「全然話すことないよ、試合出てないのに」。シュツットガルトの退団が発表される前、原口元気は、そう前置きしながらも、記者の問いに真摯に向き合った。リーグ戦ベンチ外は8試合。バイエルンを上回るブンデスリーガ2位と躍進を遂げたチームにおいて、原口には満足のいく出場機会が訪れなかった。5月で33歳、自らの立ち位置を痛いほど理解する原口が今、求める居場所とは?〈全2回の2回目/前編から続く〉。

「いやいや、一番プレーしたいのは僕」

 周囲にどう思われていようと、原口元気は前を向いている。

「まあ、いろいろな不安要素はあるにせよ自分自身にはまだ全然期待してて。どこに行くかまだ決まってないけど。良いところに行ければいいんだけね。もしドイツに残るんだったら、2部とかになる可能性もあるんだけど、昇格も難しいかなって思うクラブに行こうとは思わないんで。ある程度、昇格できる規模とかもしかしたら昇格を目指しているクラブとか、そういうとこにうまく入り込めたらいいな。移籍ってパズルなんで」

――移籍は確かに一人の都合だけじゃどうにもならなくて、ほかが動いたらとか駆け引きとか不可抗力の部分もある。

「うん。うまくいけばいいな」

――でもやっぱり、私も無責任ながら原口元気のプレーをまだ見たい。

「いやいや、一番プレーしたいのは僕で。でもね、めちゃくちゃ勉強になりましたね、この監督(セバスティアン・ヘーネス)。めちゃくちゃいい監督。試合に出られなくて悔しいって思いはあるんだけど、監督としてはめちゃくちゃすごくて。戦術、アナライズ、確実に相手が嫌がる分析をして効率的な戦術に落とし込んで。ウルス・フィッシャー(原口の前所属ウニオン・ベルリン時代の監督。2部から昇格させ、CL圏内にまで成長させた)とは違うけど。違うタイプでトップレベルの監督と、2回連続でできたというのは、今後のキャリアに生きると思います。(この1年は)選手としてはダメージがあるし、自分の価値は落ちたと思ってるし、この先もなかなか簡単じゃないけど」

 苦しい中でも、得るものがあった。もしかしたら自分をこの苦境に至らせたかもしれない指揮官を認めるくらいに原口は大人だった。

「ねー最近、原口元気どうしてる?」。槙野智章が心配していたことも告げた。

――カタールで槙野くんに会ったら、原口くんのことをとても気にかけていた。

「(取材前日の5月9日は)誕生日だったから、おめでとうってLINEがきて、(将来は)俺のチームでやれってきたけど。まず(プロチームの)監督になってっていう話なんだけど(笑)」

――本当にそうですね。

「浦和の監督やるなら俺もいく!って答えたけど、本当にいつですかって(笑)」

欧州組を牽引した長谷部、岡崎の引退

 今季の欧州組の中の大きなトピックは、長谷部誠、岡崎慎司という二人のベテランが引退したことだろう。原口にしてみれば先輩たちではあるが、ロシアW杯のチームメイトでもある。彼らの引退をどう見ているのか。

――長谷部くんや岡ちゃんが引退したけど、何かぐっと来るものがあったりする?

「そこはね、俺は俺なんですよ。なんか辞めたって言うけど彼らは結構上手だからまだ。長谷部さんは40歳だし、岡ちゃんも38歳くらい? 俺はまだ33なので」

――いや、彼らの引退と元気くんを重ねたわけではないです。

「わかるよわかるよ。だから。もちろん彼らが決断したっていうのはちょっと(自分のケースとは違うなと)。実は長谷部さんからは、フランクフルト戦の時に引退するって直接聞いてたんで、そう思いながら引退会見を見たんだけど。会見を見てても、あれだけ長くやったら、まあ悔いはないだろうなって感じだったな。結構さっぱりした感じでしょ」

 引退した彼らとはあくまで違う。原口は新天地を探す。

 原口が移籍するとなると、引越しが大変そうだなと毎度想像している。というのも原口がインスタグラムなどでポストしているように、2匹の大型犬と共に暮らしているからだ。

――元気くんの場合、引っ越しが大変そうですね。

「うちって家具とかも多いし、毎回すごい引っ越しは大変になるよ。移籍先は、さっき言ったように自分がチャレンジできるクラブがドイツにあればいいけれど、そういうクラブがもしないんだったらほかの選択肢も考えなきゃいけないなと。どこがとかわかんないです」

――アメリカなどが選択肢に入って来るということ?

「スイスとかオーストリアとかドイツ語圏とか。まあなんか街も大事で、コペンハーゲンとか、わかんないけど良さそうだなと。でも、ストックホルムまで行くとチームないかなっていう。ウィーンはいいな、ラピド(・ウィーン)とかがあったらいいなとか。ただの妄想で、全然(具体的な)話してないし、まずはドイツで探してうまくいけばいいんですけどね。そればかりはもう1年間試合に出てなかったんで、今までの実績だけを評価されるところではあるのだけど」

――そういう時は何を材料にするんです? 映像?

「いやそこは、これまでの実績というか。ドイツのクラブであれば、原口元気のことを知ってくれているけれど、今からスペインとかイギリスとかは、現実的に絶対ないと思う」

 ちょっとした雑談ののち、「まあ見ていてよ」そんな軽口を叩きながら、チームバスへと原口は向かっていった。にやりと笑いながら去っていった様子はかつてのやんちゃな原口のようでもあり、肩の力の抜けたベテランらしさも同時に感じさせた。

 時間は着実に経過しているのだ。1シーズンもほとんどプレーしていないのだから、新天地探しも、新天地でのポジション争いも簡単ではないはずだ。それでも話をきいて、月並みかつシンプルではあるが、あらためて原口元気の今後を楽しみにしている。

〈前編から続く〉

文=了戒美子

photograph by Taisei Iwamoto