メジャーへの挑戦の長い旅に終止符を打ち、5年ぶりに古巣・横浜DeNAベイスターズに帰還した筒香嘉智外野手が、復帰後初のインタビューに答えてくれた。一時は巨人説も流れた中で古巣復帰を決めた背景、あのドラマチックな復帰戦での逆転3ランとバッティングの現状、そして5年ぶりに戻ってきたベイスターズのチームメイト、横浜スタジアムを埋めるファンへの思い――。筒香の「いま」を2回にわたりお届けする。<NumberWebインタビュー全2回の前編/後編へ>

ベイスターズ復帰を決断するまで

 横浜スタジアムが熱狂している。

 背番号25が打席に立つと、5年前と同じ応援歌が流れ、「ツツゴー!」の掛け声が、帰ってきた主砲を後押しする。そんな熱狂に改めて感じるのは、ベイスターズは筒香嘉智という野球選手の“本籍地”だということだ。

筒香「本籍地……そうですね。他のチームに行っていたら、それはそれでいい反響も悪い反響も、両方ともあったと思います。でもベイスターズに戻ってきて横浜スタジアムでレフトを守っていると、レフトスタンドの阪神ファン、ヤクルトファンからも温かい声をかけていただきました。北陸遠征で訪れた富山と福井ではジャイアンツファンの方にも、声をかけていただいた。以前は阪神ファンの方には、かなりやじられたんですけどね(笑)。今回はすごく暖かい声をかけていただいています」

 4月16日に発表されたDeNAへの復帰。日本時間3月22日にオプトアウト(契約破棄)の権利を行使して、サンフランシスコ・ジャイアンツから自由契約となると、代理人のジョエル・ウルフ氏の勧めで日本球界復帰も視野に入れての移籍球団探しが始まった。米国では新たな球団がなかなか見つからない中で、日本からはセ、パ両リーグの球団からオファーが届き、日本球界復帰を意識して帰国したのは4月4日のことだった。

筒香「正直に言って、日本に戻ってプレーするモチベーションが、なかなか上がってこなかったというのはあったんです。ただジョエルはこれまでも色々な局面で、代理人というより友人のような感じで意見を言ってくれてきたし、彼の助言に逆らって自分の意見を通して失敗したこともありましたから……」

 そうしてウルフ氏が日本の球団と交渉を進める最中に出てきたのが、巨人入り決定の報道だった。巨人はここ数年、マイナーでプレーする筒香に積極的にコンタクトをとり、今季からチームの指揮を執る阿部慎之助監督とは、渡米前から親交もあった。

筒香「そういう意味では選択肢として(他球団の)可能性もありましたけど、本当に正直にお話しすると、巨人入りが報じられた時点では、まだ何も決まっていなかったんです。ちょうどその頃、獲得の意思を示していただいた球団から具体的な条件面のオファーをいただいている最中で、自分ではまだ何も決められていなかった。でも巨人入りの報道が流れてネットがすごく荒れたんですよね(笑)。それがちょっと嬉しかったというか……ベイスターズのファンの方がそれだけ思ってくれているんだと……」

最後は自分の気持ちで決めた

 この時点で本人の中ではまだアメリカでプレーすることを完全に諦めきれていたわけでもなかった。ただ現実的にはアメリカの球団からのオファーはなく、選択肢は日本球界復帰、そして復帰先をどの球団にするかに絞られていった。

筒香「最後は自分の気持ち、自分の意思で決めました。条件はあまり関係なかった。自分の頭を整理していく中で、一番高いモチベーションになったのが、横浜で優勝を目指すということだった。渡米後も横浜とはずっとつながっていて、南場(智子)オーナーからも毎年、声を掛けていただいていました。非常に感謝していますし、南場オーナーが目標に掲げている横浜で優勝という、その目標に向かう一緒のピースとして一生懸命頑張りたいと思いました。その気持ちがなかったら、おそらく今もまだアメリカでオファーをくれるチームを待っていたかもしれない。僕のモチベーションとしては、そこだけだなと思っています。富山(5月14日の対巨人戦)では阿部さんともお話ができて『お互い野球を盛り上げていこう』と言っていただきました。阿部さんにもああやって声をかけていただいて、ありがたいことだと思っています」

あのホームランは自分でもびっくり

 古巣DeNAへの復帰を決め4月18日には横浜スタジアムでファン公開の入団会見。そしてファームでの調整を経て、5月6日の復帰戦となったヤクルト戦の8回、あの劇的な逆転3ランを放つことになる。

筒香「あのホームランは自分でもびっくりしましたし、鳥肌が立ちましたね。実は一軍に昇格する2日前のファームの試合(ヤクルト戦)でセンターフライを打ち上げているんです。その打席で、『あ、これだ』とパチンと嵌まる感覚があったんです。次の打席もセカンドフライでしたけど、その感覚が確認できたので、それで『もう大丈夫です』と二軍の首脳陣の方にも伝えて、翌日(5日)は試合に出ないでDOCK(DeNAの二軍施設)で打ち込みをしました。だからある程度、一軍でも対応できるというのはありました。ホームランは結果としては最高、チームとしても最高でしたけど、実際のあの試合の打席ではまだかなり反省点がある感覚で、バッティングの状態としては実はまだまだ最悪と言ってもいい状態ですね」

 その後も5月11日の阪神戦での決勝本塁打とインパクトのある一発を放つ一方で、確かに打撃の状態はなかなか本調子まで上がってきていないのが現実だ。5月21日のヤクルト戦が終わった時点で、11試合を消化して43打数8安打の打率2割1分1厘。久しく忘れていた人工芝でのプレーによる身体、特に下半身のケアなど、苦労することも山積みである。

筒香「いまは身体のケアを含めて、やらなければならないことは一杯あります。いまのバッティングは向こうで築いてきたものを進化させるというのではなく、日本時代の感覚に戻している。もちろんアメリカで変わった部分もあります。具体的なところで言えばスイングが短くなっているんじゃないかな、と。振り始めから振り終わりまで、バットの軌道が日本時代とは変わって、弧を描いている幅が狭くなって、短くなっていると思います。それは今も持続している。その上で投手と対する間合いの感覚とかは日本でプレーしていた頃に戻している感じですね。間合いは日本、スイングはアメリカという感じです」

日本人のピッチャーはあまり速く感じない?

 ここ数年は投手、特にリリーバーの球速が上がって、日本でも150km台の真っ直ぐを投げる投手も多くなっている。アメリカで「150km以上の真っ直ぐを打てない」と指摘されることもあったが、今後の活躍を占う意味ではそこも1つの注目点となるところだろう。そしてファームでの調整段階からずっと課題として上げているのが、日本の投手が持つ独特な投球フォームの“間”への対応である。実際に日本人の投手と対戦してみた感触を、筒香はどう感じているのだろうか。

筒香「実際に対戦してみて……やっぱり日本人のピッチャーは日本人のピッチャーだなという感じですね(笑)。データ的に5年前と比べて投手の平均球速が速くなっているというのは知っていますし、実際にそう思います。でもアメリカではマイナーの投手でも、もっと速かったりというのはあるので、あまり体感的には感じないのかなと。ただ、日本の投手の場合は投球フォームに一つ“間”がある分だけ、速い球にもバットを入れやすいというのはあるかもしれない。それがデータとは違ってあまり速く感じない理由のかもしれないですね。ただ、その一方でいわゆる日本人投手独特の“間”に対して、こっちが自分の“間”で入れていないというのはあります。どこかずらされているので、いい当たりでも正面にいくなと思う。ボールを見て振りに行ったときに、思っている方向に打球が入っていないケースが多いですね」

 一例が筒香といえば逆方向への強い打球がセールスポイントだったが、復帰戦でヤクルトの星知弥投手から左中間二塁打を放って以降は、逆方向への強い打球も影を潜めてしまっている。逆に右方向への打球が多いのも気になるところだ。

筒香「確かに右方向の打球は多いですね。我慢ができていない。待ちきれていない。それは最初からの課題で、そこをどうアジャストしていくか。ただバッティングに関しては、まだ結果は出ていないんですけど、ちょっとずつ『あーっ』っていうのが見え始めてきてはいます。今までは探り探りで『どっちかな?』……そのどっちかも分からない状態が続いている感じでしたけど、富山での巨人戦ぐらいから、『こっちの方向だな』というのがちょっとずつ見えてきた感触があるんです」

あとは精度が上がっていけば…

 ポイントはボールを待つ間の左足の使い方なのだと言う。

筒香「やっぱり左足なんですね。振り返ってみるとアメリカではパンパンって(投手のモーションが)速いので、(しっかり体重が乗り切れずに)左足が死んでいたなと思うんです。でも日本に戻って日本の投手の“間”だと、左足に乗って右足が上がっている時間が長くなる。そうなった時に左足の(使い方の)精度がずいぶん落ちているなと感じました。アメリカではパンパンといくので、左足の使い方も誤魔化していたというか……。でも富山での試合ぐらいから(左足への重心の)乗り方の感覚が、自分の中でこの方向だなというのが出てきた。乗れた方がいいのはもちろんある。それをずっと探ってやっていたので、その方向がちょっとずつ見えてきたなと」

 試行錯誤を繰り返すのは筒香らしさでもある。そしてなかなか答えに辿りつけないが、その試行錯誤の末に、答えに辿り着いたときには強固な形を手にいれることができるのかもしれない。

 それもまた筒香らしさなのである。

筒香「あとはその精度が上がっていけば、パチンと嵌まるなという感覚はあります。精度が上がっていくスピードは、まだちょっと自分では分からない。でもこっちの方向だなというのは見えてきている。それはあります」

 少しずつ打撃への手応えを感じながら、改めて噛み締めているのは、ベイスターズへ戻ってきたことへの喜びである。

 後編では5年ぶりに感じたチームとチームメートの変化とファンへの感謝の気持ちを聞いた。

<続く>

文=鷲田康

photograph by SANKEI SHIMBUN