5月に入り、打撃の好調ぶりをうかがわせる大谷翔平。新天地ドジャースでのプレーに“大谷らしさ”が出てきた背景には、指揮を執るデーブ・ロバーツ監督の存在があった。現地で取材を続ける斎藤庸裕氏が、大谷とロバーツ監督の現在の関係性について解説する。

 ドジャースの大谷翔平投手(29)が、紆余曲折の開幕1カ月から一気に乗ってきた。5月4日のブレーブス戦では今季8号を放ち、日本生まれの選手ではデーブ・ロバーツ監督(51)の7本塁打を抜いて球団記録を更新。移籍後、試合後の囲み取材では最も笑っていたのではないか。そう感じられるほどだった。

 質疑応答から約1分半、「Excuse me!!」と“乱入者”が現れた。ロバーツ監督が、前日に大谷からプレゼントされたというポルシェのミニカーを持参。冗談で新車を欲しがっていたようだが、「これが私の車です。私の机にぴったりです。ショウヘイ、おめでとう。そしてありがとう! ハッハッハ」とコメントし、満足げに立ち去った。背後で大谷は、なんともうれしそうな満面の笑みを見せていた。球団スタッフや広報、メディアも含め、その場は和やかな空気に包まれた。

 大谷とロバーツ監督の間には常にリスペクト、信頼と笑いがある。3月下旬の本拠地ドジャースタジアム開幕からしばらく、大谷は本来の姿からほど遠い状態だった。自己ワーストの開幕から40打席ノーアーチ。新天地での1号へ、はやる気持ちもあった。そこで救ったのが、ロバーツ監督の言葉だった。

「Be Yourself(自分らしく)」

「気持ちが楽になった」ロバーツ監督との会話

 大谷は1号を放った4月3日のジャイアンツ戦、試合後のインタビューで「自分らしくいればそれだけでいいっていうふうに言ってもらえたので、気持ちが楽になりましたし、今日こうやってまず結果が出て、それをまず継続して頑張りたい」とコメント。指揮官との会話で、肩の荷が下りたことを明かした。

 当初はチーム打撃を心がけ、引っ張る傾向が強かった。1番ベッツの出塁率が高く、走者一塁で打席を迎える場面が多い。大谷が右方向に引っ張って安打とすれば、一、三塁の形が作れる。その結果、3番フリーマン、4番スミスで得点できる可能性が高くなる。一方で、全方向へ広角に打ち分ける大谷の長所が薄れつつあった。本来の打撃を取り戻すきっかけになったのは、もちろん打撃コーチ陣とのフォーム微調整や分析も大きな要因ではあるが、ロバーツ監督の存在も大きかった。

大谷が感謝した“指揮官の接し方”

 春のキャンプから約3カ月、大谷と同監督が笑い合う場面は多い。試合中のベンチでも何やら冗談を言い合うようなシーンが見られ、明るい雰囲気が漂う。敵地カナダ・トロントのブルージェイズ戦で7号をマークした4月26日、大谷はロバーツ監督の接し方についても感謝を示した。

「最初の1カ月が1カ月だっただけに、逆に僕からしたらあんまり、気にしないでほしいというか。もう本当に、むしろ笑いに変えるぐらいのコミュニケーションというか、グラウンドに持ち込んでほしくもないと思ってますし、そこはそこで自分で処理すればいいだけなので、チームメートには普通にこういう風に冗談を言い合える雰囲気っていうのは、すごく僕にとっては楽かなと思います」

 元通訳・水原一平氏との離別でチームに心配もかけたが、指揮官の朗らかな笑顔が安心感を生んだ。4月21日に今季5号本塁打を放ち、通算176号本塁打で日本人メジャーリーガー最多本塁打を記録。ロバーツ監督は試合後、「彼は『次はあなたの記録を抜きます』と言っていたよ」とニヤリ。日本生まれの選手で球団最多本塁打は、沖縄県で生まれたロバーツ監督の7本。その後、7号を放った際には大谷が「『並んだぞ』って僕の方から言いましたけど」と明かした。

大谷「監督とは、もちろん納得する部分もありますし…」

 笑いもあれば、野球で気付いた点は互いに指摘する。積極的な意見交換で“勝つ”という同じ目標に向かっている。得点圏打率が低く、ボール球に手を出していた時も、同監督から落ち着いてボールを見極めるよう助言を受けた。「監督とは(打席での)アプローチのことで話して、もちろん納得する部分もありますし、早い段階でそういうふうに対策を打つことで、今後もプレーしやすくなるという話はしていたので、お互い、ゲームを作る上で噛み合っていければなと思います」。3月20日の開幕から4月までで打率3割3分6厘、7本塁打、19打点。OPS(出塁率+長打率)1.017。キャリアハイに近い成績を残した。

 メジャー7年目、新天地で悲願のプレーオフ進出とワールドシリーズ制覇を目指す大谷。伝統球団で常勝が求められるド軍の指揮官として9年目のロバーツ監督。日々のコミュニケーションを重ね、着実に信頼関係が築かれている。

文=斎藤庸裕

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