ラップ部、ボイパ部、お笑い部、クッキング部、植物部、英語部、ソウマGYM部。これらは第96回選抜高等学校野球大会(以下、センバツ)に出場している千葉県の中央学院高校硬式野球部の『部内部活』だ。こうしたユニークな手法を利用してチーム作りを進め、甲子園初勝利と上位進出を目指している。

 ノリノリのクラブミュージックに乗せてパーカー、ジャージ、サングラスを身につけた選手たちが髪をなびかせて踊る。

 場内からはリズムに乗せて拍手が送られ、やりきった後には大きな声援が拍手とともに送られた。さらに、その後にはボイパ部によるボイスパーカッションを利用したアカペラ歌唱が行われ、お笑い部のショートコントで場内は爆笑の渦に。

 トリを務めたラップ部は途中でリズムをとり損ねてしまう場面もあったが、微笑ましく見守る保護者や関係者、そして相馬幸樹監督の姿があった。

 これらは皆、センバツに向けた中央学院高校野球部後援会による壮行会でのひとコマだ。楽しそうな選手たちの姿とともに印象的なのは「練習の成果」が窺えるクオリティーの高さだ。

野球とは一見、関係ないようだが…?

 一見、野球とはまったく関係ない『部内部活』にこれだけの力を入れる理由は何なのか。相馬監督に聞いた。

「“野球だけやっていても上手くならないよ”という思いがありました。それに“野球の上手い・下手で序列作らないで欲しい”という思いもありました。部内の交流が活性化して、オフの日とかに、そのグループで遊んで仲良くなるんじゃないかなって」

 昨夏の県5回戦敗退後に始動した新チームでの夏合宿で相馬監督から突如発表されたこの試み。「最初は何を言っているのかさっぱり分からなかった(笑)」(英語部・生駒陽)と選手たちも戸惑ったが、今では大好評だ。

「野球に集中するだけでなく、楽しく明るくできています」(生駒)

「同学年ではもともと仲が良かったのですが、違う学年の選手たちとの交流がとても増えました」(英語部・中村研心)

「PLチャーハン(※PL学園高校野球部の寮で代々作られていたチャーハン)を超える最強のチャーハンを目指しています。野球以外のことにも本気になれる良い取り組みだと思います」(クッキング部・颯佐心汰)

髪型自由、恋愛推奨、週休2日…独自のスタイル

 もともと中央学院は相馬監督が就任した2007年以降、足を揃えたランニングではなくダンスでのウォーミングアップ、夜遅くまでの練習よりも睡眠時間の確保、髪型の自由化(校則の範囲内)、恋愛自由・推奨(部内恋愛は禁止)など、早くから高校野球界に残る古いしきたりや不要な慣習は排除していた。

 そこにこの代からは、部内部活の発足に加え、11月から1月の期間の「週休2日」導入。強豪校の多くが週休1日としている中で思いきった改革に出た。「選手にとって休養は栄養」と、中身の濃い練習やトレーニングができる日を増やした。

 特にフィジカル強化には力を入れ「どこにも負けないフィジカルモンスター集団になろう」がチームの合言葉だ。野球の技術向上に繋がるのはもちろんのこと、体や数値の変化により目に見えて効果や本気度が分かりやすく、成長のためのシナリオ作りや指導のフィードバックにも利用しやすいメリットもある。

 こうした中で特にソウマGYM部所属(※監督とともにウェイトトレーニングに励む部)で、大型右腕かつ打撃でも期待される蔵並龍之介は順調に数字を伸ばしており「監督は僕たちよりも重いウェイトを上げるので負けてられません」と笑う。

 こうした相馬監督の柔軟な発想や取り組みは現役時代の経験が大きい。

 市立船橋高時代に当時の小林徹監督(現習志野高監督)が夏の大会敗退後に突然スイカ割りを提案。「凄く楽しかった。その後から地獄(の練習)が始まりましたが、チームはそこから夏の県大会を3連覇したんです」と原体験になった。また、大阪体育大時代はこの『部内部活』の元となるような月1回の映画鑑賞を目的とした「映画の会」を部内で自ら発足させていた。

 そして社会人野球のシダックスでは、練習は主に午前中から昼すぎのみで自由時間が多かった。競争は激しかった一方で、遊びも全力だった。チームの絆は深く「主力から裏方に回った選手まで、誰もが勝利を喜べるチームでした」と振り返る。

「苦しむだけが方法なのかな?」

 上位進出が予想されながらも昨夏に5回戦敗退を喫したことで、何かを変えなければと思った際に、その記憶が蘇った。

「なんか限界を感じたんですよね。“結果を出したい時に苦しむだけが方法なのかな?”って。思いきり緩める時が無いと、思いきり猛練習できるようなスイッチが入らないんじゃないかと思いました」

 こうした経験から、無理に指導者がチームワークを作ろうとするのではなく「遊びのグループワークが欲しいと思いました」と部内部活を、闇雲に練習量を増やすのではなく「猛練習できる日を増やしたかった」と週休2日を取り入れるチーム改革に打って出た。

 選手たちに常々伝えているのは「俺らがこれを正解にすれば、これが高校野球のスタンダードになる」ということだ。その正解の示し方は、センバツで1つでも多く勝ち上がることだ。

 目標は6年前に春夏ともに果たせなかった甲子園初勝利ではない。高校野球を変革するための「日本一」だ。

文=高木遊

photograph by Yu Takagi