今春、33年ぶりにセンバツ甲子園に出場した学法石川高。同校のある福島県石川町は昨年の人口が約1万3700人。10年前は約1万7100人で、毎年300人ほど人口が減っている計算になる。
ここ10年で8つあった小学校のうち6校が閉校。そんな過疎地で奮闘する120人もの野球部員たち。率いるのは“甲子園常連”仙台育英高を20年以上指導した佐々木順一朗監督。同監督に聞いた。【全2回の後編/前編も公開中】

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「毎年250人が亡くなり、50人が生まれる町」

――郡山駅から学法石川までレンタカーで1時間ほどでした。それにしてもすごいところですね……。自然がどんどん深くなっていくといいますか。

佐々木順一朗監督 僕も最初は嫌で嫌で。なぜかというと僕は虫が大嫌いなんですよ。なので、こちらに来てすぐに箱ごと殺虫剤を買いました。

――どんな虫が多いのですか。

佐々木 いちばん多いのはカメムシです。あと、足の長い……なんだ、あれ、カマドウマだ。そういう立地ですから、石川町は今、高齢化と過疎化がすごい進んでいるところでもあるんです。だいたいですけど、毎年、250人くらいの方が亡くなっていて、生まれてくる赤ちゃんは50人くらいだそうです。小学校がどんどんなくなっていて、今後は中学もなくなっていくだろうと言われています。だから、この学校の存続はどうやって人を集めるかにかかっているんです。

――県外の選手もけっこういるんですよね。

佐々木 だって、ここ、県外から採らなかったら来ないですよ。福島県の下の方で、ほぼ栃木県と茨城県に接しているくらいの場所ですから。学校からは最低でも1学年、40人は採ってくださいって言われているんです。なので、120人体制の野球部になります。ピンからキリまで、いろんな選手がいますよ。

「廃校になった小学校を寮にしました」

――仙台育英時代のように「来たければ来ていいよ」というスタンスでは、もういられないわけですね。

佐々木 ここではそれはもう通用しない。昔は、たとえば聖光(学院)とどちらか迷っているんですけどと言われたら、どうぞ、どうぞ、聖光に行ってくださいと言ってたんですけど、ここでは是非、うちに来てくださいと言わなきゃいけない。選手を見に行くまではしないんですけど、見学に来てくれたときに「よかったら来てくれないかな」って。口調が変わりましたね。学法石川で野球をやりたいと言ってくれた子は、もう、その時点でかわいくて仕方ないんですもん。

――基本的に寮生活になるわけですか。

佐々木 ここに通える選手は、そういないですから。どこの部も寮は、使わなくなった小学校や老人ホームを譲り受けて、なんとかやっている状態です。野球部は廃校になった小学校を改修して寮にしました。野球部、サッカー部、陸上部で人を集めている学校なので。

――陸上部と自転車部は名門なんですよね。

佐々木 陸上と自転車は全国でもトップクラスです。あと、ゴルフ部もけっこう強いんですよ。サッカーも強いんですけど、福島には絶対王者の尚志高校がありますからね。尚志になかなか勝てない。数年前、1回だけ勝って冬の選手権に出場したんですけどね。

――この春、学法石川は久々に甲子園に出ましたけど、その前となると1999年夏まで遡るんですね。

佐々木 だから、いつも野球以外は全部強いんですって言っているんです。野球部は応援する部です、って。応援する部から応援される部へ。それが今の目標なんです。

「あなたにあいさつする必要性を感じません」

――この春、オールドファンたちは喜んだのではないですか。

佐々木 でも、甲子園で勝てなかったんでね(1回戦で健大高崎に0−4で敗れる)。うちはこれまで春夏通算で13回甲子園に出ていますけど、ほとんどが1回戦負けで、最高でも2勝しかしたことがないんですよ。だからOBたちは僕には何か言いにくいというのがあるのかもしれませんね。

――佐々木さんは仙台育英で二度、決勝の舞台に立っていますからね。

佐々木 僕がくる前、監督がころころ替わった時代があるんです。OBが口を出すから、うまいこといかなかったんでしょうね。僕が監督に就任したときも、いろいろ言われましたよ。ここはこう戻して欲しいとか、標語が掲げてあってそれも外してはいけないとか。次の日、外しましたけど。

――いきなり衝突したわけですか。

佐々木 でも、僕も言わせてもらいました。昔に戻すためにここへ来たわけではないんです、と。僕ももうすぐ60歳ですから、ここが最後のつもりで来ているのでという話もさせてもらって。まあ、そうだよね、って言ってくれましたけど。

――丸刈りルールも変えてはいけないと言われたのですか。

佐々木 そこは何か言われる前に「髪型は自由でいいよ」と言ったので。ただ、選手に「自分らは丸刈りでいいです」って言われました。それがスタートでしたね。丸刈りが好きとか嫌いということではなくて、何でもかんでも言う通りにはしないよ、っていう感じだったのだと思います。「負けているときこそ笑顔でやれよ」と言ったら、「負けてるのになんで笑顔でやらなきゃいけないんですか」と言われたり。「あなたにあいさつをする必要性を感じません」とも言われましたね。全員じゃないですよ。中にはそういう選手もいたということです。

――なかなか歯ごたえのある選手たちだったわけですね。

佐々木 楽しいでしょ。問題が山積みの方がおもしろいじゃないですか。この春も福島県大会の準決勝で聖光に負けてしまったので、東北大会に進めなかったんです。でも、これで夏、おもしろくなったねって言ってます。そう思わないとがんばれないので。

“聖光1強”を崩せるか

――聖光学院の1強状態が長く続いていた福島県で、ようやくライバルになりうる高校が現れたわけですからね。これからの福島は熱くなりそうです。

佐々木 仙台育英時代、僕は東北大会で聖光にはほとんど負けなかったんです。育英に負けていなかったら、聖光はもっとセンバツにも出ていたと思うんです。なので、そういう悔しさはあるんじゃないかな。

――福島では逆に学法石川の方が聖光に苦手意識があるのではないですか。

佐々木 でも僕が監督になって2年目、2019年秋の福島県大会の2回戦で10−2でコールド勝ちしていますから。今は、もうないと思いますよ。むしろ、向こうの方が苦手意識があるんじゃないかな。

<前編から続く>

文=中村計

photograph by JIJI PRESS