三笘薫が怪我により日本代表を離脱した。

 怪我の詳細は明らかになっていないが、今シーズンの三笘は、所属先のブライトンで過密日程をこなしており、ここまで怪我のリスクを常に抱えながらプレーしてきた。実際に本人も、11月9日のアヤックス戦後「いつ怪我するか分からない」と正直に漏らし、1週間に2試合をこなすハードスケジュールの難しさを認めていた。

 10月8日のリバプール戦後には、記者陣から「連戦による疲れの影響は、三笘選手もある程度、開幕前から想定していたと思う。だが予想以上に影響が大きいのでは?」と質問が飛んだ。三笘は「なかなか100パーセントに持っていくのが難しい」とし、フルスロットルでは毎試合臨めないと話していた。

 そんな状況下で、三笘が負傷した。軽症の可能性もあるが、今季の三笘を語る上で、このハードスケジュール問題は避けて通れないトピックとなっている。

“三笘依存”「ブライトンで1番働いている」

 今季のスタッツを確認すると、厳しさが改めて浮き彫りになる。

 ブライトンで不動のエースに成長した三笘は、今季の開幕戦から試合にほぼ出ずっぱり。チームはローテーション制を積極的に採用しているものの、公式戦17試合中、三笘の先発ゲームは15試合にのぼる。ロベルト・デゼルビ監督の信頼は厚く、三笘の先発数は群を抜いているのだ。

 出場時間に目を向けても、過酷な状況が見えてくる。

 三笘はここまで1399分間プレーしており、出場時間でチーム最長記録をマークしている。

 2位のMFパスカル・グロスが1250分、3位のDFルイス・ダンクが1215分出場しているが、後ろで控えるCBのダンクですら無理がたたり、11月9日のヨーロッパリーグ・アヤックス戦で負傷離脱してしまった。

 1000分を超える出場時間を記録しているのは、上記の3人のみ。4位以降は1000分に達していない。出場時間から見ても、ブライトンの三笘依存が確認できる。

地元記者「ミトマは昨シーズンほど輝いていない」

 状況を複雑にしているのが、チーム内で激増している怪我人である。

 右ウインガーのソリー・マーチを筆頭に、FWダニー・ウェルベック、ウインガーのジュリオ・エンシソ、DFペルビス・エストゥピニャン、MFジェームズ・ミルナーなど、負傷者は計8人にのぼる。毎試合、勝利を目指しているデゼルビ監督としては、真っ先に三笘をスタメンに組み込まざるを得ない状況にあるわけだ。

 その一方で、三笘のパフォーマンスは精彩を欠いている。

 例えば、11月4日のエバートン戦では試合終盤に鋭いクロスボールを入れ、相手のオウンゴールを誘発した。得点に絡むプレーを随所に見せているとはいえ、昨シーズン中盤に見せた特大のインパクトに比べると、やや物足りないパフォーマンスが続いている。

 スポーツサイト、『ジ・アスレティック』でブライトンの番記者を務めるアンディ・ネイラー記者も、今季の三笘について次のように指摘する。

「昨シーズン中盤、三笘はレギュラーの座を掴んだ。日本代表MFは眩しい輝きを見せ、私を含むジャーナリストたちを大いに唸らせた。ただ今シーズンは、昨シーズンほど輝いていない。

 もちろん、三笘のプレーを否定するつもりはない。今シーズンの活躍はたしかに素晴らしい。チームへの貢献度も高い。今のブライトンにとって、不可欠な存在であるのは間違いない。その点は強調しておきたい。

 ただ昨シーズンに比べると、今シーズンはその輝きがわずかに曇っているように見える。原因は、間違いなく連戦による疲労だろう。ハードスケジュールが続くと、三笘はパフォーマンスが低下する傾向がある。プレミアリーグと欧州リーグのハードスケジュールに、まだ適応できていないのだろう」

三笘「自分が、チームを助けてあげられていない」

 取材を続けていて感じるのは、三笘の責任感の強さだ。

 監督やチームに期待された選手は当然、誰でもその要求に応えたいと思うもの。三笘も、自らの力でチームを勝利に導きたいという気持ちは強い。だがチームは、国内リーグで6試合勝利がなく、パフォーマンスも低下している。

 三笘は、エースとしてチームの不甲斐なさに責任を感じているように見える。実際、普段の質疑応答で、三笘は以下のように語っている。

「(記者:チームがローテーション制を積極的に採用している中、三笘選手は先発から外れない。監督から全幅の信頼を寄せられているように見える) 監督から期待されていると思います。それに応えないといけない立場にあります。(先発で)90分間、試合に出されてる以上、もっと結果を出さないといけないと思っています」

「(記者:10月の代表戦は、合流前に風邪を引いて”辞退”となった。ただ日本代表の10月シリーズ後も、ブライトンで連戦のハードスケジュールが続いた。三笘選手としては、どのように準備してきたか) 10月に休みをもらったからこそ、コンディションが良かった試合もありました。だが、なかなか持続しないところもあり、課題が出ました。(自分の)実力がそのまま反映されているというか……。結局、チーム内で怪我人がたくさん出ている中で、チームが勝っていない。それが自分の実力と思っています。自分が、チームを助けてあげられていないところはあります」

(記者:まだ、この連戦に体が適応ができてないのか) 適応……そうですね。求められてる水準には達していないと思います」

“13時間超”の長時間フライト

 プレミアリーグは「世界最高峰」と呼ばれる。プレーレベルはもちろん、当たりの激しさ、攻守の切り替えの速さも特徴的で、極限まで体力を求められる。試合が終わると、選手の足に青あざが残ることが多いという。 

 実際に11月4日のエバートン戦で、三笘は右足首に激しいタックルを受けた。三笘はしばらく倒れ込んでいたが、ほどなく立ち上がってプレーを続行し、最後まで戦い抜いた。こうした過酷な試合を毎回続けていれば、開幕から3カ月経過した今の時点で、体が悲鳴をあげてもおかしくない。

 そしてもうひとつ、筆者が心配なのは日本への移動だ。平時なら、イギリスから日本への移動時間は、直行便で約11時間である。

 しかしロシアによるウクライナ侵攻で、各航空会社はロシア上空を迂回するルートを採用している。ある航空会社の場合、ロンドン→羽田路線がトルコやカザフスタン、中国上空を経由する「南回りルート」、羽田→ロンドン路線が北極上空を経由する「北回りルート」を採用しているという。結果として、平時に比べると3〜4時間ほどフライト時間が長くなり、欧州からの移動に片道13〜14時間を要する。

 帰国後、すぐに試合を行うサッカー選手の場合、こうしたフライト時間の延長は、コンディション維持の点で小さくない影響を与える。三笘のように体を酷使している状況では、影響はさらに大きくなるだろう。

負傷離脱は「起こるべくして起こった」

 日本代表の9月シリーズはドイツ(対ドイツ戦)とベルギー(対トルコ戦)で行われた。

 その9月シリーズ後、記者団から「日本への移動に比べると、体の負担はどれぐらい違ったか」と質問が飛んだ。三笘は「めちゃくちゃ楽でした。ドイツからベルギーに移ったが、それも大きな移動ではなかったですし。そんな負担にならなかったです」と答えた。

 極限まで体を酷使するプレミアリーグと、同時進行で欧州リーグをこなすハードスケジュール。そして、平時より3〜4時間ほど移動時間のかかる長距離フライト――。

 もちろん、W杯予選はホーム&アウェイ形式で行われることから、今後も日本への長距離移動は避けられないだろう。「それが日本代表ってもの」こうした意見もその通りである。

 ただ、直近の三笘のパフォーマンス、そして彼の表情から、疲労の色はハッキリと見て取れた。三笘の負傷離脱は「起こるべくして起こった」と、筆者はそう思わざるをえないのだ。

文=田嶋コウスケ

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