“微笑みのクローザー”こと横浜DeNAベイスターズの森原康平は、落ち着いた口調で今シーズンここまでを振り返る。

「非常にやりがいを感じています。今季は僅差の場面での出番も多くて、そこで勝ち切れているのは自分にとってもチームにとっても大きいですし、いい流れの中で集中して投げられていますね」

僕が起用をする立場だったら、難しい選択だった

 ここまで21試合を投げ、防御率1.29、13セーブ(6月3日現在、以下同)、昨季の後半戦に引き続き、守護神としての重責を担っている。

 開幕当初は山﨑康晃とのダブルストッパーとしてのスタートだったが、3月29日の広島との開幕戦(横浜スタジアム)で初セーブを挙げると、セットアッパーでの併用もありつつ、4月後半にはクローザーに定着した。

 今季「勝負できる!」と森原が強く感じたのは、早速抑えを任された開幕戦だったという。

「あそこで使ってくれた三浦(大輔)監督を始め、コーチの方々には感謝しかありませんね。僕が起用する立場だったら、難しい選択だったと思いますから」

オープン戦では防御率15.00

 森原は正直に言った。というのもオープン戦での森原は、不安定なピッチングが続き、4試合を投げ防御率15.00という状況だった。開幕前の最後の登板となった3月22日の日本ハム戦(エスコンフィールド)では、1点リードの9回裏にマウンドに上がり、1アウトも奪えないままアリエル・マルティネスに3ラン本塁打を食らいサヨナラ負けを喫している。

 誰が見ても不安定な内容だったが、森原の中で今季に向けすべての歯車が嚙み合ったのは、開幕の2日前のことだったという。

開幕2日前にピタッと合った歯車

「オープン戦は結構ボロボロで、自分の中で感覚的にズレがあったのですが、開幕2日前にブルペンに入った時、ピッチングのリズムやタイミングがピタッと合うのを感じられて、これなら大丈夫だなって思えたんです」

 プロ8年目の32歳。投手ならではの微細な感覚を研ぎ澄まし、森原は過去の経験から自分の中で正解を見つけ、何とか開幕戦に間に合わせた。またオープン戦最後の登板から1週間空いた中、そこを見極め信頼し、開幕戦で起用をしてくれた首脳陣に森原が感謝するのは正直なところだろう。

山﨑康晃へのメッセージ

 厳しい競争の世界。今はクローザーの立場ではあるが、ライバルである山﨑の姿を森原はどのように見ているのだろうか。1歳下のチーム生え抜きの象徴的な守護神。現在、山﨑はセットアッパーとして、熱い想いを胸に秘め黙々と自分の仕事をしている。互いにリスペクトをする関係であり、森原は真摯な表情で語った。

「ヤス(山﨑)は9回にこだわってやっているし、どこでも投げるってタイプではないと思うんです。覚悟はもちろんあるし、生え抜きで、チームの顔でもある存在。だから逆にヤスには(9回への)こだわりを強く持っていて欲しいと思っているんです」

 同じ場所で投げ、切磋琢磨する仲間だからこそ感じ取れる感情がある。だが森原としては、掴んだ場所を簡単に手放すわけにはいかない。

「誰がどうってわけではなく、自分としてはとにかく挑戦がしたいんですよ。昨年は後半の2カ月ぐらい9回を任せてもらいましたが、今年はシーズン頭から最後まで投げ抜くってことをやり通してみたいんですよね」

最後まで投げ抜く価値とは?

 全球団で12人しかいないクローザー。ひと握りの選ばれし者にしか見えない風景がそこにはある。

「最後まで投げ切れることの経験値たるや多分この先の人生を考えても、自分の大きな財産になることは間違いないと思うんです。これは今しかできないこと。だから自分の中では挑戦って感じなんです」

 潤いのある声で森原は言う。これ以上、投手冥利に尽きることはない、と挑戦権を手に入れた森原は少しだけ頬を紅潮させた。

三振にこだわりも「基本的には昨季と変わらない」

 今季のピッチング内容で特筆すべきは、コントロールの良さと奪三振の多さだ。

 制球力が高くバットに当たりにくい投手を割り出すための指標であるK/BB(奪三振÷与四球)は7.33。通常3.5で優秀と言われる指標だが(昨季は3.09)、森原のコントロールの正確さが際立っていることがわかる。

「自分はパワーピッチャーではないので、コントロールにはこだわっています。やはり四死球を出したくないので、そこは以前から変わらないことですね」

 K/9(奪三振率)の指標も高く9.43(昨季は7.17)という数値を残している。

「確かに今季は三振にはこだわっていますね」

 強いストレートもしかり、今季はフォークが鋭く落ち、空振りを奪えている。ある意味、昨年よりもクローザーらしいピッチングができていると言ってもいいだろう。

「でも基本的には変わらないんですよ。とにかく先頭打者を出さない、フォアボールを出さない。そして“3球構成”。初球でストライクを取って、2球目でカウント0−2か1−1にする。困ったら低めの制球で頑張って、シングルであれば打たれてもいいという配球をする。本当、基本の基本みたいな感じでやっているだけなんです」

マウンド上で微笑む理由

 事もなげに森原は言うが、その基本をやり抜くことが難しいからこそ、多くの投手たちは苦しんでいる。やることはわかっているが、再現性をもって実行するのはどれだけ大変なことか。

「やっぱり大事なのはメンタルだと思います。ピッチャーって感情で左右されるものなんですよ。近年はそれが結構安定しているというか、自分でやることはわかっているので、落ち着いてシンプルにやるだけ。余計なことはまったく考えず、ただマウンドで投げる」

 森原がマウンドで薄く笑みを浮かべるのは、自分のパフォーマンスを出し切るためだ。力み過ぎず、いい緊張感が漂うぐらいのほうがピッチングに集中できる。そしてもうひとつは、ベンチやチームメイト、そしてファンに安心感を与えたいからだ。

「こいつなら大丈夫だって雰囲気をちょっとでも出せたらいいなって」

「そんなのはいらないんだ」後輩に伝えた境地

 メンタルが至極安定してなければ、なかなかこうはいかない。そんな森原の技術や精神性に影響を受けているのが、DeNAの若手投手たちだ。オフに自主トレをともにした徳山壮磨、坂本裕哉、中川虎大の3人は今季、一軍のマウンドに立ち、これまでとはひと味違った上々のピッチングを見せている。

「彼らは能力が高いのに頭の中で考えすぎているところがあったので、シンプルでいいんだよって話はよくしていますね。ピッチャーって、もっとこうしたいって欲を出しがちなんですけど、そんなのはいらないんだって」

後輩が参考にする「冷静と情熱のあいだ」

 達観ともいえる言葉。今季、貴重な中継ぎ左腕として存在感を示している坂本裕哉は、森原について次のように語る。

「尊敬していますし、もう師匠って感じですね。普段はおっとりしているのに、マウンドでは熱い気持ちを内に秘め、冷静にピッチングしている。僕なんかは熱くなりすぎて失敗してきたんですけど、森原さんの話を聞いて、いかに冷静にバッターを見られるか、バランスよく投げることができていると思います」

C・ロナウドのピラティスを取り入れる

 彼らが自主トレを行ったのは、森原の故郷の広島県福山市にある『Studio TAIKA』だ。特に森原が若手投手たちを自主トレに誘ったわけでなく、会話をしているうちに自然と『チーム森原』は集結したという。『Studio TAIKA』の代表は、森原と同級生の幼馴染みであり、ピラティスを軸とし、野球との融和をいち早く採り入れたジムでもある。

「5年ぐらい前ですかね。サッカーのクリスティアーノ・ロナウドがトレーニングにピラティスを採り入れていて、これは野球でもいけるよねって話になって、僕も一緒になってアイディアを出したジムなんですよ。必要なウェイトのマシンを全部揃えて、ブルペンも準備して、ラプソードで数字もチェックできる。ここまでトータルにできる施設は、多分ほかにはないと思いますね」

 心身ともに野球に集中できる環境で『チーム森原』は約1カ月間、寝食をともにし個々の能力を高めていった。

ベイスターズに来て良かったですか? と尋ねると…

 森原が楽天からDeNAにトレードで来て3年目になる。戦力としてはもちろん、人間としてもチームにとって重要な存在になっていることがわかる。森原に「ベイスターズに来て良かったですか?」と尋ねると、口角を上げ柔らかい表情で答えた。

「良かったですし、いい感じで過ごさせてもらっています。やっぱり期待されたり、頼られたり、任せてもらったりすると、人間ってより頑張ろうって思えるし、本当にありがたいなと感謝しながらやっていますよ」

森原が語った「継続と変化」への意識

 結果が出ず苦しい時間もあった。痛いほどの逆風を受けたこともあった。だからこそ理解できたこと、見えてきたものもある。森原がプロの世界を生きるために大事にしていることは一体何なのだろうか。

「難しいですね……まあ特にリリーバーはそうだと思うんですけど、日々やることは変わらない。継続していくことが一番大事なのかなって。けれども自分は常に変化していきたいなって。いや、矛盾しているようで、何かすみません」

 森原は苦笑しながらそう言った。もちろん、そんな単純なことではないのは想像に難くない。

自分の部屋に書かれた10枚以上の目標の紙

「ひたすら同じことを続けるという意味で、僕は目標を紙に書いて部屋に貼り付けてあるんです。それを毎日見て、習慣化しないと継続できない。やることがわかっていて一時期良くても、一瞬でも頭の中から消えたら意味がなくなりますし、それぐらい同じことを続けるのは難しいんです」

 実感を込め森原は語った。目標が書かれ貼り付けている紙は10枚以上に及ぶという。今季達成したい細かい数字から、トレーニング、メンテナンスなど日々の目標が細かく記されている。

3年後の自分へ

 そして、3年後の自分へ――。

「毎年、3年後にピークが来るように目標を立てて、それも紙に書いて、見ながら過ごしているんです。だから今年がキャリアハイではなく、3年後にそうなるように成長していきたいなって考えています」

 日々やることは変わらない。けれども成長という名の“変化”を怠ることなく、常に自分を進化させたい。これが森原のプロとしての矜持である。

 すると森原は、ちょっとだけ照れくさそうな表情を見せ言った。

「プロになって不調や怪我など波はありましたけど、俯瞰してみれば右肩上がりに成長曲線を描けていると思います。ピークは、これからですよ」

1試合1試合の積み重ねしかない

 クローザーとして緊迫したマウンドに立つ日々。シーズンはまだ先が長く油断ならないが、離脱することなく最後まで森原が9回のマウンドを死守できるのか刮目したい。

「1試合1試合の積み重ねしかないので、自分の信条である“準備100%”で毎日を過ごしたいですね。それに、チームみんなが“準備100%”で全力を出せれば、きっと勝率は上がるだろうし、望む結果に手が届くはずだって。それだけの力があるチームだと信じています」

 酸いも甘いも嚙み分けた“微笑みのクローザー”は、確信を込めそう語った。

文=石塚隆

photograph by Kiichi Matsumoto