プロ野球にはいろいろな役割、ポジションがあるが、なかでも地味で、活躍が報じられることが少ないのが「代走」ではないだろうか。

 試合の重要なポイントで出てくる代走は大切な役割なのだが、ニュースで報じられるのは決勝の殊勲打を打った選手。ホームを踏んだ「代走」の扱いは――相当な好走塁を見せない限り、小さい。

代走起用がメーンの選手たちはどんな面々?

 昨年、セ・パ両リーグで20回以上代走に起用された選手のシーズン成績を調べてみた。

 守備/打席・起用試合数の順。「得」は得点、盗塁、盗塁死は代走以外の記録も含む。

〈セ・リーグ〉
 重信慎之介(巨)外/左・37試合
 67試51打16得8安0本1点10盗4死 率.157 OPS.389
 島田海吏(神)外/左・33試合
 101試110打12得16安1本6点7盗1死 率.145 OPS.408
 並木秀尊(ヤ)外/右・30試合
 82試161打37得39安1本7点15盗2死 率.242 OPS.574
 羽月隆太郎(広)内/左・28試合
 50試47打10得7安0本4点14盗6死 率.149 OPS.386
 植田海(神)内/両・27試合
 28試1打9得0安0本0点4盗0死 率.000 OPS.500
 矢野雅哉(広)内/左・26試合
 93試119打22得22安0本3点7盗0死 率.185 OPS.470
 大盛穂(広)外/左・24試合
 59試66打10得10安1本5点4盗3死 率.152 OPS.427
 髙松渡(中)内/左・22試合
 25試2打8得0安0本0点3盗1死 率.000 OPS.000
 熊谷敬宥(神)内/右・21試合
 26試6打7得2安0本0点3盗1死 率.333 OPS.833
 神里和毅(De)外/左・20試合
 64試49打11得8安0本3点0盗1死 率.163 OPS.451
 曽根海成(広)内/左・20試合
 39試14打6得2安0本0点1盗1死 率.143 OPS.414

 阪神の島田や広島の羽月、矢野のように100打席以上起用される選手がいる一方で、同じ阪神でも植田や熊谷、中日の髙松のように代走以外で守備固めでしか起用されない選手もいる。中日の髙松は昨シーズン途中に西武にトレードされている。

 ただ、これらの選手は「得点」は非常に多い。代走はホームベースを踏むのが一番の仕事だから、当然の数字ではあるが――。

周東は「規定打席未達で盗塁王」になったことも

〈パ・リーグ〉
周東佑京(SB)内/左・44試合
114試237打52得57安2本17点36盗7死 率.241 OPS.602
和田康士朗(ロ)外/左・38試合
80試98打30得26安3本9点20盗1死 率.265 OPS.784
田中和基(楽)外/両・37試合
95試34打22得3安2本3点3盗2死 率.088 OPS.470
小川龍成(ロ)内/左・27試合
52試20打7得3安0本1点3盗3死 率.150 OPS.390
江越大賀(日)外/右・23試合
100試150打17得27安5本13点9盗8死 率.180 OPS.577
佐野皓大(オ)外/右・21試合
47試36打11得6安1本3点5盗1死 率.167 OPS.417
小田裕也(オ)外/左・21試合
77試62打15得18安1本8点5盗2死 率.290 OPS.753
平沼翔太(西)内/左・21試合
67試102打16得25安2本6点3盗1死 率.245 OPS.647

 パにはすごい記録を持つ代走がいる。昨年、両リーグを通じて最も代走の起用数が多かったのは、ソフトバンクの周東だった。

 周東は代走では10盗塁2盗死、そしてトータルでは36盗塁で2回目の盗塁王になっている。規定打席未達で盗塁王(タイトルになっていない時代も含む)を獲得した例はセ・パ両リーグ分立後、12例あるが、2回盗塁王になったのは周東だけ。また周東の2020年の50盗塁での盗塁王は、規定打席未達では1951年、国鉄の土屋五郎の52盗塁に次ぐ史上2位である。

 ロッテの和田もすごい記録を持っている。2021年に24盗塁で他の3選手とともにタイトルを取ったが、打席数はわずか24。これは1966年阪急の山本公士の158打席をはるかに下回る「盗塁王の最少打席」。24盗塁のうち23を代走起用で決めている。

 昨年、両リーグ通じて20回以上代走に起用された選手は19人だが、左打ちが13人、両打ちが2人、右打ちが4人。一塁までの距離が数十cm短いとされる左打ちの選手が多い。

 すべて内野手か外野手だが、広島の矢野のように「守備の名手」として守備固めに就く選手も多い。

周東は今季ここまで打率.305、代走起用なし

 ただ、ここで名前が挙がることは、これらの選手にとってそれほど嬉しくないかもしれない。野手である限りは、スタメン出場して規定打席を誰もが目指すものだ。代走での起用が増えるのは、レギュラーの道が遠ざかることでもある。

 今季「代走」から抜け出して、レギュラー選手の道を歩みつつあるのが、現在28歳のソフトバンク周東である。

 5月19日時点で、33試合に出場して131打数40安打1本塁打9打点16盗塁2盗塁死、打率.305で4位につけている。今年は代打こそ2回あるが、代走起用は1度もない。

 代走専門選手でスタートして、レギュラー選手として打率ランキングに乗るのは、至難のことだ。

 かつて巨人の鈴木尚広は、終盤に代走で一塁に立つと、高い確率で二塁を陥れ、「終盤の最終兵器」とまで呼ばれた。228盗塁47盗塁死、盗塁成功率.829という数字を誇ったが、彼でさえも最多打席数は2008年の270、規定打席には遠く及ばなかった。

 また、近鉄の藤瀬史朗は足の速さから「近鉄特急」と言われ117盗塁28盗塁死、成功率.807だったが、彼は1980年の122打席が最多である。

「打撃」が課題とされてきた中で

 リードオフマンタイプとして当初起用された選手が、その後代走で出るというケースはあるが、最初から「代走専門」だった選手がレギュラーの座をつかむのは至難の業だ。

 では周東は、どのようなプロセスを経て今季に至っているのか。

 周東は東農大オホーツクから2017年の育成2位でソフトバンクに入団。1年目の2018年からウエスタン・リーグで27盗塁、翌2019年に支配下登録されたがこの年、代走で47試合に起用されるなど「走り専門」の印象が強かった。

 この年25盗塁、翌2020年は50盗塁で盗塁王になったが、規定打席には届かなかった。

 ネックとなったのは「打撃」だ。通算打率は昨年までで.246、本塁打は通算12本。

 強打者ぞろいのソフトバンクでは、周東の打撃ではレギュラーはおぼつかないかと思えたが、小久保裕紀監督になった今年、周東は1番で29試合に起用され、リードオフマンとして活躍。また内野手登録だが中堅で31試合にスタメン起用され、守備範囲の広さを見せている。川村友斗というこれも育成上がりの若いリードオフマンタイプが台頭しているので油断できないが、周東が規定打席到達、3割をマークする可能性が高まっている。

“大谷を追い抜きそう”WBC神走塁を経て…

 昨年の第5回WBC準決勝のメキシコ戦、4-5で迎えた最終回、侍ジャパンは大谷翔平が二塁打で出塁。続く吉田正尚は四球。ここで栗山英樹監督は周東を吉田の代走に起用する。不振続きだった村上宗隆が中越え二塁打、周東は俊足で鳴らす大谷翔平さえも追い抜きかねない好走塁を見せて、サヨナラのホームを踏んだ。

 周東は、球史に残る名場面の主役の一人になった。それは「代走専門」選手が、最高に輝いた瞬間でもあった。

 そんな周東が規定打席到達、3割マークを実現すれば、代走上がり、育成上がりの無名選手にとって、大きな励みになるだろう。快進撃が続くソフトバンクのリードオフマンとして、注目したい。

週間記録セ:「こいのぼり」後もカープが好調

【2024年5月10日〜5月19日 週間成績】
〈セ・リーグ〉
・今季成績
阪 神42試22勝16敗4分 率.579
広 島37試18勝15敗4分 率.545
巨 人43試21勝19敗3分 率.525
DeNA40試18勝21敗1分 率.462
ヤクルト40試17勝21敗2分 率.447
中 日42試17勝21敗4分 率.447

・7週目の成績
広 島7試5勝2敗0分 率.714
阪 神9試6勝3敗0分 率.667
巨 人8試4勝4敗0分 率.500
DeNA8試3勝5敗0分 率.375
ヤクルト8試3勝5敗0分 率.375
中 日8試3勝5敗0分 率.375

「こいのぼりの季節まで好調」と言われた広島が大きく勝ち越し。阪神も連戦をものとせずに2勝1敗ペースをキープしている。

〈打撃成績5傑〉※打撃の総合指標、RC=Runs Create順
 岡本和真(巨)27打10安3本4点 率.370 RC8.58
 長岡秀樹(ヤ)29打14安1本3点 率.483 RC8.30
 近本光司(神)35打9安2本9点1盗 率.257 RC7.09
 サンタナ(ヤ)27打9安1本3点 率.333 RC5.18
 吉川尚輝(巨)30打10安1本2点 率.333 RC4.89

 巨人・岡本はリーグ最多の3本塁打だが4打点と効率は良くなかった。打点は阪神の近本が9、盗塁は中日の田中幹也、DeNAの牧秀悟、阪神の中野拓夢が2で最高だった。

〈投手成績5傑〉※リーグ防御率に基づくPR=Pitching Run順
 松本健吾(ヤ)1登1勝9回 責0率0.00 PR2.64
 柳裕也(中)2登2勝12回 責1率0.75 PR2.53
 才木浩人(神)2登2勝15回 責2率1.20 PR2.41
 小笠原慎之介(中)1登8回 責0率0.00 PR2.35
 大竹耕太郎(神)1登7回 責0率0.00 PR2.06

 ヤクルトの松本は、5月15日の広島戦で初登板初完封勝利。これは2008年にソフトバンクの大場翔太が記録して以来16年ぶり。救援では広島の栗林良吏が3セーブ、同じく島内颯太郎が4ホールド。

週間記録パ:4盗塁の周東よりも成功している選手って誰?

〈パ・リーグ〉
・今季成績
 ソフトバンク39試27勝10敗2分 率.730
 日本ハム39試21勝16敗2分 率.568
 ロッテ40試19勝18敗3分 率.514
 オリックス40試17勝21敗2分 率.447
 楽 天40試17勝22敗1分 率.436
 西 武40試13勝27敗0分 率.325

・7週目の成績
 ソフトバンク6試5勝1敗0分 率.833
 日本ハム8試5勝2敗1分 率.714
 ロッテ8試3勝3敗2分 率.500
 オリックス6試2勝3敗1分 率.400
 楽 天8試3勝5敗0分 率.375
 西 武8試2勝6敗0分 率.250

 ソフトバンクの勢いが止まらない。日本ハムもこれに追随し、2強体制になりそうな様相だ。

〈打撃成績5傑〉
岡大海(ロ)31打13安4本5点1盗 率.419 RC11.24
マルティネス(日)27打8安1本7点 率.296 RC7.77
近藤健介(SB)22打9安2本5点 率.409 RC7.71
蛭間拓哉(西)29打12安4点2盗 率.414 RC6.51
万波中正(日)29打9安2本9点 率.310 RC6.49

 ロッテの岡は4安打、3安打各1、2安打2回の大当たり。4本塁打も1位、打点は日本ハム万波が9、日本ハム松本剛が驚異の6盗塁、ソフトバンク周東はこれに続く4をマークした。

〈投手成績5傑〉
武内夏暉(西)2登1勝15回 責2率1.20 PR3.46
種市篤暉(ロ)1登8回 責0率0.00 PR2.91
山﨑福也(日)1登1勝9回 責1率1.00 PR2.27
齋藤響介(オ)1登5.2回 責0率0.00 PR2.06
カスティーヨ(オ)1登8回 責1率1.13 PR1.91
大関友久(SB)1登8回 責1率1.13 PR1.91

 西武の新人・武内は2登板15回で自責点2と快調だったが、5月19日のソフトバンク戦9回に緊急降板で気になるところだ。救援では日本ハム田中正義、楽天・則本昂大、ソフトバンクのオスナが2セーブ、日本ハム河野竜生が3ホールドを挙げた。

文=広尾晃

photograph by Nanae Suzuki