今春のセンバツの初戦の愛工大名電戦。愛工大名電・伊東尚輝。報徳学園・今朝丸裕喜の先発両右腕の投手戦は引き締まった展開となったが、試合を盛り上げたのは報徳学園の再三にわたる好守備だった。

「その打球もアウトにするのか」と、見る者がため息をついてしまうほど堅い守備が何度もチームの窮地を救った。

 準優勝した昨春のセンバツでも、遊撃手の竹内颯平(神戸学院大進学予定)を中心とした堅い守備が印象的だった。

ラグビー部や陸上部と共用のグラウンド

 春夏計38回の甲子園出場を誇り、春は2度、夏は1度全国制覇の経験があるが、報徳学園には野球部の専用グラウンドはない。練習場は、校内にあるグラウンドだ。

 内野はきれいな黒土だが、外野に視線をやると全国大会常連のラグビー部や陸上部の部員が走り回る光景が目につく。外野ノックは特に制限を設けている訳ではないが「外野ノックを打つ時はラグビー部員など他の部員がいる場所にいかないように気を遣っています」という。

 いわゆる“学校の部活”という光景が広がる報徳学園の練習場。もっと言えば、室内練習場も野球部専用バスも所有しない名門校は、全国でもおそらく稀だろう。

 “グラウンド”とはいえ、野球部としての練習環境で言えば決して恵まれた方ではない。

 そんな環境下での守備練習で工夫していることはあるのか――。

決して恵まれた環境でない中で「鉄壁」の理由は…

 大角健二監督は、守備練習について以前こんな理由を明かしてくれたことがある。

「監督になって近畿大会に出場するようになった頃に感じたことがあるんです。兵庫県の大会だったら捕球できても、大阪桐蔭や智弁和歌山のようなチームの打球はなかなか捕りきれない場面が何度もありました。もっと難しい打球のノックを繰り返すことで、球際に強い守備陣を作らないといけないと思いました」

 兵庫県内には強打のチームが他府県に比べると比較的少なく、強い打球を捕球することが少なかった。

 だが、県を飛び出すと打力の高いチームと相対することで、四苦八苦する試合が続いたのだという。“普通のノック”を繰り返すだけでは近畿、いや全国でも通用しない。

 そこで冬季の練習に「特守」を取り入れた。週に5日、ベースから際どい箇所にノックを打ち続けるメニューがある。1人につき約20分、その特守を受け続けるのだが、選手たちにとってはその20分間が長く感じるほど過酷なメニューなのだという。

 大角監督のノックのテーマは「“守備足と球際”だ」。

 とにかくコーナーぎりぎりに、際どい位置にノックを放ち、いかに連続して捕球できるか。二塁へ、三塁へ打たれるノックの速度は「速い方かもしれません」と大角監督は苦笑いするが、昨春センバツでの竹内の機敏な動きを見て、さらに球際への意識が強くなったという。

「捕りやすい打球を捕球できても、うまくはなりません。厳しい、捕球しにくい打球をいかに確実に捕れるか。竹内は決して足が速い方ではありませんでしたが、“守備足”は速かった。そういう感覚も身につけてもらいたいです」

 報徳学園の内野ノックはとにかく“明るい”。4カ所のポジションから複数の野太い声が交差し、その間を打球が駆け抜けていく。真っ白な練習着がやがて土の色に染まり、疲れるどころかヒートアップした選手たちの声がさらに強くなり、熱気がこもっていく。

 伝統校の堅守……と言えばそれまでだが、前チームから野手がほとんど入れ替わった現チームは、まさにゼロからのスタートだった。特に二塁手の山岡純平と遊撃手の橋本友樹はまだ新2年生で随所に“若さ”を見せがちだが、橋本に関しては昨夏の県大会でもベンチ入りしており、当初から守備力の高さを買われていた。

昨年はセンバツ準優勝。今年は…?

 今年のチームは前チームに比べ、全体的に小粒な部分は散見されるが、冬場の「特守」の成果をセンバツの初戦で早速発揮し、あまり脆さを感じさせなかった。

 昨春センバツでも好守備を見せた三塁手の西村大和に関して大角監督は「スローイングの正確さはチームでトップクラス」と全幅の信頼を寄せている。

 打撃力は決して高い方ではないと目される今年の報徳学園だが、堅い守備力は今大会でもずば抜けている。

 守備で“攻めた”試合運びで、昨春センバツのリベンジとなるのか、さらに目を奪う華麗な守備をこの春もっと見てみたい。

文=沢井史

photograph by JIJI PRESS