中谷潤人に大善戦・西田凌佑は「仮に井上尚弥と戦っても、なかなか倒されないはず」元王者・伊藤雅雪はプロモーター目線で「また西田を見たい」
Number Web6/12(木)17:03

中谷潤人に大善戦・西田凌佑は「仮に井上尚弥と戦っても、なかなか倒されないはず」元王者・伊藤雅雪はプロモーター目線で「また西田を見たい」 photograph by Naoki Fukuda
6月8日、有明コロシアムでWBC&IBF世界バンタム級王座統一戦に臨んだ西田凌佑。中谷潤人にベルトを奪われ、敗者としてリングを降りたが、会場からは惜しみない拍手が送られた。ボクシングファンの心をつかんだ熱戦の裏側には、西田なりの作戦があった。昨年12月の防衛戦も大阪のリングサイドで観戦していた元WBO世界スーパーフェザー級王者の伊藤雅雪が解説する。〈全2回の2回目/中谷編を読む〉
予想どおりである。開始のゴングから中谷潤人が積極的に前へ出て戦うことは想定外だったが、伊藤は西田陣営が選んだ作戦には驚かなかった。今年2月、中谷戦の話が持ち上がったばかりの頃にNumberWebのインタビューでこう話していた。
「ハートのある西田は前に出ていける。打ち合いになる可能性もある」
西田は近い距離も巧みだった
アマ出身のアウトボクサーとして鳴らし、一定の距離を保ちながら戦うスタイルに定評はあるが、それとは異なる一面を高く評価していた。
「昨年12月の試合でも、要所で見せていたんです。西田は近い距離でもうまかった。自分本来のボクシングではないかもしれませんけど」
中谷潤人との統一戦で接近戦に勝機を見いだしたのも、深くうなずけるという。むしろ、勝つ可能性を少しでも高めるための賢明な選択に思えた。ロングレンジで戦えば、相手のほうが一枚も二枚も上手。出入りのスピードを考えても、中谷にパンチが当たるイメージはできなかった。
今回の戦い方は理にかなっている
「アウトボクシングをしたときの実力差を考えると、今回の戦い方は理にかなっていると思いました。実際、西田の距離は絶妙だった。中間距離から一歩入ったところで、ガードしながら左のボディブローをよく返していた。
特に3ラウンド、4ラウンドは潤人が大振りになったあと、左ストレート、右フックをうまく当てた。接近戦の細かい技術は高いです。中谷陣営はもっと早くに終わると思っていたようですが、そうはいきませんでした」
うまいよりも堅いガードが機能した
中谷陣営の思惑を少し狂わせたのは、西田の崩れないガードだ。どれだけ強く殴られても、体が大きくぐらつくことはなかった。結果的には肩と腕を打たれて、ダメージを蓄積することになったものの、一方的に打たれる展開にはなっていない。伊藤はジェスチャーを交え、顔の前に置いたガードがいかに機能していたかを力説する。
「僕の印象では、“うまいガード”というよりは“堅いガード”。潤人の多彩なパンチも見えていたと思います。キャッチしていましたから。途中で余裕が出て、少しガードを下げるシーンもありました。まともなクリーンヒットは5回の左ストレート一発くらいじゃないですか。あれ以外は致命打になるようなパンチは、ほとんど被弾していないはずです。
正直、西田が倒れる感じはしなかった。仮に井上尚弥と戦っても、なかなか倒されないと思います。“ブラックホール”という異名がつくのも分かります。相手を飲み込んでしまうんですよ。もしも脱臼していなければ、勝てなくても、耐えて判定までは行った可能性はあるのかなって」
見ていた選手は、西田とはやりたくないと思ったのでは
特別に華があるタイプではないが、とにかく頑丈でタフ。地域タイトルマッチで元世界フライ級王者の比嘉大吾を下し、井上尚弥と対戦したエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)からIBF世界バンタム級王座を奪取した実力は本物だった。
「誰と戦っても、なかなか崩れないと思います。見ていた選手たちはみんな、西田とはやりたくないな、と思ったんじゃないですか。堤聖也、武居由樹といったバンタム級の世界チャンピオンと戦っても、どっちが勝つか分からない試合になる気がします。(中谷戦の)3、4ラウンドのペースが12回まで続く可能性があるので。中谷潤人が“普通のチャンピオン”ではなかっただけです。今回は負けましたが、評価は下がらないと思います」
西田コールを生んだ善戦
西田はプロキャリア11戦目で初黒星。奈良県出身で主に大阪のリングを主戦場に戦ってきた。当日、東京の有明コロシアムには応援団が駆けつけていたが、客席を埋め尽くすほど大挙してきたわけではない。それでも、4回には自然発生的に大きな“西田コール”が巻き起こった。リングサイドに座っていた伊藤は、思わず客席を見渡した。
「もともとのファンかどうかは分からないですが、西田へのリスペクトを感じましたね。今の潤人と誰も戦いたがらないなか、自ら『やる』と言ってリングに上がり、あれだけの試合をしたんですから。世界チャンピオンとして、立派な戦いを見せました。
今後、スーパーバンタム級に上げたとしても、良い舞台が用意されるはずです。1対9、2対8くらいの下馬評だった試合を『西田、結構やるぞ』と思わせ、盛り上げたのは大きい。井上尚弥に善戦したラモン・カルデナスみたいな存在ですよね。関係者も絶対に無下にしないと思います」
応援したくなる人となり
伊藤は、西田の誠実で礼儀正しい人となりもよく知っている。昨年12月の初防衛戦前にプロモーション映像をつくるために西田本人と会話を交わすなかで、ひしひしと感じた。
「『こんな優等生はいない』というくらい性格がいい。絶対に人から嫌われるタイプではないと思います。物腰も柔らかくてボクサーっぽくないのですが、リングに入ると、闘志を見せますよね。パンチをもらっても効いてないぞ、と首を振っていた場面もそう。人柄を含め、頑張っている感じが伝わってきます。ファンからしても、応援したくなる選手なんだと思います」
中谷が階級を上げれば、バンタム級のタレントは横並びだという。世界のベルトが手元にない那須川天心、比嘉大吾、井上拓真らまで含めて、実力は伯仲と見ている。西田もそこに加わる資格を持っているが、伊藤は減量の限界を指摘する。
スーパーバンタム級でもトップ戦線に絡める
「普段のナチュラルな体を見ると、バンタムまで落とすのは相当しんどいという印象を受けました。(2階級上の)フェザー級の体格でもおかしくないと思ったくらいです。
もともと減量がきついと聞いていたので、今後は1階級上げると思いますよ。スーパーバンタム級でも世界のトップ戦線に必ず絡んでくるはずです。井上と中谷は別として、その他は誰と戦っても、勝てる可能性はあると思います。僕はリングでまた西田を見たいですね」
中谷戦で株を上げた、愛されるダークホース。大物を飲み込む予感を漂わせるブラックホールの需要は、まだまだありそうだ。
〈全2回の2回目/中谷編を読む〉
文=杉園昌之
photograph by Naoki Fukuda












