近年、高校球界で着実に力をつけている鹿児島・神村学園。チームを率いる小田大介41歳は、あの伝説的ドラマ『スクール・ウォーズ』の影響を公言する熱血監督だ。そんな小田監督は、昨夏、「サラサラヘア」「エンジョイベースボール」で衝撃を与えた慶応をどう見たか。寮生活やスマホ使用のルール、球児の髪型についてNumberWebのインタビューで明かした。<全3回の3回目/第1回、第2回も配信中>

――昨年夏、慶応と仙台育英よる決勝は「両チームとも笑顔で野球をやっていた」というのも話題になりました。慶応の「エンジョイベースボール」というキャッチフレーズは、やや誤解を生んでいる気もしないでもないのですが、小田さんはどう捉えていましたか。

小田 笑顔……いい表情で野球をしようとは言いますね。怖い顔をしていたら、必然的に肩に力が入ってしまうので。エンジョイベースボールとは言わないですけど、僕が使うなら、一生懸命勝負を楽しもう、という言い方ですかね。

「脱丸刈り」ムードに本音

――母校の亜細亜大学はすごく厳しいイメージがあるんですけど、亜細亜大学時代はどうだったのですか。笑ったりしたら、怒られたのでしょうか。

小田 そこは厳しく指導されましたね。公式戦はそんなことないんですけど、練習中はそういう表情が出ていたら厳しく言われたこともありました。僕の中では、練習は厳しく、公式戦は楽しくというのは今も変わらないですね。

――慶応のサラサラヘアもインパクトがありました。「脱丸刈り」のムードは、どう受け止めていたのですか。

小田 そこは、いつも聞かれるんですよ。まず自分たちは全寮制なので、髪の毛を切りに行く時間がなかなかないんです。それにお金もかかる。

――寮のある野球部の指導者は、それをよく言いますよね。近くに床屋や美容院がないから大変なんだ、と。

小田 そうなんです。時間もかかるし、お金もかかるのなら、3000円かかるカット代を栄養の足しにした方がいいんじゃないかと思ってしまうんです。逆に髪の毛を伸ばすことのメリットって、何なんだろうと思ってしまうんですよね。

「チームとして、好んで坊主にしているのに…」

――髪型を自由にしても、結局、楽なので寮内で自分たちで丸刈りにしてしまうという話も聞きますよね。

小田 勝負の世界って、そんなに甘くないので、気持ちが見た目に行き始めるなら……と思うんですよね。古いと言われようとも、別に今、伸ばす必要もないだろう、と。彼ら自身もそういう気持ちでいますから。勝負どころは自分たちで五厘にしたりして。去年の夏も準決勝で仙台育英に勝ってたら、次の日、五厘にしていたと思います。向こうの山から決勝に上がってくるのは慶応か土浦日大だったじゃないですか。両校とも長髪なので、あいつらはその腹づもりでした。チームとして、好んで坊主にしているのに、なんでそれをみなさんはダメだって言うんでしょうか。

――学校の校則などで「学業に関心を向けるため」という理由で髪染めやパーマを禁止しているところもあるので、野球に集中するために丸刈りにしていると言ってもよさそうなものなのに、そうはっきり言うチームはあまりいないですよね。根拠があるなら、いいはずですよね。

小田 みなさんがダメだ、ダメだって言うからじゃないですか。

――おそらく丸刈りを強制するのはどうかと言っているだけで、丸刈りがダメだと言っているわけではないのですが、そういう雰囲気になってしまっているんでしょうね。

小田 なんか、そう聞こえますよね。この子たちはそれだけ野球にかけてるわけだし、五厘もこっちが強制しているわけじゃない。だったら、それも個性だし、それを尊重してやるのが自主性だと思うんですよね。

スマホの使用ルールは?

――全寮制ということでしたが、選手たちの携帯電話の取り扱いはどうしているのですか。

小田 持つのはOKです。でも、寝る前には回収しています。大人もそうですけど、携帯があるとつい触っちゃうじゃないですか。寝るときも持っていたら睡眠時間も妨げられるし、視力も悪くなる。いいことは何もないと思うんです。ただ、大会の時は、一切使わせないようにしています。

――大会中は、使える時間というのも設けていないわけですね。

小田 絶対に触らせないです。試合に集中させたいので。携帯を触る時間があるぐらいなら体のケアをして欲しいし、相手の研究をしてもらいたいし、自分の練習をして欲しい。あと、情報がどこから漏れるかわからないというのもあります。それぐらいかけてやっていい期間だと思うんですよ。勝てば、自分の人生を変えられるかもしれないわけですから。高校スポーツの勲章って、いろいろあるじゃないですか。全国大会に出たとか、インターハイに出たとか。でも、甲子園に出たというのが、いちばんインパクトが強いと思うんです。その夢をつかめるチャンスって、人生の中で5回しかない。だったら、その夢をつかむために最善の取り組みをしようと。携帯電話がどうしても必要なら使わせますけど、そうでないならそのぶんの時間は野球に使おうよという判断ですね。

卒業生全員「大学でも野球」

――神村学園はもっと大所帯の野球部なのかと思っていたのですが、そうでもないんですね。

小田 うちは1学年あたり15人から20人くらいですね。寮のキャパがそれくらいなので。あと、僕が預かった子はできる限り大学や社会人でも野球を続けて欲しいんです。進路指導を考えると、これくらいの人数が限界だなという理由もあります。今年卒業する3年生は15人しかいなかったのですが、15人全員、大学で野球を続けてくれるんです。

――全員、硬式野球ですか?

小田 はい。例年だと1人、2人は、もう野球はいいですという子もいるんですけど、神村の教え子は比較的続ける子の方が多いと思います。

センバツと夏、何が違う?

――あと、これも少し意外だったんですけど、割と県内の選手も多いんですね。メンバーのうち、半分くらい鹿児島出身ですもんね。

小田 これは絶対、書いて欲しいくらいなんですけど、県内の子もすごく大事にしています。ちょっと広く言えば、九州の子たちで勝ちたい。ただ、もちろんですけど、こんなやつのところに来てくれるわけですから、どこ出身だろうと同じように大事にしますよ。

――昨夏の甲子園ベスト4のメンバーが多く残る今年、感触はいかがですか。

小田 春と夏では、考え方がぜんぜん違いますね。僕の中でミスと失敗は区別していて、取り組みや考え方で防げたものがミス、いずれ成功の糧となるものが失敗だと言っているんです。新チームがスタートしたばかりのときはミスも失敗もOKだよと言っています。春は一歩進んで、失敗はいいけどミスは許されないよ、と。夏は最終段階なので、失敗もミスも許されません。だから選抜は、まだ完璧なチームをつくって、完璧なゲームをしようと思わんでいい。チームをつくって半年以上経っているのでミスは許されないけど、失敗はするから、次につながるような試合をしてきなさいと言っています。

文=中村計

photograph by Sankei Shimbun