチームには、立ち上げ当初からずっと選ばれているコアの選手たちがいる。彼らにはチームの基準をしっかり示してもらいたい。コアの選手がスタンダードを示すことで、新しく招集した選手が新風を吹かせられる。コアメンバーがいて、刺激となる新メンバーがいて、下の世代からの突き上げもある。それが競争力。そのバランスは毎回意識している」

 スタイルのこれまで以上の浸透と、競争力のさらなる向上――。その両輪を回しながら、大岩ジャパンは3月の強化マッチを経て、パリ五輪アジア最終予選へと向かっていく。

文=飯尾篤史

photograph by Tsutomu Kishimoto/PICSPORT