事の経緯は定かではない。ただ、練習の合間のような偶然でもない。侍の3人は、おそらく互いに連絡を取り合い、示し合わせたかのように、グラウンド上で再会する貴重な時間を共有した。

約15分間にわたる「三者会談」

 ドジャースの本拠地ドジャースタジアムで行われた「ドジャース―パドレス」3連戦の2日目となった4月13日。曇り空の下、右翼付近に姿を現したパドレスのダルビッシュ有をみとめたドジャースの大谷翔平、山本由伸は、満面の笑みを浮かべつつ、三塁側ダッグアウトから小走りで駆け寄り、先輩のもとへあいさつに訪れた。にこやかに出迎えたダルビッシュに対し、帽子を取って深々と頭を下げ、握手を交わすと、昨年3月のWBCでも一緒に戦った3人は笑みを絶やすことなく、約15分間にわたって談笑した。

 両軍の直接対決は、3月20日、韓国・ソウルで開催された公式戦の開幕シリーズ以来だったものの、公の場での「スリーショット」は今季初めてだった。前日12日に山本が登板し、翌14日には「ダルビッシュVS大谷」が再現される予定でもあり、ちょうど「間の空いた」1日だった。

ダルビッシュが語る大谷の変化

 3人の会話の詳細は、知るよしもない。だが、14日の登板後、ダルビッシュは、素直な思いを口にした。同地区の宿敵ドジャースに所属するとはいえ、年下の後輩達と屈託なく話す機会は貴重だった。

「楽しかったですね。大谷くんもやっぱり結婚されて、いろいろ肩の荷が降りたじゃないけど、多分隠さなくていいところが増えたと思うし、だからすごく明るい感じもします。いろんなこと、今はあると思いますけれども、その中でも野球に集中して、なんていうのかな、笑顔で前向きにやっているのを見ると自分も元気になるので、山本くんもそうですけれども、話せてよかったです」

再戦の第1打席は三振

 迎えた14日の3戦目。

 ダルビッシュは、左打席で悠然と構える大谷の姿を、特別な思いで見つめていた。立ち上がりから本来の調子には程遠かった。それでも、第1打席の3球目に最速95マイル(約153キロ)をマーク(結果はファウル)したのは、より力を込めた大谷の打席だった。

「ずっと今まで、(宿敵は)ドジャースって思っていたところが、やっぱり大谷くんと対戦するところであったり、すごくモチベーションをやっぱり感じているところなので、それがこういう結果になっちゃうというところだと思います」

 状況は無死二塁。安打のみならず、進塁打すら打たせたくない。結果は、内角ヒザ元へ食い込む時速93マイル(約150キロ)の高速カットボールで空振り三振。互いに目を合わすことなく、プレーは続いた。

第2打席でボール球を振った大谷に対し…

 3回2死走者なしで迎えた第2打席は、内角を意識したダルビッシュの丁寧さが裏目に出たのか、カウント3―0となった。それでも、大谷は意図したかのように、積極的にバットを振ってきた。空振り、ファウルでフルカウント。最後は抜け気味のスプリットでタイミングをずらし、力ない三飛に打ち取った。

「とにかくフォアボールだけは嫌というところだったので、それがスリーボールになって、(4球目に)ボール球を振ってくれて、わざとだと思うんですけど。でも、なるべくストライク投げるようにということだけ集中はしました」

 オールスターなどの「宴」であればともかく、同地区の宿敵相手の公式戦。ピンチを回避するうえで、四球で歩かせていいケースもある。それでも、ダルビッシュと大谷は互いに、ファンが望まない結果で終わらせるつもりはなかった。実際、凡退してダッグアウトへ向かう大谷に対し、ダルビッシュはすれ違いざまに声をかけた。

「ボールばっかりで申し訳ない」と謝罪し、試合後は「もっと気持ち良くストライクゾーンに行きたかった」と、その場面を振り返った。

第3打席は空振り三振

 だからこそ、第3打席は徹底してストライクゾーン内で勝負した。スライダー、カットボール、速球、スプリットと異なる球種を続け、最後は外角寄りのカットボールで空振り三振。特別な相手に、特別な思いを胸に、全「18球」を投げ込んだ。

 日本ハム時代の終盤、無敵の状態で投げ続けた末、より高いレベルを求め、海を渡った。そんなダルビッシュが37歳となった今季、同じ背番号「11」の後継者だった大谷が打席に立つと、感慨深い思いは自然とわき起こった。

大谷との対戦でわき起こった思い

「今までなかったですね、基本的には。日本の時とかありましたけど、米国に来るとやっぱりそういう機会があんまりないですし、対戦機会も少ないですから。そういう感情っていうのはなかったですけど、やっぱり大谷くんが来ると、日本にいた時をちょっと思い出すというか、個々の対決の楽しさを思い出させてくれると思います」

 韓国での初対戦では2打数1安打、そして今回は3打数無安打2三振。ただ、今のダルビッシュが、結果だけにこだわっているとも思えない。

 今季、両軍の直接対決は残り3カード8試合。

 同地区のライバルとしての戦いだけでなく、互いを強烈に意識し合う「ダルビッシュVS大谷」の力勝負は、今後、球史に刻まれる名勝負になりそうだ。

文=四竈衛

photograph by JIJI PRESS