8キロ増“191キロ”に「太り過ぎ」の声も…新横綱・大の里はなぜ強い? じつは“常識外だらけ”の正体「本場所でこんなことをする力士はいない」

Number Web6/6(金)11:03

8キロ増“191キロ”に「太り過ぎ」の声も…新横綱・大の里はなぜ強い? じつは“常識外だらけ”の正体「本場所でこんなことをする力士はいない」

8キロ増“191キロ”に「太り過ぎ」の声も…新横綱・大の里はなぜ強い? じつは“常識外だらけ”の正体「本場所でこんなことをする力士はいない」 photograph by Kiichi Matsumoto/JMPA

 初土俵からわずか13場所で横綱昇進を果たした大の里(24歳)。身長192センチ、体重191キロの恵まれた体躯だけではない、“過去に類を見ない”非凡な能力とは。新横綱の強さの秘密に迫った。

8キロの増量「太り過ぎ」の声も…スピードに鈍りなし

 初の綱取りに挑む夏場所前の4月30日の計測では、体重がこれまでより8キロも増えて191キロとなり、幕内最重量となった。体調不良もあって翌5月1日に行われた、所属する二所一門の連合稽古を欠席。翌日の横綱審議委員会による稽古総見でも、横綱豊昇龍とは9番の手合わせがあって1勝8敗と振るわなかった。

「上半身と下半身がバラバラだった」と振り返ったが「体重は増えたけど、体は動いている」と、一部で「太り過ぎ」を指摘する声もあったが問題がないことを強調。その後は急ピッチではあったが、初日までにはきっちりと仕上げてきた。

 大きな体を生かし、圧力をかけながら前に攻める相撲は迫力満点であり、規格外のパワーは大の里の大きな持ち味ではあるが、あの巨体を持て余すことなく、鋭い出足で相手を一気の速攻で圧倒するところにこそ、“100年に一人”と言われる超逸材の非凡さがある。あれだけの巨漢でありながら、パワーとスピードの両方を兼ね備えた力士は、過去を含めてもまず見当たらない。

「本場所でこんなことをする力士はいない」

「落ち着いて伸び伸びと何も考えることなく、思い切って取れてよかった」

 1場所15日制下において、綱取り大関としては史上初めて13日目に優勝を決めると、この場所の相撲ぶりについてそう振り返った。盤石な相撲を取り切り、連覇で4度目の優勝を決めるとともに綱を手繰り寄せたが、11日目の小結若隆景戦は唯一、相手得意の形を許した一番となった。

 立ち合いのもろ手突きは若隆景に下からうまくあてがわれ不発。ならばと右を差そうとするが、これも相撲巧者の左からの強烈なおっつけで果たせず、たちまち相手を懐に入れてしまった。理詰めの攻めで自分十分となった若隆景は左を深く差し、頭をつける絶好の体勢となった。

 右は肩越しの深い上手を取らざるを得なかった大の里は窮地に陥ったが、ここで大胆な動きに出る。左で相手の頭の位置を右上手側にずらし、自身の体と右上手で相手を挟みつけるようにして、そのまま体を預けながら寄り倒した。

 四つ身で攻める際は、差し手のほうに体を寄せるのがセオリーだ。そうすることで相手に突き落としや捨て身の投げなどの逆転技を仕掛ける余地がなくなるからだ。右上手のほうに体を寄せた大の里は、セオリーを度外視した“力技”で若隆景をねじ伏せた。しかも、攻めながら相手の頭の位置をずらすという器用な芸当までやってのけた。

 場所後、改めてその真意を尋ねると「頭をつけられたので、無意識にやってましたね。今後、新たな武器になるかもしれない」と不敵な笑みを浮かべた。

 巡業や花相撲の余興として、相撲の禁じ手などを面白おかしく紹介する“初っ切り”ではよくある光景だが、本場所の相撲でこんなことをする力士は後にも先にも大の里しかいない。

負けっぱなしで稽古を切り上げ「これ以上やっても…」

 大関3場所目の先の春場所で3度目の優勝を遂げ、いよいよ綱取りに挑むことになるのだが、場所後の春巡業は圧倒的な強さをアピールするには至らなかった。4月15日の東京・大田区巡業では、本場所は6戦6勝としている霧島と4番稽古をして4連敗。最後は相手の外掛けに腰から崩れ落ち、自ら稽古を切り上げた。

 上位力士であれば、稽古は決して負けて終わってはならないという鉄則が角界にはある。昨年亡くなった元横綱の北の富士さんは現役時代、どうも調子が上がらず、格下相手に負けて稽古を終えようとしたら、のちに理事長となる春日野親方(元横綱栃錦)から「横綱、大関は負けて終わったらいけないんだよ」と諭されたという。

 この日の大の里は「疲れもあったと思う。今日はこれ以上やっても……」という合理的な判断で土俵を降りた。こうした慣習や常識とされることにとらわれない発想の持ち主であることも、新横綱の強さの一端なのかもしれない。

唯一無二の強さを支える“思考力と決断力”

 関脇時代の2024年(令和6年)名古屋場所11日目の横綱照ノ富士戦では、先に得意の右を差し、左は差し手争いの状態で横綱十分の右を差させなかった。大の里優勢な体勢だったにもかかわらず、差した右のかいなを自らスパッと抜くと同時に、素早く体を左に開きながら突き落とすと、照ノ富士はつっかえ棒を外されたように前のめりに土俵を這った。

「相手が左上手を取りにきたのでヤバいと思って、自然と右の差し手を抜いて、止まらずに動きの中で突き落とすことができた」

 特に格上の相手に対し、せっかく得意の形になりながら、咄嗟の判断で自分からその体勢を崩して次の展開に持ち込むことは、技術だけでなく相当な胆力も必要とするであろう。

 既存の定説やセオリーに拘泥することのない柔軟な思考と思い切った決断力も、恵まれた体格と素質、たゆまぬ努力によって培われた“唯一無二”の強さの根幹を成す重要な要素でもあるのだ。

文=荒井太郎

photograph by Kiichi Matsumoto/JMPA

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