5月26日、突如休養が発表された西武・松井稼頭央監督。その日、一体何が起きていたのか。ベルーナドームで取材していた中島大輔氏が激動の1日を振り返る。正捕手・古賀悠斗の苦悩、そして渡辺久信GMの決意が語られ、駐車場には監督と一心同体と見られていた平石洋介ヘッド兼打撃戦略コーチが現れる――。(全2回の第2回/前編はこちら)

平石ヘッドが絞り出した言葉

 渡辺GM兼監督代行の会見を終え、球団施設から駐車場へとつながる階段付近で待っていると、平石ヘッドコーチが現れた。報道陣が一斉に脇を歩き出す。

「止まりましょうか」

 沈痛な表情の平石コーチは歩みを止め、報道陣に対応した。

 2022年に打撃コーチとして西武にやって来た平石コーチにとって、松井監督はPL学園の5学年上の先輩だ。絶大な信頼を寄せられ、参謀として支えてきた。

 もし松井監督がシーズン途中で解任されたら、平石コーチも一緒に去るのではないか――。

 彼の熱情的で律儀な性格を知る者ならそう想像したはずで、筆者も同業者とそんな会話を交わしていた。

 独特な低い声でなんとか回答を絞り出していた平石コーチが、本音を漏らしたのが終盤に一般紙記者から問われた質問だった。

――連勝の後の(松井監督の休養という)決定で選手たちのショックが大きいと思うんですけども、今後どういったケアの仕方だったり呼びかけだったりをしていきたいですか?

「うーん……この世界はね、成績次第でいろいろありますので。野球界だけじゃないですけども。いろんな思いがあるのは間違いないと思います。ただ、これは私自身にも言えることなんで。球団と松井監督ともいろいろお話をさせてもらって……すぐに(コーチ続行を)『はい、わかりました』っていう状況じゃなかったんですけども。ただ明後日(5月28日)からまた交流戦が始まりますんでね。そこはしっかりと前を向かないといけないと思いますし。選手の姿を見て、表情を見て、そういう声が必要なんだったらかけると思います」

監督の愛車に積まれた練習道具

 平石コーチがベルーナドームを後にすると、球団施設と駐車場をつなぐ階段のすぐそばに白いベンツが移動されてきた。松井監督の愛車だ。荷物が次々と運ばれてくる。なかには新しいノックバットもあった。

 18時56分頃、私服に着替えた松井監督が現れた。一斉にテレビカメラと記者陣が取り囲む。最後の取材が始まった。

――(2連勝して)これからという部分もあったのかと。

「結果の世界ですから。どうですかね。それまでの結果というのも含めてですね」

 なるべく感情をはさまないような口ぶりだ。普段の会見では考えながら話すような口調が多いが、いつもより早口に聞こえる。

最後の選手への言葉は? の質問に…

 休養はどのように決まったのか。そんな中での采配はどんな思いが去来していたのか。戦力的にも苦しかったはずだが……。

 そんな数問の質疑応答が交わされた後、ファーム監督時代からそばで取材してきたフリー記者が「最後に選手たちへの言葉を」と振ると、いつもの松井監督のようにペースを少し落として語り出した。

「まずは球団にもちろん感謝していますし。こういう位置にいながらでもファンの方に熱い声援をしていただいて。そこで期待に応えられなかったのはもちろん申し訳ないし。ファームに若い選手がいますけれど。うーん……まだね、これから大きく成長する選手も含めてそうですし、もちろん頑張ってほしいですから。しっかりと見ておきたいなと思います」

 込み上げてくる思いをまとめるように、じっくりと話した。最後は小声になっていき、感傷的なように感じた。

 実際に最後、選手たちにどんな言葉をかけたのだろうか。

「本当にあの……」

 そう言うと11秒置き、言葉を継いだ。

最後に告げたメッセージ

「もちろん勝ちに結びつけることができなくて、そこは申し訳ないと話したし。一緒にやれて、もちろんもっとやりたかったですし。結果の世界なので、残りも含めてですね、頑張ってほしいということは伝えました」

 就任2年目、45試合終了時点で15勝30敗。事実上の途中解任。無念さは否めないだろうか。

「結果としてこう出ているわけですからね、そこは。さっきも言いましたけど、その思いをもって受けさせていただいているので。もちろん、もっとできたとかいろいろ思われるかもわかりませんけど、そのとき、そのときで自分の中ではベストを尽くしてきましたから」

 早口な松井監督に戻っていた。まるで自分に言い聞かせているかのようにも感じられた。

 6分強の囲み取材は最後、この日2度目の「ノーコメントでいいですか」で終わった。GMと交わした会談について聞かれたときだけ、松井監督は発言を控えた。

 球団広報が「よろしいですか?」と取材終了を告げると、愛車に乗り込む前に松井監督は一礼した。

「すいません、ありがとうございました、いろいろ。また、若い選手が頑張ってくれると思うので、お願いします」

 報道陣、そして最後の見送りに来た10人程度の球団スタッフに見送られ、松井監督はベルーナドームを去った。

 選手はもちろん、チームの誰のことも責めずに、指揮官として責任を負う。最後の最後まで、松井監督らしい姿だった。

<前編とあわせてお読みください>

文=中島大輔

photograph by JIJI PRESS