5月までは素晴らしい活躍だった大谷翔平のバットが、やや鳴りを潜めている。6月に入ってからは――2試合連続本塁打を放ったものの――打率.205、3本塁打、6打点、OPS.732だ。「三冠王間違いなし」とか「2年連続本塁打王」とか、期待感たっぷりに書き立てていたメディアも少しおとなしくなった。

 しかし筆者は、全く心配していない。ドジャースに新加入した大谷は、右ひじ手術のリハビリ中でありながら、上々の滑り出しをしたのだから。

トラウトやジャッジ、ベッツとフリーマンもタイトルは…

 そもそも、MLBはNPBよりも圧倒的に競争相手が多い。どんなすごい選手でも、タイトルの長期独占などは、考えられないのだ。

 MVP3回のマイク・トラウト(エンゼルス)でも主要タイトルは打点王、盗塁王各1回だけ。今を時めくアーロン・ジャッジ(ヤンキース)でも本塁打王2回、打点王1回。ドジャースの盟友ムーキー・ベッツが首位打者1回、フレディ・フリーマンも最多安打2回のみである。

 紹介した選手はすべてMVP受賞者だが、そういうトップ選手でも「個人打撃タイトル」はその程度なのである。13年連続本塁打王の王貞治や、8年連続本塁打王の野村克也、7年連続首位打者のイチローというようなケースは、MLBではほぼ起こらない。

 大谷は、現時点でも「望みうる最高の成績」だと言ってよいのではないか。

 成績が今後もこのレベルで推移するとして――大谷の最終成績を予測すればこうなる。7試合ほど休場するとして155試合出場と想定する。

 155試合620打190安39本102点35盗2盗死、率.306 OPS.955

 素晴らしい成績だ。ナショナル・リーグのDHでは、ブレーブスのマルセル・オスーナが現時点で大谷を上回る本塁打、打点、打率をマークしている。そのためDH部門のシルバースラッガー賞(打撃のベストナイン)こそ難しいかもしれないが、ドジャースの首脳陣は、彼に対する1000億円超の投資が間違いでなかったことを改めて確認することだろう。

大谷翔平が狙える“ある大記録”とは

 さらに言えば、この想定成績に近づけば――ある大記録が視野に入る。

 大谷翔平は「30-30」を達成することになるのだ。

「30-30」とは30本塁打、30盗塁を1人の打者が同時に達成すること。

 MLBでは、打って走ってチームに貢献する身体能力の高い打者を高く評価する。「30-30」はタイトルでこそないが、過去に69例しかない栄誉である。

 過去の達成者は、そうそうたる顔ぶれ。ウィリー・メイズが2回(1956年36本40盗、1957年35本38盗)記録、ハンク・アーロン(1963年44本31盗)の名前もある。現役で言えばトラウト(2012年30本49盗)、ベッツ(2018年32本30盗)なども達成者だ。

 この記録が大きくクローズアップされたのは、ボビー・ボンズが69年に1回、70年代に4回、通算5回記録したのがきっかけではなかったかと思う。彼は「ミスター30-30」とよばれたが、その後、ボビーの息子のバリー・ボンズも父親に並ぶ最多の5回を記録している。

“40本塁打40盗塁”なら史上6度目の偉業

 なお「30-30」の上には「40-40」がある。これは1988年のホセ・カンセコ(42本40盗)、1996年のバリー・ボンズ(42本40盗)、1998年のアレックス・ロドリゲス(42本46盗)、2006年のソリアーノ(46本41盗)、2023年のロナルド・アクーニャJr.(41本73盗)の5例しかない。

 大谷はこのペースで打てば、40本塁打の可能性はかなり高い。盗塁のペースを上げれば史上6人目の「40-40」の可能性もあるだろう。

 なお「30-30」達成者は外野手が圧倒的に多く、続いて内野手となっている。捕手、投手、DHで記録した選手はいない。今年はDHに専念する大谷が記録すれば「史上初」となる。

「ちょっと待ってほしい、大谷翔平は3割をマークするのだから、『トリプルスリー』じゃないのか」

 というファンもいるだろう。確かにそうなのだが、MLBでは「トリプルスリー」はそれほど注目されない。

 MLBではもともと安打は「野手がいないところに落ちた打球」であって運の要素が多い、と考える人が多い。だから「打率」をそれほど重視していない。

「トリプルスリー」はトラウトやベッツら29例だけ

 とはいえMLBでも「トリプルスリー」は珍しく――過去29例となる。

 前述した2012年のトラウト(30本49盗、打率.326)、2018年のベッツ(32本30盗、打率.346)らは「30-30」だけでなく「トリプルスリー」も達成していた。しかしそれはアメリカではさほど注目されなかった。

 ただ大谷が「トリプルスリー」を記録して、日本メディアが大騒ぎすれば――MLBでも注目される可能性はあろう。「30-30」も「トリプルスリー」も、日本人メジャーリーガーとしては初。イチローは30盗塁を10回記録しているが本塁打は15本が最多。松井秀喜は2004年に31本塁打を記録したが、盗塁は3だった。

“長期契約”を結んだからこその、大谷の意識

 なお大谷は、2026年のWBCに出場する可能性を問われて「今のところはそう思っていますし、出たいと言って出られるところではない。選んでもらえるように、まずはトップ層にしっかりとい続けるというのが大事かなと思う」と取材に対して答えている。

 彼自身は当然、2023年に続いて出場して優勝に貢献したい気持ちは持っているだろうが、そのためには32歳となった2026年に「選んでもらえる選手=トップ層」であり続けることが大事だとしている。

 日本人は「大谷のいない侍ジャパンなんて考えられない」「あまりにも謙虚すぎるだろう」と思うかもしれないが、大型契約をして鳴り物入りで入団した選手が、その後ほどなくして故障をしたり、不振に陥ったりして期待を裏切るケースは、掃いて捨てるほどある。

 大谷の身近でいえば、昨年までの同僚だったエンゼルスのアンソニー・レンドーンは、2019年、ナショナルズで126打点を挙げて打点王になり、このオフに7年総額2億4500万ドルの巨額契約を結んだ。しかしその後は、故障が相次ぎ、エンゼルスでは今季5年目シーズン途中まででわずか219試合しか出場せず、通算本塁打は22本だけだ。

 スイングスピードの速さではMLB随一のジャンカルロ・スタントンは、マーリンズ時代の2014年に、当時史上最高の13年総額3億2500万ドル+出来高の契約を結んだ。その契約を持ったままヤンキースに移籍をしたが、ヤンキースに移籍してからは2019年はわずか3本塁打と落ち込んだ。昨年は24本塁打したものの打率は.191。金満球団によくある「不良資産化」が取りざたされている。

 そして12年総額4億2650万ドルの契約を結んでいるトラウトでさえも、ここ4年は規定打席未達、今季は左ひざを負傷して手術をしたために長期離脱を余儀なくされている。

大谷もイチローと同じくケガに強い

 日本円にして10年約1015億円という超大型契約を結んだ大谷は「1年でも長くチーム、ファンの期待に応え続けるにはどうすればよいか」を考えているはずだ。

 大谷はトミー・ジョン手術など、右ひじのじん帯再建手術を2回受けているが、それ以外では日ハム時代の2017年オフに内視鏡による足関節の有痛性三角骨の除去手術、1回目のトミー・ジョン手術後の2019年シーズン途中に左膝の分裂膝蓋骨の手術を受けているが、いずれも予後はよく、プレーに支障は出ていない。さらには今年5月には牽制球が当たって左太もも裏の打撲を負ったが、戦線離脱せずプレーを続けている。

 イチローもそうだったが、大谷もケガや故障に強い選手なのだ。

鈴木誠也や吉田が苦しんでいる姿を見ると…

 大谷は打つだけ、投げるだけでなく、走塁でもリーグトップクラスである。走るというプレーも加わるのはリスクも大きいのだが、それをうまくかいくぐって活躍している。それも大谷の凄いところだ。鈴木誠也や吉田正尚など、MLBに来てから故障に悩まされている選手を見るにつけ、そう思う。

 MLBでは「30本塁打30盗塁」を達成した選手は「30-30クラブの一員になった」という。今季、まずは日本人初、そしてDH初の「30-30クラブ」入りを目指すべきだろう。

文=広尾晃

photograph by Jayne Kamin-Oncea/Getty Images