日本代表の右ウイングとして長年プレーしてきた伊東純也が、スタッド・ランスで安定した活躍を見せている。この貢献度、さらには日本での週刊誌報道を受けての現状について現地在住記者はどう見ているか。率直な印象とケーススタディをNumberWebにて記してくれた(翻訳:井川洋一。全2回の第2回/第1回も配信中)

 伊東純也がアジアカップの途中に日本代表を離れた後、スタッド・ランスでの復帰戦の相手となったFCロリアンには、バンジャマン・メンディが所属している。現在31歳の日本代表右ウイングと、2018年W杯優勝時のフランス代表に名を連ねていた現在29歳の左サイドバックは、同じサイドで対峙した可能性もあったが、メンディは今夏に加入した新天地でコンディションが整わないため、ベンチにも入らなかった。

「容疑が晴れた今、問われるのはスポーツ面の功績だ」

 伊東もメンディも、女性からほぼ同じケースで訴えられた選手だ。前者はフランスのスタッド・ランスに所属している時に、後者はイングランドのマンチェスター・シティに在籍している時に、それが明るみになった。

 伊東はまだ刑事告訴されているだけで、検察官から起訴されているわけではないが、メンディは7件の強姦と1件の強姦未遂、1件の婦女暴行で起訴された。2021年8月にこれらが決定すると、シティはすぐに彼を出場停止処分に。選手側はすべての犯行を否定し、2度の裁判の末、およそ2年後に無罪となったが、シティはメンディとの契約が満了した2023年6月に彼を放出。このレフトバックが最後にシティでプレーしてから、685日が経過していた。これといった声明がなかったのは、時の流砂に選手と事件を埋もれさせようとしたかったからだろうか。

 シティを離れた6日後、メンディはロリアンと2年契約を結び、フランスに戻ってきた。クラブは「容疑が晴れた今、問われるのはスポーツ面の功績だ」としている。ホームスタジアムの近くの壁画には、「ここにレイピストはいない。フットボールの世界には、明らかにされるべきことがもっとある」とメッセージが書かれている。

南野のモナコ同僚は身柄拘束→出所後に2ゴール

 リーグ・アンにはそのほかにも、同じような疑いを持たれながらプレーしている選手がいる。

 モナコの元フランス代表FWウィサム・ベン・ヤーデル――南野拓実のチームメートだ――は昨年8月、強姦、強姦未遂、婦女暴行の容疑でニースの検察官から起訴され、丸2日間、身柄を拘束された。選手側はすべての罪状を否定し、クラブも公式コメントこそ控えているものの、一貫して選手をサポートしている。

 ベン・ヤーデルは90万ユーロの保釈金で出所した3日後、敵地でのクレルモン・フットとの開幕戦にキャプテンマークを巻いて出場し、2ゴールを奪って4−2の勝利に寄与。直後にアディ・ヒュッター監督は、主将について次のように話した。

「彼は見事なリアクションを見せた。私の仕事は、最高の選手をピッチに送り出すことであり、ウィサムもそのうちの一人だ」

ドーバー海峡を隔てただけで扱われ方が大きく異なる

 パリ・サンジェルマンに在籍するモロッコ代表SBアシュラフ・ハキミも同様だ。およそ1年前にフランス国内で女性に告発され、検察から起訴されているが、所属クラブは選手側についている。

「このクラブは、容疑を完全に否定し、司法制度にすべてを委ねている当該選手をサポートする。PSGはピッチの内外で敬意を推進する組織である」

 ハキミは昨年12月、捜査の一環で告発した女性と対面するため、その日のトレーニングを休んだが、チームでは完全なるレギュラーのままだ。

 ベン・ヤーデルもハキミも検察から起訴されたが、メンディのように所属クラブから干されることはなかった。このように同じ欧州でも、ドーバー海峡を隔てただけで、物事の捉えられ方と扱われ方が大きく異なるケースがある。

 メイソン・グリーンウッドの件も、国が違えば、違った経緯を辿っていたかもしれない。マンチェスター・ユナイテッドの下部組織が送り出す最新の傑作と謳われ、10代の頃から両足で鋭いシュートを四隅に蹴り込んでいた早熟の天才は、2022年1月を最後にイングランドのピッチから姿を消した。

 強姦未遂などの容疑は、当時の恋人がSNSに掲載した写真が発端となったものだったが、クラブはすぐにグリーンウッドを出場停止とし、マンチェスターの警察は逮捕に踏み切った。20歳だった彼が復帰したのは、1年半以上が経った後、今季から期限付きで加入しているスペインのヘタフェでのことだった。昨年2月に捜査が打ち切られ、今季開幕前に生まれ育った街とクラブをひっそりと後にしたのだ。初挑戦のラ・リーガでも、ここまで26試合に出場して6得点5アシストを記録している。

女性の声も、聞き入れられるべきなのです

 メンディもグリーンウッドも、イングランドでは捜査中に活動を禁じられ、容疑が晴れた後は他国でプレーを続けている。

「ある種の人々は、退場を強いられて然るべきでしょう」と現地メディアにコメントを寄せたのは、匿名希望の女性活動家だ。

「表向きには、フットボール的な決断としていますが、この問題はスポーツにとどまりません。女性の声も、聞き入れられるべきなのです」

 そう話した彼女の属す団体『グリーンウッドの帰還に反対する女性ファン』は、当該選手の容疑が晴れた後、彼のユナイテッドへの復帰に反対し、クラブに期限付きでの放出という決断を促している。

伊東は“被害者”として警察のお世話になったが

 一方、今年2月にユナイテッドの株式の25%を取得し、スポーツ面を取り仕切ることになったジム・ラトクリフは次のように語った。

「(グリーンウッドについて)決断されたことは何もない。今はそのプロセスにあり、それは理解されなければならない。多くの事柄を精査し、人々の意見を聞き、その上でフェアな決断を下す必要がある。基本的には、彼が良い人間かどうか、についてだ。そして彼がマンチェスター・ユナイテッドで真摯にプレーし、我々とファンがそのことに納得できるかどうかだ」

 おそらくフランスであれば、問題にはならないだろう。しかしイングランドでは、簡単ではなさそうだ。

 ちなみに伊東は、同胞である中村敬斗のゴールをアシストするなど活躍を見せている一方で――最近、フランスの警察の世話になった。ただ、それは留守中に空き巣に入られたからだった。

 リッチなフットボーラーが窃盗の被害に遭うのは、フランスやイングランドでは珍しいことではない。ただし自宅にいない時だったのは不幸中の幸いだろう。不運な場合、本人や家族がいる時に強盗に入られるケースもあるからだ。<第1回からつづく>

文=イアン・ホーリーマン

photograph by Daisuke Nakashima