ドジャース大谷翔平はベッツの骨折離脱によって、当分1番打者を任されることになりそうだ。最初の2試合で計5安打、さらには特大の20号ホームランといきなり結果を残したが……日米時代の打順別成績で見た際の「トップバッターとしての魅力」や、ドジャース打線が抱える新たな課題について数字から予測する。

 スポーツにアクシデントはつきものではあるが、ここ数日のロサンゼルス・ドジャースの災難続きは、不運にもほどがある――といったところか。

 ようやく調子が上がってきた山本由伸が6月15日のロイヤルズ戦で、上腕三頭筋の張りで途中交代。その後、MRI検査で右肩腱板損傷が見つかり負傷者リスト(IL)に入った。手術するほどではないとのことだが、少なくともオールスター明けまではノースロー調整が続くという。

「1番DH」でも元気に3安打1打点1盗塁→特大20号

 翌16日のロイヤルズ戦では、不動の1番打者、ムーキー・ベッツが右腕アルタビラのフォーシームを左手甲に受けて悶絶。彼も手術の必要はないとはいえ――骨折したため、こちらも長期離脱が決定した。

 ドジャースはすでに三塁手のマックス・マンシー、先発投手のボビー・ミラー、救援投手のジョー・ケリー、マイケル・グローブ、ライアン・ブレイジャー、カイル・ハート、コナー・ブレグナンらがIL入りしている。

 通算210勝を挙げている伝説の大投手、クレイトン・カーショウこそ左肩手術から復帰間近と言われるが、日本の球団なら「お祓い」でもしたくなるほどの災難続きである。それでいて、ナ・リーグ西地区の首位を独走しているのだから、戦力の厚さはおそるべきものではあるが。

 で、大谷翔平は相変わらず元気である。

 大相撲の世界に「3しない力士は出世する」という言葉がある。「怪我しない、病気しない、気にしない」の3つだが、まさに大谷は「3しない」選手なのだ。

 2番打者が今季の定位置だった大谷は、ベッツの離脱で1番を打つことになった。現地17日のロッキーズ戦では早速1番DHで先発して、5打数3安打二塁打2本、1打点1盗塁と活躍。8回に四球で出塁すると、きわどいタイミングで二盗したが、二塁ベース上で正座するような格好になって、ひざを痛めなかったか、と冷や冷やした。筋肉や関節がよほど柔軟にできているのだろう。

 さらに翌日の第3打席でも今季MLB最長となる476フィート(約145m)の特大ホームランで、自身4年連続5度目の20本塁打に到達した。

 続く第4打席、センターへの大飛球も相手の超ファインプレーに阻まれなければ、確実に長打になっていた。そしてドジャースが8−9と1点差に詰め寄った9回の第5打席にもレフト前ヒットを放ち、2試合連続のマルチ安打をマーク。テオスカー・ヘルナンデスの劇的な逆転3ランにつなぐ役割を果たしたのだ。

大谷はこれまで「1番打者」でどんな伝説を?

 この大活躍で「1番DH大谷」は、ロバーツ監督の「お気に入りのオーダー」になるのだろう。

 打者・大谷は、少ないながらも1番を打った経験がある。

 以下、NPBとMLBにおける「打順別の大谷の打撃成績」を見ていこう。なお成績はスタメン出場時のみ。

〈NPB〉
 1番:3試9打1安1本1点0盗 率.111/OPS.829
 2番:1試3打1安0本0点0盗 率.333/OPS1.167
 3番:130試496打146安25本88点6盗 率.294/OPS.899
 4番:9試37打13安0本3点0盗 率.351/OPS.790
 5番:86試303打90安15本43点5盗 率.297/OPS.895
 6番:14試53打11安2本8点0盗 率.208/OPS.577
 7番:21試64打12安1本8点1盗 率.188/OPS.561
 8番:6試17打6安0本2点0盗 率.353/OPS.882

 NPB時代の大谷は403試合に出場しているが、代打など途中出場も多く、スタメン出場は270試合にとどまる。

 このうち、130試合で3番、86試合で5番を打っている。4番は中田翔やブランドン・レアードなどが打つことが多く、大谷はその前後を打つ打者だった。4番は2017年に9試合座っただけだ。

2016年には“漫画みたいな”プレーボール弾

 1番は、2013年に1試合、2016年に2試合だけ。しかし2016年7月3日のヤフオクドームのソフトバンク戦は「1番投手」でスタメン出場して、先頭打者としてソフトバンクの右腕・中田賢一の初球を右中間に本塁打している。なお投手としても8回を投げ、5安打無失点10奪三振で8勝目をマーク。まるで漫画のような信じられない離れ業を演じた。

 ただ「1番大谷」の本塁打、安打もこの1本だけ。打率は.111だが、4四球を選んでいるのでOPSは.829になっている。

 日本時代の大谷は打者として、存分に能力を発揮したとは言い難い。そもそも「二刀流」は本当に可能なのか、大谷自身も周囲も模索しながらの日々だったのだから。打者・大谷は、MLBに移籍してから真価を発揮し始めるのだ。

〈MLB〉※スタメン出場のみ。2024年6月18日終了時点
 1番:64試242打67安15本37点11盗 率.277/OPS.914
 2番:309試1158打332安95本206点52盗 率.287/OPS1.005
 3番:247試967打262安58本168点25盗 率.271/OPS.854
 4番:35試132打37安8本29点6盗 率.280/OPS.883
 5番:45試157打39安8本26点6盗 率.248/OPS.862
 6番:12試45打10安2本3点1盗 率.222/OPS.649
 7番:1試4打2安0本0点0盗 率.500/OPS1.350
 8番:6試25打9安3本11点0盗 率.360/OPS1.229

「2番最強打者」理論の中で最も好成績は2番だが

 打者・大谷は773試合に出場しているが、そのうち719試合がスタメン。6番以降の下位打順は、移籍1年目の2018年に集中している。まだ大谷の力量を測りかねている時代に「お試し的」に打線に並べたというところか。

 しかし、実力が証明されてからは、上位を打つことが多くなった。

 指揮官は、抜群の長打力がある上に俊足の大谷には、出来るだけ多くの打席を回したいと考える。だから、大谷の打順は初回に必ず打席が回る1〜3番に集中している。

 近年のMLBでは「2番最強打者」のセオリーが定着している。大谷も2番での出場が一番多い。そしてOPS1.000超というすごい成績を残している。

 ついで3番、昨年までのエンゼルス時代はマイク・トラウトと大谷で「2番、3番」を交替で打つことが多かったのだ。

 1番はこれまで64試合しか出場していない。しかしOPS.904と悪くない成績を収めている。慣れれば、この打順でも好成績を上げるのは間違いない。

1番打者で変化するだろう“3つの個人成績”とは

 1番を打つことで――大谷の個人成績は、かなり変化するはずだ。

 まず1つ目は「打点は減少する」

 1試合、4〜5打席が回って来るうち、1打席は「走者なし」になるのが確定するから。今年の大谷は、1番を打つベッツの出塁率が高いことを受けて、打点を稼いだ面がある。ただ、何度も紹介しているが、MLBでは「打点」は運の要素が多いとして、あまり評価されない。言い換えれば、打点が減ることは問題視されない。

 その代わりに「得点」、つまり本塁を踏む回数は増えるはずだ。

 実はMLBで得点は、打点よりも評価が高い。なんといっても野球は「より多く得点を挙げたチームが勝つ」ゲームだから。どんな形にせよ、得点が多い選手は評価が高くなる。大谷は現時点で57得点とナ・リーグトップ。タイトルではないが、これはぜひ狙いたいところだ。

 2つ目は「安打数も増加する」

 なんといっても1番打者は打席数が多いから、安打数も当然増える。

 現時点では、昨年の首位打者であるパドレスのルイス・アラエスが98安打を打って1位だが、大谷はこれに次ぐ2位の91安打。最多安打もタイトルではないが、イチローはリーグ最多安打を7回も記録している。今季の大谷はイチロー以来の最多安打、さらには日本人ではイチローしか記録していない「シーズン200安打」も狙えるだろう。

 そして、打席が増えるということは、本塁打を打つチャンスも増えることでもある。

「ひらめきと選球眼」を使い分けるのではないか

 もう1つ、1番打者に求められる「出塁率の高さ」である。

 今季の大谷は早打ちが目立つが、それは初球を打った打率が驚異の.397(通算363打144安43本)と、めっぽう強いから。本来、通算でのIsoD(四球による出塁率)は.089とリーグトップクラスだ。出塁が必要な状況では、ボールを見極めるセンスも持ち合わせている。初球を快打する「ひらめき」と、ボールを見極める「選球眼」を使い分けるのではないか。

 そういった意味で、1番大谷はチームの勝利のために邁進しつつ――新たな魅力を見せてくれるのではという楽しみがある。

気になるのは「大谷の後を誰が打つのか問題」

 ただ、問題なのは「大谷の後を打つ打者」だ。

 17、18日は捕手のウィル・スミスが2番、3番はこれまで通りフレディ・フリーマンが打ったが――本来2番には「足のある強打者」が座るべき打順である。ベッツと大谷は、ともに強打者であるだけでなく、塁に出ても脅威となる「走者」なのだ。

 本来なら大谷、フリーマンの並びにしたいところ。ただしフリーマンは典型的な「3番打者」タイプで、1960試合のうち1217試合で3番を打っている(2番は366試合)。足は遅くないが「走れる」タイプとは言えない。

 だから右、左打者の並びなども勘案してウィル・スミスを入れたのだろうが、捕手という守備の負担を考えればずっとこのままは難しいだろう。一方で2番に手ごわい打者を据えることができなければ、2巡目以降の打順で大谷が歩かされることが多くなるはず。

 スピード感と勝負強さで言えば、大谷と仲の良いテオスカー・ヘルナンデスだが、75試合で90三振という荒っぽさは少々いただけない。新加入のキャヴァン・ビジオあたりが大化けしてくれればいいのだが。

 このように、今後は「大谷の後を誰が打つのか?」が大きなポイントになろう。

 ともあれ、山本由伸やベッツが戦線離脱したことを契機に、投打の新たなラインナップを「パズル」のように考えてみる……ロバーツ監督の気持ちになって試合を見てみると、今後も前向きにドジャース戦にのめり込めるのではないか。

文=広尾晃

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