5月26日のオリックス戦後、休養が発表された西武・松井稼頭央監督。試合終了から松井監督がベルーナドームを去るまで、195分。その間に一体、何が起きていたのか。現地で取材していた中島大輔氏が振り返る。(全2回の第1回)

試合後にあった違和感

 西武の松井稼頭央監督が“電撃休養”という第一報が日刊スポーツ電子版で伝えられた5月26日17時2分。筆者はベルーナドームの関係者駐車場で“右腕”の平石洋介ヘッド兼打撃戦略コーチを待っていた。

 その1時間ほど前の15時48分、西武はオリックスに5対2で勝利。試合後、いつもは戦術的な采配を質問すると、口をつぐむことも多い松井監督が明確に説明したことに少し違和感を覚えていた。

 松井監督の中で何か変化があったのだろうか――。

 その疑問を解消すべく、駐車場で待機していたが、その速報ですべてが吹き飛んだ。

「松井稼頭央監督が休養『私の責任』最下位低迷 渡辺久信GMが28日中日戦から監督代行」

 その真偽を確かめるためか、少しすると各社の記者たちが続々と駐車場に集まってくる。

「監督の話はまだしゃべるなと言われています……」

 17時15分頃、球場から帰路につく捕手・古賀悠斗が申し訳なさそうにこぼした。日刊スポーツのスクープは、紛れもない真実だと実感した。

交流戦への意気込みを語っていた松井監督

「もちろんゲームも変わりますしね。そういう意味でも初戦、しっかりと戦っていけるように全員でやっていきます」

 2連勝、そして4カードぶりの勝ち越しを決めたこの日のオリックス戦後、松井監督は2日後に始まる交流戦を見据えた。“100敗ペース”と言われる敗戦を重ねる今季の西武だが、同25、26日と若手打者の活躍で逆転勝利を飾り、調子に乗っていけるかもしれない。

 そんな折での電撃発表だけに、誰もが驚きを隠せなかった。

古賀悠斗が語った悔い

 選手たちはどんな胸中なのか。松井監督の休養は語れないだろうが、そこに至る現在の低迷について率直な思いが知りたかった。

「本当に一番悔しいのは自分たちです」

 古賀は当事者として偽りない心境を明かした。

「もちろんファンの方も悔しいと思いますけど、僕たちは勝つために毎日やっているわけで。その中でこれだけ負け越している。でも今日の2連勝は第一歩じゃないですけど、もっと勝ちを増やしたいなと思います。勝った瞬間のファンの喜びをもっと増やしていければと思います」

責任を痛感する正捕手

 極端な貧打にあえぐ西武打線は何とか現状を打破しようと、5月25日の試合前に野手ミーティングを開いた。選手会長の外崎修汰は心を動かされたと言ったが、正捕手を務める古賀はどう感じたのか。

「ポジション柄、僕だけ違う方向を向いてプレーしています。その中で勝てない、僕の配球ミスで負けている試合もある。(自身がリードで出す)指のサイン一つで勝敗が決まるというポジションを守らせてもらっている中での責任というか。そういうのをもうちょっと僕の中で自覚を持ってやらないといけないっていう思いですね」

 複雑な感情を適切に表そうと、古賀は少しずつ言葉を継いだ。後からその内容を振り返ると、正捕手に抜擢してくれた松井監督への想いも込められているように感じられた。

グループLINEにて発表

 古賀に話を聞き終えて数分後、西武の広報部長が駐車場で待つ報道陣の前に現れた。松井監督の休養について、まもなくプレスリリースを記者陣のグループLINEに流すという。

 17時28分、別の広報から「監督人事に関するお知らせ」と題するPDFがLINEで配布された。渡辺久信ゼネラルマネジャー(GM)が監督代行を兼任するという。

 同時に18時をめどに渡辺GM兼監督代行の会見が、駐車場の脇にあるカンファレンスルーム2階で行われると発表された。

後任不在

 この場所に来るのは昨年10月5日、女性スキャンダルを起こした山川穂高(現ソフトバンク)が初めて報道陣に対応したとき以来だ。

 会見場に用意された1席にグレーのスーツ姿で現れた渡辺GM兼監督代行はまず、決意を表明した。

「明後日(5月28日)の交流戦開幕戦から私が監督代行として指揮を取ることになりました。これは松井監督だけの責任じゃないですし、私もチームを全体的に見る立場として非常に申し訳ない。そして責任を感じているところであります。ファンの皆さんにもこういうチーム状況の中、毎日熱い声援をいただき本当に感謝しております。ここからしっかり上を目指して戦っていきます。非常に厳しいシーズン、そしてタフな戦いになると思いますが、チーム一丸となって必ずファンの皆さんの期待に応えられるよう、私もプロ野球人生をかけて挑んでいきたいと思っております」

 テレビ局の代表質問で、渡辺GMは松井監督と「数日前」から今後について話し合い、26日の試合後に休養が決まったと明かした。おそらく、序盤に3点先行しながらエース高橋光成と守護神アルバート・アブレイユが打たれて逆転負けを喫した5月24日のオリックス戦の辺りだろう。

 100敗ペースで負け続ける西武を取材する報道陣の間では少し前から、松井監督の解任はどのタイミングであり得るか、引き継ぐのは誰かという話が交わされていた。現コーチングスタッフを見渡すと、監督を引き継ぐ適任者はなかなか見当たらない。

もう現場には戻らないつもりでいましたけど…

 そんな中で中・長期的にチームづくりを行うGMが、短期の結果を求められる監督代行を兼任するという決断にどう至ったのか。

「私的にもチームをしっかりマネジメントしていかなくてはいけない立場の中で、今の成績について非常に責任を感じていました。球団の方からも『この状況を打破していくためにはGMしかいない』と言われましたので。私もはっきり言うと11年前に(監督を)辞めたとき、もう現場には戻らないつもりでいましたけど、こういう状況になって自分がやるしかないと思っております」

 渡辺監督代行は低迷するチームを鼓舞するかのように、会見を通じて大きな声でハキハキと話した。

GMに聞きたかったこと

 筆者はGMに聞きたいことがあった。会見の冒頭で「松井監督だけの責任じゃない」と認めたように、今季の低迷は不十分な戦力しか提供できていない編成サイドの非が大きい。悪夢の敗戦を喫した5月24日の後、もし次も負けたら渡辺GMに直撃しようと用意していた質問があった。

 テレビ局の質問が終わり、スポーツ紙の記者が手を挙げた後に尋ねた。

――ここまでの低迷は得点力不足が顕著だと思います。編成トップのGMの立場から、十分に戦力は供給できていたとお考えでしょうか?

「外国人にしても、なかなかうまく日本の野球にアジャストできなかったり、今ケガをしていたり(※ヘスス・アギラーが右足首痛で5月8日に登録抹消)、なかなか思っていたような実力を現時点では出してないと思っています。ただ残り100試合近くあるので、しっかり実力通りの力を出してほしい。今ファームでコルデロは状態も上がってきていますし、アギラーもそんなに長く時間はかからないと思うので早く復帰してほしい。そうしないとシーズンが終わっちゃうので、頑張ってほしいと思います」

――若手野手の伸び悩みがこの数年、特に外野手のレギュラーを誰も獲れないなど顕著だと思います。球団としてどういう問題があるとお考えでしょうか?

「球団としてというか、チャンスはみんな与えてもらっていますし。いいときもあるんですけど、それが長続きしない。旬が短いっていうか、なかなかそれでレギュラーを獲れないでいるのがここ数年続いていると思います。すごく能力を持った選手はいるので。プロ野球人生ってそんなに長くないので、しっかり自分を見つめ直してやっていってほしいなと思っています」

 渡辺GM兼監督代行の会見は計3人の記者の質問で終了した。挙手が少なかったのは、それほど松井監督の休養発表が電撃的だったからかもしれない。

平石ヘッド「止まりましょうか」

 渡辺GM兼監督代行の会見を終え、球団施設から駐車場へとつながる階段付近で待っていると、平石ヘッドコーチが現れた。報道陣が一斉に脇を歩き出す。

「止まりましょうか」

 沈痛な表情の平石コーチは歩みを止め、報道陣に対応した。

<つづく>

文=中島大輔

photograph by JIJI PRESS