真冬の夜空は綺麗だった。昨年末、地元・大船渡で自主トレを行った佐々木朗希は遅い時間に練習を終え、真っ暗な中、帰路についた。学生時代から歩いていた道だった。なんとなく、空を見上げた。星が輝いてた。

「ここって、こんなに星が綺麗だったのかと思いましたね。本当に綺麗だった。特に冬って、いつも以上に綺麗に見えるじゃないですか。まさにそんな感じでした」

岩手の冬の夜空に…

 その時の光景を佐々木朗希はしみじみと振り返った。プロに入ってから、なかなかゆっくりと空を見たこともなかった。あらたまって立ち止まって、頭上を見上げると無数の星がキラキラと輝いていた。小さく輝いている星もあれば、強い光を放っている星もあった。子供の頃はよく見上げていた岩手の冬の夜空。何気ない、いつもの空だったが、特別に感じた。久しぶりに地元に帰り、そんな当たり前だったことをもう一度、思い返し、小さな幸せを感じた。

 短いオフを終え、1月30日に石垣島入りすると精力的に身体を動かす日々が始まった。寒い地域での自主練習を経て、今度は気温25度を超える夏日の石垣島でのキャンプイン。「5年目になりますけどコンディションもいい状態で迎えられたかなと思います」と充実した表情を見せた。

 オフは毎日、身体を動かした。それが佐々木朗希の恒例のオフの過ごし方だ。外食をする機会も少なく、遊びにでかけることもない。買い物に行ったのも数えるくらいだ。

「1月に入って休んだのは1回か2回ぐらい。毎日、身体を動かしていました。練習をしっかりとできたのでいい準備をしてキャンプインを迎えました」

描く明確なビジョン

 年末年始も元旦も身体を動かし、新たなシーズンに備えていた。

 5年目を迎える今季、吉井理人監督は「彼も5年目。ここまで3シーズン一軍で投げていて、どうやって開幕を迎えたらいいか、調整の仕方はわかっている。そこはしっかりと任せたいと思う」と、キャンプではある程度の調整を本人に一任している。

 佐々木朗希もそんな指揮官の期待に応えるべく明確なビジョンを描きながらキャンプをスタートした。「去年、一昨年と調整が早かったので今年は、しっかり身体作りをやって土台を作り、その中で少しずつ実戦に向けて調整していこうと思っています。自分のペースでやっていけたらと思います」と力強く語る。

 目指すは開幕ローテーション入りから、1年間フル稼働すること。すでに練習試合での最初の実戦登板日は指揮官より提示されており、そこから逆算した調整を自分の中で作り上げている。

夏場を見越した身体作り

「実戦はそんなに早く投げるわけではないので自分の感覚を大切にしながら徐々に球数を増やしていけたらなと思います。WBCがあった去年と比べて仕上がりを急ぐ必要はない。去年は急いで調整を進めて早め早めのピッチングで、完成させるために必死だったので、今年はじっくり丁寧にピッチングをして、いろいろ考えながら、試しながらやっていきたいと思います」

 昨年は夏場に脇腹を痛め、その後、体調不良のアクシデントにも見舞われた。規定投球回数の到達や、初の二桁勝利、奪三振などのタイトルも視野に入った中でのシーズン真っ盛りの離脱。悔しさは人一倍だ。あの苦い思いと、反省を生かす。毎年、夏場に入ると疲れが出始めることもあり、今年は鬼門でもある真夏にパフォーマンスを発揮できる身体作りを目指している。

「一年の土台となる身体の強さを作ることをオフからしっかりやってきたので、それをこれからも継続してやっていきます。今年はそれが去年より長く取り組めると思うので、続けていけば身体の強さだったりパワーだったりはおのずとついてくると思う」

増えた笑顔と漂う余裕

 キャンプでは例年よりリラックスした表情を浮かべる。プロ5年目、環境に慣れたこともある。「1年目は球場で緊張してホテルに戻ったら2人部屋ということもあって気疲れはありましたね。今はみんな1人部屋でいいですよね」と当時を振り返って笑う。このキャンプでもグラウンドに出れば佐々木朗希の一挙手一投足をメディアが追う。ファンも例年より多く訪れている。その中で笑顔を見せる。年下の選手たちとキャッチボールをしたり、アドバイスを送ったり、他愛もない話で笑う。宿舎に戻ると選手たちと卓球を楽しむこともある。心身ともに充実しているからこそ、余裕のある雰囲気が漂う。

 今年はZOZOマリンスタジアムでシーズンが開幕する。3月29日からのファイターズとの3連戦。2019年以来となるシーズンホーム開幕は、佐々木朗希にとってはプロ入り初だ。

「いつもビジター開幕だった中で、初めて開幕をZOZOで迎えるので、雰囲気も含めてすごく楽しみ。しっかりとその開幕カードで投げられればいいなあ、と思っています。そこに向けて準備していきたいなと思います」

開幕3連戦を照準に…

 このホーム3連戦で先発することを今年最初の目標に設定し歩を進めている。2月2日に今キャンプ初めてブルペンに入った。4日には2度目のブルペン。8日には3度目のブルペン。「感触はいい。指のかかりもいいと思う」と手ごたえ十分だ。

「そのときそのときの課題と向き合いながら投げるだけ。変化球に関しては実戦に入ってバッターの反応を見ないと正直分からない。その日その日によって違うこともあるので感覚を大切にしてやりたい」

 クレバーな右腕は、淡々としかし明確に今後のプロセスを決めている。

 世間がいつも注目をするのは球速。昨年、日本人最速タイの165kmを計測したことでこの数値を超える期待は高い。ただ本人はいたって冷静。「スピードは意識していない。結果として出るだけ」と話をするにとどめる。狙うは球速の追求ではなく、精度だ。昨年は.229(対右打者.255、対左打者.213)だった被打率をさらに下げる事を大きな目標の一つに掲げている。

「被打率は、もう少し下げたいですし、もちろん真っすぐだけでは、どうしようもないと思うので、変化球が大事になってくると思います。総合的にレベルアップしたいなと思ってます」

初日の出の力強い光に…

 今年1月1日、佐々木朗希は午前5時に起き、地元の海岸で初日の出を拝んだ。家族の提案で出かけた。初めての事だった。寒い中で待っていると雲の間から、かすかに光が差し込んだ。そして日が昇った。燦燦と輝く太陽に、息をのんだ。真冬でも力強い光を放っていた。雲が多く完全な姿は見えなかったが、光はどこか暖かく家族を包んでくれているようだった。2024年、一年の無事を願った。

 プロ1年目は一度もマウンドに上がることなく終えた。2年目はプロ初勝利を含む3勝。クライマックスシリーズ・ファーストステージでも先発をするなど大器の片鱗を見せた。3年目は完全試合を含む9勝。順調に階段を昇ってきた。その中で迎えた4年目は故障もあり7勝。プロ入り後初めて、思い描いていたものとは違う一年で終わった。

 捲土重来。昨年の反省を胸に強い気持ちで挑むシーズンがまもなく始まる。日本中の野球ファンがそのマウンドさばきを見ている。メディアの注目度はさらに上がっている。誰もが期待をする中、期待以上のパフォーマンスをみせる男。それが佐々木朗希なのだ。真冬の星のように美しく、新年の太陽のように力強く。マリーンズの背番号「17」は24年、これまで以上の躍動した姿を披露する。

文=梶原紀章(千葉ロッテ広報)

photograph by Chiba Lotte Marines