「1番・大谷翔平」が躍動している。

 ムーキー・ベッツ負傷後、2番から繰り上がり、5試合で20打数10安打、5四球、3本塁打。打率.500、出塁率は.600、OPSは1.700にも及ぶ。負傷前にベッツがマークしていた打率.304、出塁率.405、OPS0.892をサンプル数は違えど大きく上回る。大谷には今、『最強1番打者』の称号が与えられている。

 デーブ・ロバーツ監督は米メディアから「なぜ、大谷が1番なのか」と問われ「default」という言葉を使い、笑いながら答えた。

「By default(他に選択の余地がない)。彼は完璧。他の選手で適任はいない。彼には経験もある。スイングも良くなっている。ストライクゾーンをコントロールし、やるべきことをやっている」

「1番」抜擢後、確かに大谷の数字は素晴らしい。だが、大谷の打撃を数字だけで測ることはできない。数字以上の仕事を彼は果たしている。貢献度は絶大だ。

大谷が“ただのヒット”で何度も両手を叩いた場面

 18日、コロラドでのロッキーズ戦。ドジャースは4対9とリードされた9回に7点を挙げ、大逆転勝利を収めた。敵地での9回5点差からの逆転勝利は、ブルックリン・ロビンズ時代の1929年6月25日まで遡る。ヒーローは1点差に詰め寄る満塁本塁打を放ったジェイソン・ヘイワードであり、勝ち越しの3点本塁打を放ったテオスカー・ヘルナンデスだったが、この歴史的な勝利に献身的な打撃で繋げた大谷のアプローチを見逃してはならない。

 代打ヘイワードの満弾で8対9。1死走者なしで1番・大谷に打順は回った。勝利のためにはあと2点、最悪でも1点が欲しいところ。すべき仕事は打者の能力により異なるが、大谷ならば本塁打、安打、四球、この場面で求められるすべての仕事を遂行することが出来る。カウントは1−1。ここで彼は出塁を前提としたアプローチを見せた。

 救援右腕ポドニクが投じた低めのチェンジアップに対し、バットヘッドを遅らせ逆方向を狙った。一塁ベースを回った大谷が何度も両手を叩いている。その姿は昨年3月のWBC準決勝・メキシコ戦を彷彿とさせた。1点ビハインドの9回に先頭で右中間二塁打を放ち、両手を上げチームを鼓舞したあの姿だ。

 2死後、フリーマン敬遠、決勝3点本塁打を放ったヘルナンデスは言った。

「ジェイソンが本塁打を放ち大谷に回した。彼は出塁するためにバトルし、後ろへと繋げた。だからなんとかしたかった」

「ショウヘイは決して本塁打を狙おうとしなかった」

 この大谷の左前打について、後日、ロバーツ監督に話を聞いた。指揮官は熱弁を繰り返した。

「あの場面、彼ならば本塁打、四球、安打での出塁、なんでも出来た。だが、決して彼は本塁打を狙おうとしなかった。攻撃を繋げようとしていた。これはチームメートを信頼し、チーム全員で攻撃しようとする意思表示なんだ。こういうアプローチは選手やダグアウトに伝染する。そして、テオスカーが本塁打で決めた。大谷が見せたアプローチこそ、チームの勝利を最優先に考えた『ウイニング・アプローチ』。ラインナップを『線』として捉え、攻める。素晴らしいものだった」

 指揮官はさらに日々の大谷の献身的な打撃のアプローチも褒め称えた。

「彼は良いチームメートとしてプレーすることを理解している。彼は17日の試合でも9回に二ゴロを放ち走者を三塁に進め、その後の犠牲フライを呼んだ。あのプレーがなかったら、我々はあの試合で勝てなかったかもしれない。彼はチームが勝つために、小さなことであっても、しなくてはならない仕事をしっかりやっている。ドジャース野球の真髄とは、1球1球を大切にし、小さなことをコツコツと積み上げていくことなんだ。翔平はそれを良く理解し、実践してくれている。彼は『ウイニング・アプローチ』を理解した『ウイニング・プレーヤー』なんだ」

 本塁打は野球の華だ。派手な一撃に目を奪われがちとなるが、野球というスポーツには試合の様々な局面において『すべき仕事』がたくさんある。その一方で『してはいけないプレー』も多々ある。真のプロフェッショナルは決して『してはいけない』プレーはしない。すべき仕事を確実に遂行する。

大谷は“チーム打撃”で勝つ喜びを感じている

 思い起こせば、ヤンキース時代の松井秀喜もそうだった。チームメートに高く評価され、手厳しいニューヨークのメディア、目の肥えた野球ファンにも愛された。その理由はすべきプレーを確実に実践し、チームの勝利に貢献したからだった。

 大谷も自らの言葉でフォア・ザ・チーム、ラインナップについての意識を語った。

「シチュエーションもそうですし、打線のメンバーが変われば流れも変わると思うので、ここまでもそうでしたけど、ドジャースという球団のラインナップにまずしっかり慣れるというか、そこが一番ポストシーズン、短期決戦に向けて、大事なんじゃないかなと思います。ラインナップにしっかり順応できるように。そこは一番大事だと思っています」

 今はケガで離脱中の選手もいるが、ドジャースのベッツ、大谷、フリーマン、スミス、マンシー、T・ヘルナンデスと続くラインナップは他球団にとって脅威の的だ。その彼らは常に『線』で攻撃を仕掛ける。自分勝手なフリー・スインガーではない。これこそがドジャースの最大の強み。メジャー移籍7年目。大谷翔平は初めてその攻撃の醍醐味、チームとして戦う喜びを実感している。充実の秋へ向け、その姿をしっかりと見ていきたい。

文=笹田幸嗣

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