「他のクラブからオファーなかった?」“ちょっと意地悪な問い”に東京ヴェルディ城福浩監督の反応は?「答えになっているかわかりませんが…」
Number Web2/26(水)11:02

「他のクラブからオファーなかった?」“ちょっと意地悪な問い”に東京ヴェルディ城福浩監督の反応は?「答えになっているかわかりませんが…」 photograph by Atsushi Kondo
昨季、16年ぶりにJ1復帰を果たした“名門”東京ヴェルディは6位でシーズンを終えた。その躍進を支えたのは、Jリーグ日本人最年長の指揮官・城福浩(63歳)だ。衰え知らずの情熱は、低迷していたクラブに何をもたらしたのか。NumberWebノンフィクションの最終回は、城福浩監督がが語った今季の展望。<全3回の第3回/第1回から公開中>
感動的なほど変わった選手のプレーぶり
江尻の取材から、時間は1日逆戻りする。名護での3日目、ヴェルディは名古屋グランパスと黄金森陸上競技場でトレーニングマッチを行った。
ちょうど1年前、同じ競技場で両者は対戦している。その時の試合では、ヴェルディはレギュラーメンバー、対する名古屋は控え組、いや正確には控え組のさらに控え組中心のメンバーだった。グランパスはその前日マリノスとの練習試合を行ったばかりで、この日の試合はヴェルディの要望に名古屋側がなんとか応えてくれて実現。わずか2カ月足らず前にJ1昇格を決めたヴェルディは、練習試合をやってくれる相手を見つけるのにも四苦八苦していたのだ。結果は4-1でヴェルディが勝ったが、内容は乏しかった。格下のチームがゆるい空気の中で、たまたま格上相手に勝っただけ、という類の試合だった。
それから1年、互いにレギュラー組でスタートしたトレーニングマッチの1本目、ヴェルディは名古屋を相手にほぼ互角の試合を演じ、見事なパスワークから先制点を決める。J1でのワンシーズンを経て選手たちの顔つきが変わったように、選手たちのプレーぶりも(これまた感動的なほど)すっかり変わっていることに、僕は少なからず感動する。
ところが2本目は一瞬の隙をつかれて一気に3失点、前半の出来が帳消しになってしまうような内容だった(それはまさに昨シーズンの前半戦でヴェルディが見せていたような光景だった)。ちょっと気を抜けばすぐにこうなるのがJ1でサッカーをやるということだ。
続く3本目は選手を次のセットに入れ替えたヴェルディが2−0でリードし、4本目はお互い無得点で0−0だった。
ただ、うまくいかないゲームの中でも、名古屋の控え組はレフェリーに対してあからさまな苛立ちをぶつけていたが、ヴェルディの選手たちは黙々とプレーに集中していた。城福ヴェルディの基本は、文句を言ってる暇はない、倒されてアピールする暇があったら、その1秒でもう5m走れ、がこの段階で浸透していた。
結果はトータルで3−3の引き分け。数字だけ見れば昨年よりも悪いのだけれど、ピッチの中に漂う予感、残した印象で言えば、昨年は「?」だったけれど今年は「!」となる。
「いや、慢心しちゃダメっしょ」
その日の夕方前、僕は先にホテルに戻って撮影セットの前で選手たちを待つ。昨年のホーム最終戦、川崎Fを相手にDFとしてハットトリックを決めた谷口栄人が通りかかったので、僕はさっき目にした名古屋戦の印象を口にする。
――みんな、びっくりするほど成長したね。
背番号3は特に嬉しそうな顔もせず、むしろキツめの視線を返して、さらっと答える。
「いや、慢心しちゃダメっしょ」
江尻強化部長へのインタビュー直前、僕は同じ部屋の中で今度は城福監督に話を聞いた。沖縄での城福監督は、やはりいつものように朝から晩までずっと最大値で仕事をし続けている。いったいこの人はいつ休んでいるんだろうか? そんな疑問が頭に浮かんだ。
城福監督への「ちょっと意地悪な問いかけ」
――昨年の最終戦が終わってから、ゆっくり休息はとれましたか?
「えっと……シーズンが終わって1週間後にシンガポールに飛んで、いろいろご縁があったあちらのサッカー指導者の仕事ぶりを確認したり、他の関係者にレクチャーを行ったりと、新シーズンの始動までの間、ゆっくりしたのは正月の三が日だけですかね。人間ドックはちゃんとすませましたけど」
マグロやサメが泳ぎ続けないと生きていけないように、きっと城福浩という人もサッカーに毎日関わり続けていないと逆に体調がおかしくなってしまうのかもしれない。
2番目の質問は、ちょっと意地悪な問いかけだ。
――あれだけの仕事をやってのけた監督に、他クラブからのオファーはなかったんですか?
もちろん監督はそんな質問にはっきりと答えるわけがないし、僕も元々期待していない。
「ご質問の答えになってるかどうかわかりませんが、資金を潤沢に使って、最高の選手に三顧の礼をもって来てもらう。そういうチームには、そういうチームなりの大変な苦労があるんです。失敗すると、ものすごく大きなハレーションが起こる。結局、どの道を辿って山に登っても、しんどいのはしんどいんです。じゃあ、山頂を目指す時に、どのしんどさが自分にとって一番充実感があるのか、と。私はもちろん全てを経験している訳ではありませんが、私の知っているしんどさの中では、今の山の登り方、このヴェルディというチームで感じている苦労、やりがいが一番自分らしいのかな、と。そんなふうに思います」
城福浩という人間は、答えようのない質問にもしっかりと向き合い、けっして無駄な時間に終わらせない。
昨シーズンを6位という素晴らしい数字で終えた東京ヴェルディはオフシーズン、木村勇大、山見大登、林尚輝、そして染野唯月という期限付き移籍だった4人の選手を完全移籍で買取、残りの主力選手とも(福岡に移籍した見木をのぞいて)全員契約更改に成功。加えて、新たにジュビロ磐田からは平川怜と鈴木海音、そしてガンバ大阪から福田湧矢と、これまた若手の実力派を獲得した。
「他クラブからの話をもらった選手たちはたくさんいましたよ。私も最後に、いくつものオファーがあった選手、『迷っています』という選手に会って話もしました。その言葉がどれだけ大きかったのか、それは僕が語ることではないと思います。私の言葉なんてただの言葉でしかないから。大事なのは、彼らがヴェルディでの日々をどう過ごしたか、それまでどう感じていたか、だと思います。経験豊富なコーチングスタッフと共に練り上げた練習の内容であったり、その研ぎ澄まし方であったり。彼らから見た納得感や充実感。移籍の結論も、結局は日々の積み重ねが導き出すものなんですよね」
情熱があれば、コーチ同士でもぶつかる
東京ヴェルディのスタッフ陣の充実ぶりはJ1でも屈指のものだから、と城福浩は自負するし、他チームの関係者の意見を拾っても、練習中にそれぞれのコーチがこれだけ声を出しているクラブは他にない、という。
「一緒に仕事をしましょうよ、と誘うにしても、十分なサラリーを払いますと言える状況ではないですから。だから、ここにいるスタッフは縁や、さまざまな想いがあって集まってくれた人たちなんですよね。みんなそれぞれの持ち場で実力があることはわかっていましたけど、最初からそれがうまく機能していたかというと、そんなことはないんですよ。こだわりがあって、得意なものがあって、情熱があれば、当たり前ですけどコーチ同士でもぶつかるんですよ」
昨シーズン、開幕から4カ月くらいはスタッフも自分の能力の最大値は出せていなかった、と城福は言う。コーチを含めたスタッフが、それぞれの分担を少しずつ補いながら、でも責任の所在は明確にする。補い合う空気があるからこそ、意見の交換もできるようになる。
「ただ、それができるようになるには、やはり時間はかかるんです。シーズン序盤の苦しかった時ももちろんみんな勝ちたかったし、どうにかしたかった。経験と情熱を持ったスタッフがいる――そこに関してはJリーグの中でもウチはものすごいアドバンテージがあると思っています」
課題が満載なのは、とてもいいこと
――名古屋とのトレーニングマッチ、昨年のことを思い出しながら撮影をしていたのですが、本当にチームが成長したなという印象を受けました。
「キャンプに入って、昨日の試合が4試合目でした。これまでも1試合1試合、すごく初歩的な課題が出て、それを修正したらまた次の課題が出て、と。それらを一つ一つミーティングで確認して、練習でやって、と繰り返すんですが、彼らは思い出すんですよね。ああそうだったな、これはこうだったよね、と。今季もチームのベースは変わらないので、その思い出し方が早い。だから少なくとも昨日の試合の1本目は、今までに共有したことをうまく表現できたかなと思います」
しかし、と付け加える。精神的にアラートな状態、肉体的にフレッシュな状態であれば、今のヴェルディには表現できることがある。しかし試合は90分、集中力が途切れた時、チーム全体としてどうするのか。あるいは、いい状態の時に失点した場合、まだヘッドダウンしてしまう、その癖をどう取り去るのか。まだまだ課題は山積みだと。
「まだコンディション的に60分までだよね、と。いい試合をやっているのに点を取られることがある。そういうときに、さあここが大事だよ!という空気感がまだ作れないんですよね」
そして、課題が今の時点で満載なのは、とてもいいことなんだ、と城福は言う。むしろこの時点でもう何も問題ない、というのが一番怖い、と。
「去年はギリギリ開幕に間に合わせましたけど、今年はやるべきこと、ブラッシュアップするべきことを去年よりも早いペースでやれてはいます」
――いい試合ができていても点を取られることはあるんだから、そういうセリフって昨年のキャンプの今の時点では言えないセリフだったかと。
「とてもじゃないけど言えなかったですね(笑)。今年の1試合目の課題が、去年のキャンプでいうと最後の試合で抽出された課題、ですから」
――スタート地点が去年より高い。そこに対する緊張感はあるんですか?
「もちろん緊張感はあります。でも、なんて言うんだろうな、サッカーにおける『ベース』って、普通は『止める・蹴る』っていう言葉が思い浮かぶじゃないですか。僕らの『ベース』は、それだけじゃなくて、今まで自分がやったことのないボールへの寄せ方やヘディングの競り方、連続するポジションの修正ということ。それを100%でやるというベースの上に、選手の組み合わせや、ポジションごとのタスクや、システムがある。だからそのベースさえ維持できていれば、そんなに崩れることはないだろうなとは思っています」
去年は6位…今シーズンはどこまでいける?
そしてもちろんその100%が意味するものは当然、去年の100%よりも大きな100%になってしかるべきだと城福監督は強く言う。それを聞くと、僕のような能天気な人間は、次に必ずこういう質問をしてしまう。
「去年の今ごろあの状態で6位になれました。ということは、今シーズンはどこまでいけるんでしょうか?」
そして、そういう質問をするメディアに対してもう100万回くらい答えて来たベテラン監督は、とてもわかりやすくこう説明する。
「練習の環境、食事のメニュー、エキップ(練習着やトレーニング用具)の量、そして練習の質、選手に求める基準、そういうものを一つ一つ上げてゆく時、一番やりやすいのは一番底から始めることですよね」
そして実際、城福浩が2022年の夏にこのクラブにやってきたとき「東京ヴェルディはこれ以上の底はないよね」という状況だった。
「陸上競技でちょっと足の速い子に、ちゃんと走り方、正しいフォームとスタートのコツを教えてあげれば、14秒だった子があっという間に11秒台にはなりますよ。でもそれを10秒9、10秒8に縮めていくのがどれだけ大変か。ヴェルディも、昨季までは『1秒ってこんなにすぐに縮まるの!』って感じだったんですよ。みんなが努力して、こんなに進歩するんだ!と。でも、ここから先は、誰もが10秒台で走る世界、そして今までの努力じゃ、コンマ1秒は縮まらないです」
じゃあそのコンマ1秒を縮めるためにはどうするのか? そこも聞いてみたい気がするけれど、その答えを聞いていたらきっと翌日の朝までかかりそうな気がするし、なんとなく答えはわかっているような気もする。
なぜ東京ヴェルディの監督を引き受けたのか?
――ところで城福さんは、なんで東京ヴェルディの監督の仕事を引き受けてもいいなと思ったんですか?
僕は話題を変えて、前々から一度本人に直接聞いてみたかった、極めて素朴な疑問を口にする。
「もちろん監督をやりたいと思っていたし、それはJ1であってほしい、だからJ1からのオファーを待とうと。それと就任半年前の21年冬に正式なオファーをいただいていたんですね。でも自分のキャリアを振り返った時、今ある60クラブの中で一番遠いクラブはヴェルディだと思っていたので、受けられるわけがないだろう、と思っていたんですよね」
だから城福はそのオファーを丁重に断り、他からの知らせを引き続き待った。
「ところがですね、そうやって一度オファーをもらったクラブのことって、なんだか気になるんですよ。見るんですよね、ヴェルディの試合を。自分が現場にいた時はカテゴリーが違ったこともありヴェルディの試合を見ることはなかったですから」
観客の数の少なさに驚きながら、ああこの試合勝ったんだ、負けたんだと見続けたことで、城福の中の東京ヴェルディの位置は微妙に変化したのだろう。半年後に改めてオファーを受けた時、この緑色のクラブは少なくとも自分から一番遠いところに存在するものではなくなっていた。
「ヴェルディだからNoとか、J2だからとか、そういう目線ではなく、このヴェルディを変えるんだったらオレならこうするとか、このヴェルディを変えたらサッカー界への影響は計り知れないだろうな、とか。それこそ、東京ダービーどうなるんだろうな、とか。無意識のうちにそういうことを考えている自分がいたんですよね」
キャンプ初日に起こったこと
もちろんうまくいかなかったときのリスクが大きいことはわかっていたが、それ以上のリターンを想像できた。だから城福浩は2度目のオファーに対して首を縦に振り、そこから新しい緑の歴史が始まった。
――今シーズンのキャンプでの城福監督はなんだかとても穏やかに見えますね?
僕はインタビューの最後にそう告げる。実際、昨年のキャンプに比べると彼の笑顔を見る機会は明らかに多かったし、大きな声で選手へ指示を出すよりも、一歩下がってじっとトレーニングを見つめる時間が長かった。
「そうですかね? まあそれでもしめるところはしめてますけど(笑)」
監督は微笑みながら、キャンプ初日に起こったことを教えてくれる。
「6対6のポゼッション練習だったかな。僕がボールを空中に投げて、そこからスタートするんですが、わざと新加入の平川のところへ放ったんです」
平川とは、ジュビロ磐田から今シーズン移籍してきた平川怜のことだ。アンダー世代の日本代表経験があり、練習を視察に来ていた北澤豪曰く、とんでもなく才能がある、選手だ。
「そしたら彼はそのボールを競る姿勢が足りなくて、後ろから来た松橋優安にがつーんとやられたんです。僕は1回ゲームを止めて、おい、待て、と。プレースタイルは関係ない、と。それは彼に言ったし、同時に彼以外にも言ったんです。そのあともう一度ボールを投げたら、彼は後ろに下がりながら思い切りバーンと競りにいって、そこからはもうずっと全部本気で競ってますから」
ビブス一つのことで怒鳴り声の城福監督
1月31日、名護での合宿は最終日を迎えた。翌日にクローズドのトレーニングマッチを控えたチームは若干軽めのトレーニングをこなし、最後に赤色と白色のビブスをつけた選手に分かれ、コーナーキックからの守備の練習が始まった。
一本、一本のコーナーキック、そのたび選手たちはマークを確認し、ポジションングを修正する。何本かのキックが終わると、次は控え組の選手たちが少し離れたところに置いてあった赤いビブスをピックアップし、それを身にまとってレギュラー組と入れ替わった。
ピピー!いきなり城福監督の甲高いホイッスルがなる。
「おい!なんで選手のところにビブスを持って行ってやらないんだ!スタッフが選手に持っていってやれば、その時間も(選手は練習に)集中できるんじゃないのか!」
何位になるかはわからない。なにかのタイトルをとれるかもしれないし、とれないかもしれない。でも僕はビブス一つのことで必死の形相で怒鳴り声をあげる城福浩という監督を眺めながらこう思う。
今年もヴェルディは面白そうだな、と。
<全3回/第1回から公開中>
文=近藤篤
photograph by Atsushi Kondo












