昨年まで2年連続最下位に終わるも、今季はセ・リーグの首位をひた走る中日ドラゴンズ。昨年秋のオフ、旧知の記者・喜瀬雅則氏に語った立浪和義監督の2024年シーズンへの覚悟とは? 4月17日発売の『中日ドラゴンズが優勝できなくても愛される理由』(光文社新書)より、インタビュー内容を一部抜粋してお届けします。(全3回の第1回)
野手41人中30人が「新しい血」
ここで、中田翔の加入による驚きのデータを紹介しよう。
支配下、育成含め、2024年に向けての野手の陣容は、中田を含め計41人となった。
このうちの30人が、入団3年目以内の若手、あるいは2022年からの立浪政権下で移籍してきた選手になる。
つまり、野手の「7割強」が、ガラッと入れ替わったことになるのだ。
2011年、リーグ連覇を果たしながら監督8年目の落合博満が退任。以来、中日は優勝から遠ざかり、2023年までの12シーズンでAクラスはわずかに2度だけ。立浪が監督に就任した2022年から、球団史上初の2年連続最下位に陥っている。
中日での優勝を経験した現役選手が、野手では38歳の大島洋平、投手でも35歳の大野雄大の二人だけになってしまった。
こうなってくると、妙な“負け癖”がついてくる。
京田、阿部のトレード断行の背景
首脳陣がいくら自己犠牲やチームプレーの重要性を説こうとも、それがチームの成績に繋がらないという空しさゆえに、個人のパフォーマンスにそれぞれの関心が向いてしまうのは、この世界の常でもある。
「勝つために」という発想に、どうしても至らなくなってしまうのだ。
2022年オフ、レギュラーの遊撃手だった京田陽太はDeNAの左腕・砂田毅樹(よしき)と、二塁手の阿部寿樹は楽天の右腕・涌井秀章と、それぞれ交換トレードが断行された。
京田は2017年、中日では川上憲伸以来となる19年ぶりの新人王。2年目の2018年は143試合、コロナ禍の2020年も120試合のチーム全試合出場。ルーキーイヤーからの6年間で700試合に出場を果たしていた、新たなる「中日の顔」だった。
阿部も、プロ4年目の2019年に129試合出場、打率.291でセ打撃成績10位。2022年も133試合出場。チームの核ともいえるセンターラインの2人を放出したのだ。
チームへの自己犠牲
2人の実績と持てる能力は、その数字が物語っている。
ただ、周囲の証言を集めてみると、どうしても“自分本位のプレー”が目についたのだという。例えば走者二塁なら、右方向に打って二塁走者を進塁させる。そうしたチームプレーの要素がどうしても欠けてしまったのだ。
勝つチームなら、その自己犠牲が報われる。チームが弱いと、その気持ちがどうしても失せてしまう。まさしく負の連鎖、悪循環が止まらなくなるのだ。
正直に言えば、1年遅れたな
立浪は、監督になることが「自分の次の目標だった」という。
2009年の現役引退後、他球団から指導者としての誘いもありながら断り、まさしく初志貫徹。監督として、中日に帰ってきた「ミスター・ドラゴンズ」にとって、チームリーダーともいえる2人のプレーから“チームへの思い”が感じられなかったのが、歯がゆくて仕方がなかったのだ。
その負け犬根性を、何としても払拭しなければならない。
「1年目、2年目が終わって、ずっと最下位ですから、理由はどうあれ、やっぱり結果の世界なんでね。言われることはホント、当たり前だと思う。当然監督って、誰でも勝ちたいんですよね。ただ1年目をやらせてもらった時に、ずっと低迷しているレギュラー陣を、自分は変えないといけないと思ったんです。結局、ほぼ、2024年で入れ替わるような感じですね。でも正直に言えば、1年遅れたな、というのが自分の中ではあるんです。だから、2024年から、ホントに“新たなドラゴンズ”が始まっていくかな、という風には思っているんです」
2024年、覚悟の長距離砲連続獲得
京田と阿部を放出し、2022、23年ドラフトでは6人の内野手、それも二遊間の選手を獲り、激しい競争原理を働かせた。2024年へ向け、中田以外の野手でも前巨人・中島宏之、前ソフトバンク・上林誠知(せいじ)、前阪神・山本泰寛、板山祐太郎の4人も補強した。
中日の弱点は「打」にあることは、数字が物語っている。
繰り返すが、2023年のチーム打率2割3分4厘、チーム得点390、チーム本塁打71はいずれもセ・リーグ最下位。特に390得点は同リーグ5位の広島を103点も下回り、トップの阪神には165点もの大差をつけられている。
だからこそ、勝負強さを誇る長距離打者は最優先の補強ポイントだった。
中田は日本ハム時代に10年連続100試合以上の出場を果たし、3度の打点王。2023年までの通算303本塁打は、西武・中村剛也(471本)に次ぐ現役2位の数字だ。
中島は通算1928安打。直近3年間での得点圏打率は3割を超えている。
上林もプロ4年目の2018年、143試合すべてに出場し、打率.270、22本塁打をマークした。その後の成績こそ伸び悩んでいるが、一時期は“柳田二世”とまで呼ばれたポテンシャルを誇るだけに、新天地での覚醒に期待がかかる。
反撃への態勢は、整いつつあるのだ。
<つづく>
文=喜瀬雅則
photograph by JIJI PRESS