2023ー24年の期間内(対象:2023年12月〜2024年4月)まで、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。スポーツ総合部門の第4位は、こちら!(初公開日 2024年2月20日/肩書などはすべて当時)。

スキージャンプ高梨沙羅(27歳)、NumberWebの独占インタビュー。スキージャンプに集中するため、スロベニアで暮らす彼女はどんな毎日を送っているのか。24時間の時間割を明かす。【全2回の前編/後編も公開中】

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 高 梨 沙 羅

 と聞いたら、あなたは一体どんなイメージを思い浮かべるだろう。

《スキージャンプ女子のパイオニア》
《北京五輪での失格騒動、涙のジャンパー》
《SNSにオシャレなスナップを投稿するインフルエンサー》
《女子高生と環境問題について議論する意識の高い活動家》

 どれも間違ってはいなさそうだし、他にももっといっぱいありそうな気がする。

「どんなときにお酒を飲む?」

 例えば、高梨沙羅にお酒をくっつけたらどうだろう。どんなイメージが浮かぶだろう。

 6月に放送されたスロベニアでの高梨の生活に密着したテレビ番組では、彼女がお酒を楽しむ姿が映し出されていた。隣国のイタリアのスーパーマーケットまで車を走らせ、ワイン樽サーバーからマイボトルにとくとくと白ワインを注ぎ入れる。それを家に帰って楽しそうに飲む高梨沙羅。なんだか新鮮だった。

 そんな話を少し聞いてみる。

――どんな時にお酒飲むんですか?

「試合終わった後は選手たちで一緒に飲んだりするんですよ」

――シーズン中も?

「連戦中は飲まないですけど、一息ついて2週間は試合がないって時は飲むこともあります。あとは誰かが勝ったとか、誕生日のようなお祝い事の時ですね。そんなに強くはないので、量は飲まないです」

――普段は体重調整など細かく意識してると思いますが、お酒が入るとむくみそうですよね。

「私、逆なんですよね。ずっと体を動かし続けているとむくむ方なんです。疲労のピークに達するとむくむんですけど、お酒を飲むとそれがスッと抜けることもあるんです」

――日頃から節制しているから体がそういう反応をするのかもしれない。

「なんか変ですよね(笑)。自分でも変だと思うけど、トレーニングとかですごく追い込んでる時ってあまり体重が減らないんです」

27歳でも「沙羅ちゃん」と呼ばれて…

 高梨が大倉山で女子バッケンレコードとなる141m(当時)を記録して大きな注目を浴びたのが中学2年生のとき。ソチで初めての五輪出場を果たした時でもまだ17歳だった。

 それから10年が経って、彼女は10月で27歳になった。インタビュー中は「高梨さん」と呼ぶように気をつけているものの、ついつい「沙羅ちゃん」と呼んでしまうことがある。

 例えば藤井聡太が藤井くんで、浅田真央が真央ちゃんであるように、10代の早いうちから世に出てきた人物は、当初の呼び方やイメージがなかなか抜け切れない(当人がというより周りが)。お酒の話をするのに違和感があるのはそのせいなのだろう。あの幼かった沙羅ちゃんが……というような。

「確かにお酒を飲んでいると言うと、いまだにびっくりされますからね(笑)。ただ、皆さんから今も『沙羅ちゃん』と呼んでもらえるのはすごく嬉しいんですよ。高梨選手とかって割と距離があるなと感じるけど、沙羅ちゃんと呼んでもらえたら距離が近い感じがするじゃないですか」

世間のイメージ…「ギャップしかないです」

 博報堂DYメディアパートナーズが毎年発表している「アスリートイメージ評価調査」で、高梨は2022年「可愛いアスリート」で2位、「清潔なアスリート」で4位になっている。ちなみに今から10年前、ソチ五輪前年の2013年の調査では「好感がもてるアスリート」で1位、「純粋なアスリート」でも1位、「勢いを感じるアスリート」で3位になっていた。

 なぜそうなのかという理由までは記されていないが、このアンケートだけでも分かるように、世間は勝手にさまざまなイメージを抱き、それはすぐに移ろう。

 世間が彼女に抱くイメージと自分自身の実像のギャップについて尋ねると、

「ギャップしかないです」

 と高梨は笑いながら答えた。

「でも全てが違うってわけでもなくて、自分の中でもこういう自分というのが決まってるわけじゃない。うーん、なんかたまに……いや、これを言ったらなんかすごくちゃらんぽらんに見えそうなんでやめておきます(笑)」

――いや、大丈夫です。言いましょう(笑)。

「なんか、自分に飽きちゃう時が結構あって、気分転換に違うことをしたくなるっていうのもあります」

 確かに数週間前のイベントで会ったときは金色だった彼女の髪の毛は、この日すっかり黒くなっていた。これも彼女の言う気分転換のひとつなのだろう。

「インスタで“やりたくないこと”」

 普段アスリート的な高梨を見慣れている人が、そのギャップを一番感じることができるのが彼女のインスタグラムだ。2019年から始めて現在フォロワー数は34万人。新しい投稿があればスポーツ新聞がすぐさまネットニュースに仕立てるぐらいだから世の中の関心も高いに違いない。

 趣味のカメラで撮った写真だったり、ヴィンテージレコードをあさる姿だったり、イケてるファッションスナップやコスメのことだったり、それらの投稿はほぼ高梨が自分自身で行なっている。

 そこには彼女なりのルールがある。

「インスタではこういう試合があって何位でしたという結果報告はあまりしたくないんです。それは他の誰かの投稿やメディアで見ることができるし、いつもみんながメインで見ている部分。あえてそこを出す必要はないかなと思います。だから、なるべく素の生活の一部を切り取った様子を出したいんです」

 そこに描かれる生活を見ていると、なんだかとびきりオシャレな日常を過ごしているように見える。もし「私生活がオシャレなアスリート」ランキングがあったら確実にランクインしてきそうな……。

「でもSNSっていいところとか、宣伝したいことがある時しか載っけないじゃないですか。生活の一部だったとしても、いいところしか見せてませんから(笑)」

 いいねの数などにはそこまでとらわれたくないと言うが、投稿にリアクションしてくれる性別や世代などインサイトを見て学ぶことはあるという。

「なんでこれにいいねがついたんだろうとか考えることに繋がるし、傾向を知ることができて面白いです。これは女性の方が好きなんだとか、こっちは男性の方が多いんだとかニーズもわかりますしね」

 それに基本的に競技について投稿しないとはいえ、根底には競技への思いが潜んでいる。女子ジャンプの歴史のバトンを次の世代へと繋げていくツールとしての役割である。

「スキージャンプ競技って日常とかけ離れすぎているから一般の人はイメージもつかないし、野球とかサッカーみたいに気軽にできる競技でもないですよね。未知だと思うんですよ。だから、スキージャンプ、特に女子のスキージャンプをメジャーにしていくために少しでも親しみを持ってもらいたい。興味がない人でも違うところから興味を持ってもらって広まっていけばいい。そうやって活用しようと思ってます」

「24時間何をしている?」高梨沙羅の時間割

 ただ、SNSで競技以外のことを発信していると「競技に集中していない」というよくわからないイメージを抱かれることが世の常。

 ということで、高梨にスロベニアにいるときの1日のスケジュールを聞いてみた。試合のない普段の生活、わざわざ円グラフに書いてくれた1日の流れはこんな感じだった。

 6:00 起床→散歩、身支度
 8:00 授業 ※高梨は2020年に弘前大の大学院に入学し、社会医学講座で研究に取り組んでいる
 9:00〜12:00 飛ぶ
 12:00〜13:00 昼食
 13:00〜15:00 昼休み
 15:00〜17:00 午後トレ
 17:00〜18:00 もろもろ(ミーティングやカメラなど)
 18:00〜19:00 夕食
 19:00〜20:00 お風呂
 20:00〜22:00 ジャンプの振り返り
 22:00〜 就寝

 朝の散歩は軽いランニング、昼休みは湖に散歩に行ったり、写真を撮りに行ったりして過ごすという。ジャンプの振り返りは「のんびりやっているので」と十分に時間を費やす。インスタも昼休みやもろもろの時間にアップすることが多い。

 この生活をせっせと繰り返すのが高梨のアスリートとしての日常だ。

「ほぼこのルーティン通りの生活です。日本にいると不定期で仕事があるのでこの通りにはいかないんですけど、向こうにいると髪も切りに行きません。充実しすぎていてあまり行こうって気になれないんです」

――簡素というか、ストイックというか。

「全然ストイックではないんですけど、やることもないんですよ。別に、何もない(笑)」

――ゲームしちゃったり。

「私、ゲーム持ってないんです」

――スマホはあるでしょう。

「1つだけパズル入れてます。でも究極に時間を持て余してしょうがない時にやるぐらいです」

――練習もトレーニングも当たり前に最優先事項になっている。

「昔からそれを軸に生活が回っているので」

――それを崩してみたいと思ったことは。

「ないですね」

 そんな高梨がいて、こんな高梨もいる。

 ここまで読んで、あらためて高梨沙羅と聞いたら、あなたはどんなイメージを思い浮かべるだろうか。

<続く>

文=雨宮圭吾

photograph by Kiichi Matsumoto