5月1日、ほっともっとフィールド神戸でオリックス対ロッテ戦を観戦した。この日の観客動員は30019人。この球場には、イチローが若かったころから通っているが、日本シリーズ以外でこんなにお客が入ったのを見たことはなかった。

失策が絡んで5失点でも…簡単に替えられないワケ

 オリックスが3対1でリードした最終回「Warning!」という恐ろし気な音声が流れて、絶対的なクローザー、平野佳寿がマウンドに上がった。平野はほとんどの登板で走者を出すが、それでもセーブをもぎ取る手練れだった。

 ロッテの9番打者・小川龍成は二ゴロに打ち取ったが、これをこの回から守備固めに入った安達了一がエラー。平野は表情を変えずに代打角中勝也と対する。バットを短く持った角中はしぶとくライト前に運ぶ。さらに石川慎吾の右前打で1点が入る。左翼のロッテ応援団が沸く中で、グレゴリー・ポランコの打球はまた二塁へ。これを再び安達が処理できず失策。オリックスは浮足立った。

 雨混じりの球場は、気温13度。5月とは思えない寒さだった。続く藤岡裕大は三振に切って取ったが、続く安田尚憲は左翼手の頭上を超す2点適時二塁打。一挙に逆転される。ここで、平野は交代、一死しか取れず全力疾走でベンチに帰る平野の心境はいかばかりか。代わってマウンドに上がった井口和朋から佐藤都志也が右前タイムリーを打つなどロッテはこの回、決定的な5点が入った。

 コーチ兼任の内野守備の名手、安達了一は二塁手のパ記録となる1イニング3失策。平野、安達と長くオリックスの「守り」を支えてきた名手の信頼が音を立てて崩れた夜だった。

 クローザーというポジションは単に「球が速い」「制球力が良い」「いい変化球がある」だけでは務まらない。

 チームが僅差でリードした状況でマウンドに上がり、そのリードを保ったままで試合を終わらせるためには「技術」「体力」「経験」に加えて「度胸」がいる。少々打たれても平然としている「強心臓」がないと務まらない。だから失敗しても、簡単に替えるわけにはいかない。

長年クローザーを務めてきた名投手たちの苦戦

 成績的に見ていくと――NPBのいくつかの球団で、チームの最後を締めくくってきたクローザーの「耐用年数」が切れつつあるように思える。

〈現役で150セーブ以上を挙げている4選手の今季成績〉※5月8日終了時点
 平野佳寿(オ)40歳 249S
 11試1勝1敗7S1H9.2回 率2.79
 山﨑康晃(De)31歳 230S
 9試0勝1敗3S3H8回 率3.38
 益田直也(ロ)34歳 222S
 7試0勝1敗4S0H7回 率3.86
 増田達至(西)36歳 194S
 8試0勝2敗0S2H7回 率2.57

 一線級のクローザーには防御率1点台が求められるところで、4人とも成績は抜群に良いとは言えない。

 オリックスの平野は前述した5月1日に5失点したものの、安達の失策が絡んでいたので自責点は0だった。とはいえ彼は4月24日の西武戦でもセーブシチュエーションで3失点していて、厳しい状況なのは間違いない。

 DeNAは昨年不振に陥った山﨑康晃に替わり、後半は楽天から移籍した森原康平をクローザーに据えた。今季は山﨑が4月2日から3試合連続でセーブを挙げたが、以後は森原がクローザーに。山﨑は4月24日の阪神戦で3失点するなど、往時の勢いはない。

クローザーの「替わり」は簡単に見つからない

 ロッテは今季も益田を起用しているが、3月31日の日本ハム戦、4月25日のソフトバンク戦で失点、不安を抱かせた。しかしここ3試合は連続セーブを挙げている。チームは投球フォームが益田とそっくりの横山陸人も起用した。2セーブを挙げているものの、現状では「本家」ほどの信頼感はない。

 そして西武は長くクローザーをつとめた増田を中継ぎに配置転換し、新外国人で100マイル近い速球が武器のアルバート・アブレイユをクローザーに据えている。アブレイユは現時点で7セーブ、6ホールド、防御率1.80と役割を果たしている。

 勤続疲労が出て救援に失敗するようになれば、クローザーの替え時なのは、だれでもわかるところだ。しかし、その「替わり」は簡単には見つからないのだ。

 ホールドという記録は、1試合で複数の投手につくことがある。また負け試合でもつくことがある。どのチームにも常時、多くのホールドを持った救援投手がいる。

再び「失格の烙印」を払拭できるのか

 しかしセーブは1つの試合で1つだけ、しかも勝ち試合でしかつかない。ほとんどのチームで多くのセーブ記録を持つクローザーは1人しかいないのだ。代わりのクローザーはほぼ間違いなく「経験が浅い投手」が務めることになる。

 実績十分のクローザーを降ろして、実績のない投手を、最終回に僅差リードというヒリヒリした状況でマウンドに上げるのは、どんな指揮官でも胃が痛くなるはずだ。

 できれば「今のクローザーが復活してくれれば、いうことはない」。多くの監督はそう思っている。

 ここに挙げた4人は、何度も「クローザー失格」の烙印を押されかかって、そこから這い上がった。言わば強いハートを持つ名投手だ。それでも「年貢の納め時」が来るのが、野球というスポーツではあるが。

 平野佳寿は、打ち込まれた翌々日に「ひじの故障」という名目でファームに降格した。代わりのクローザーは、新外国人のアンドレス・マチャドが担うこととなった。彼はMLBでクローザーの経験はほとんどないものの、向こう意気の強い面構えで100マイル近い速球を投げ込んでいる。

NPB250セーブまであと「1」の平野は復活できるか

 セーブという記録は、簡単に記録することができない。チームの勝敗を分ける「勝負の場で投げて抑える」という結果を出さなければ、セーブはつかない。この点、先発投手から良いタイミングでマウンドを譲られれば記録することができる「勝利」とは厳しさが違う。

 日米通算250セーブにあと「5」と迫っていた藤川球児が、それを果たせずに引退したのはそれがクローザーの宿命だったからだ。

 平野佳寿は、すでに日米通算では250セーブを記録し、名球会入りしているが、史上4人目のNPB250セーブにはあと「1」足りない。それを記録するためには、40歳の平野はたった1試合でも「クローザーと言うに足る」投球をしなければならない。

 おそらく、これから平野にとって最後の挑戦の時が始まる。

週間成績:DeNA森原が3セーブをマークしている

【2024年4月30日〜5月8日 週間成績】
〈セ・リーグ〉
・今季成績
 阪 神33試16勝13敗4分 率.552
 巨 人35試17勝15敗3分 率.531
 広 島30試13勝13敗4分 率.500
 DeNA32試15勝16敗1分 率.484
 ヤクルト32試14勝16敗2分 率.467
 中 日34試14勝16敗4分 率.467

・6週目の成績
 DeNA7試5勝2敗0分 率.714
 ヤクルト7試4勝2敗1分 率.667
 巨 人8試4勝4敗0分 率.500
 広 島7試3勝3敗1分 率.500
 阪 神7試2勝4敗1分 率.333
 中 日8試2勝5敗1分 率.286

 筒香嘉智が復帰したDeNAが息を吹き返した。一方で中日は最下位に転落した。

〈打撃成績5傑〉※打撃の総合指標、RC=Runs Create順
 村松開人(中)30打17安0本4点 率.567 RC10.63
 細川成也(中)35打13安2本9点 率.371 RC8.47
 村上宗隆(ヤ)24打6安3本7点 率.250 RC7.13
 サンタナ(ヤ)24打8安2本8点 率.333 RC6.06
 大山悠輔(神)23打5安2本3点 率.217 RC5.62

 中日の村松は5月3日からのヤクルト3連戦で5の5、5の4,4の3という猛打。本塁打はヤクルト村上の3本、打点はDeNA牧秀悟の10が最多。盗塁は阪神・近本光司の2が最多だった。

〈投手成績5傑〉※リーグ防御率に基づくPR=Pitching Run順
 村上頌樹(神)2登1勝1敗16回 責1率0.56 PR3.90
 吉村貢司郎(ヤ)2登2勝12回 責1率0.75 PR2.67
 髙橋宏斗(中)1登1勝8.2回 責0率0.00 PR2.65
 山﨑伊織(巨)2登1勝14.2回 責2率1.23 PR2.49
 東克樹(De)1登1勝7.1回 責0率0.00 PR2.24

 阪神の村上は4月30日の広島戦で9回完投自責点1で勝利、7日の広島戦は7回自責点0ながら負け投手になった。ヤクルトの吉村は5月1日の巨人戦で7回零封、8日のDeNA戦は5回自責点1で2勝。救援では広島・栗林良吏とDeNA森原康平が3セーブ。広島の島内颯太郎が4ホールド。

ロッテ益田はこの期間に3セーブを挙げて復調か

〈パ・リーグ〉
・今季成績
 ソフトバンク33試22勝9敗2分 率.710
 日本ハム31試16勝14敗1分 率.533
 ロッテ32試16勝15敗1分 率.516
 オリックス34試15勝18敗1分 率.455
 楽 天32試14勝17敗1分 率.452
 西 武32試11勝21敗0分 率.344

・6週目の成績
 ロッテ7試6勝1敗0分 率.857
 ソフトバンク8試5勝3敗0分 率.625
 楽 天7試3勝4敗0分 率.429
 西 武7試3勝4敗0分 率.429
 日本ハム8試3勝5敗0分 率.375
 オリックス7試2勝5敗0分 率.286

 ロッテが6勝1敗と快調。ソフトバンクは今週も勝ち越し。

〈打撃成績5傑〉
 三森大貴(SB)25打11安1本9点2盗 率.440 RC6.63
 近藤健介(SB)30打12安1点 率.400 RC6.59
 山川穂高(SB)32打8安4本7点 率.250 RC5.51
 郡司裕也(日)29打10安1本6点 率.345 RC5.36
 川村友斗(SB)27打8安 率.296 RC4.55

 ソフトバンク勢が活躍。三森は猛打賞2回、9打点は最多。本塁打は山川の4。盗塁は周東佑京の4が最多だった。

〈投手成績5傑〉
 有原航平(SB)2登1勝16回 責0率0.00 PR4.31
 山﨑福也(日)2登1勝16回 責2率1.13 PR2.31
 武内夏暉(西)1登1勝8回 責0率0.00 PR2.15
 佐々木朗希(ロ)1登1勝7回 責0率0.00 PR1.88
 種市篤暉(ロ)1登1勝7回 責0率0.00 PR1.88

 ソフトバンク有原は4月30日の楽天戦、5月7日の日本ハム戦でいずれも8回自責点0の好投。救援ではロッテの益田直也が3セーブ、ソフトバンク藤井皓哉が4ホールドを挙げた。

文=広尾晃

photograph by Hideki Sugiyama/Naoya Sanuki