プロ野球の日本シリーズが幕を閉じ、ストーブリーグの熱も高まって来る12月。メディアで目につくのは盛者たちの輝かしい顔ばかりだが、その裏では最高峰の世界から去っていく選手もいる。

 38年ぶりの日本一に輝いた阪神タイガースの、高山俊と北條史也。ともにドラフト上位で指名され、虎の「顔」となることを期待された両選手も今季で縦縞のユニフォームを脱いだ。鳴り物入りで入団し、いまでもファンも多い彼らのプロ生活のリアルは、どんなものだったのだろうか?(前後編の後編・北條史也編/前編・高山俊編を読む)

 7月の鳴尾浜のウェスタン・リーグ公式戦。

 その試合、北條史也選手は代打からの途中出場になった。

 もともと選球眼の良い選手だ。ボール、ストライクのはっきりしたファームの投手相手に、あっさり四球をもぎ取った。打ってヒットになりそうもないボールには、見向きもしなかった。

 高校(現・八戸学院光星高)時代から、特に外の見極めには長けていた。

 逆に、そこからボール1つ中に入ったあたり、真ん中外めと言ったほうがわかりやすいか……そのあたりが「ツボ」だったように見えていた。

 そのコースを右中間方向へ運んでいくのではない。強靭なリストでバットヘッドを返して、レフト方向へ引っ張るバッティングだ。

 北條選手が高校3年(2012年)夏の甲子園大会。

 PL学園・清原和博選手の記録にあと1本に迫る大会4本塁打で一気に注目され、評価も上げた北條選手だったが、私の目には、そのうち3本は、バットの芯より先でミートしたように見えていた。バットヘッド付近でボールを捉え、リストを効かせて、レフトスタンドへ飛ばす。ビデオで何度も繰り返し見直しても、どうしてもそういうバッティングに見えていた。

 金属のノックバットで外野ノックをする場合、芯より先で、リストを効かせて引っ掛けるように打つと、遠心力が効くのかものすごく飛んでいく。メカニズムとしては同様の打ち方になる。

 金属バットの野球ならそれでもいいが、木製バットで同じ打ち方をしたら、どうなるか。折れたバットの山ができるのでは――と原稿に書いて、「そこまで言っては言い過ぎじゃないか」と、直されたことがあった。

 そうなる前に修正してくれるだろうと願う思いと、そうなった時の心配が正直、半分半分だった。

「坂本勇人二世」という報道のされ方も

 北條史也高校3年生の2012年は、八戸学院光星高の6年先輩の巨人・坂本勇人遊撃手が、絶対的ショートストップとしてバリバリ働いていた頃。この年マークした173安打、打率3割1分1厘は、ここまでの「坂本勇人MAX」となった。

 そういうタイミングだし、高校の後輩の遊撃手だけに、「坂本勇人二世」という報道のされ方をすることもあった。

「それが、ちょっと背負わせ過ぎだった」

 当時の北條選手を追いかけていたあるスカウトの方は、こんな率直な話し方をされた。

「バッティングもそうだけど、高校時代の坂本は、守備力で一枚も二枚も上だった。印象としては、北條の前の年の松本剛(帝京高、2011年日本ハム2位)のほうが坂本に似た感じだったし、バッティングも北條より素直な打ち方をしていた。でも、やっぱりフィールディングで坂本にはぜんぜんかなわない。そもそも、坂本二世なんて、そうそういないんだよ。あれから10年以上経ってるけど、トータルの能力で坂本を上回るショートなんて、出てきてないでしょ」

 同じ阪神で、慶應義塾大の強打の左打ちの外野手ということで「高橋由伸二世」と称された伊藤隼太外野手も、長いこと、その冠を重く感じていたと聞く。

 ウェスタン・リーグ、イースタン・リーグの試合結果を春からずっと追いかけていくと、夏場、オールスター戦明けぐらいからだろうか、出場しているメンバーに少しずつ異変があることに気がつく。

 春から夏にかけて、レギュラーとして出場していた選手たちが、徐々に控えに回ったり、代打、代走としての出場が増えてきたり……そのほとんどが、プロ入り5年から10年ほどの30歳前後の選手たちだ。

 以前、関係者の方から聞いた話によると、夏場の時期になんとなく戦力外選手の概要がチームから現場に伝えられ、ファームはそれに沿った選手起用になり、秋のドラフト指名の人数やポジションの振り分けも、その内容がアウトラインになるという。

 シーズン前半は外野のポジションについて上位を打っていた高山選手が、夏を過ぎるとDHでの出場が増えたり、二塁手、三塁手のレギュラーで出ていた北條選手が控えに回る試合が増えたり、他球団の場合もそうだが、この先の「何か」を予感させるような無言の「お達し」があるのも秋のプロ野球だ。

タイガース一筋11年の実績は「顔」になるのか

 先日、北條選手が来季から社会人野球の強豪・三菱重工WESTで、現役選手としてプレーするという報道に接した。

 阪神タイガースひと筋11年、一軍で455試合もプレーして、308安打も記録したが、その実績が「顔」になるほど、社会人第一線のレベルは甘くない。反面、30歳前後のベテランたちがものすごく元気に、チームの中枢となってプレーしているのも、今の社会人野球のリアルだ。

 彼らが、「北條史也」の引き出しの中身に強い興味を抱くことも多々だろう。働き場はいくらでもあるはずだ。

 高山俊、北條史也……共に、ドラフト上位で指名され、阪神タイガースの未来を担う人材として大いに期待されて入団した2人が、今季、ともに一軍に昇格することなく、プロ野球生活の幕を閉じた。

 この先、人生50年。野球界の頂上でボールを追い、華やかな舞台を味わい、技術に悩み、故障に苦しんだ10年ほどの時間を糧にして、人間としての真価が問われるのは、まだまだこの先だ。                            

文=安倍昌彦

photograph by JIJI PRESS