名護市辺野古の新基地建設を巡り、沖縄防衛局は8月1日から、軟弱地盤が広がる大浦湾側の本格的な地盤改良工事に着手する。

 16日の県議選で玉城デニー知事を支える県政与党が大敗し、少数与党に転落。防衛局はその2日後の18日に、工事の着手を県に通知した。

 攻め手を欠く玉城県政はこれにどう対応していくのか。

 これまでのように「対話による解決」を呼びかけるだけでは事態は何も動かない。

 具体的な対抗策が打ち出せなければ、知事を支えてきた市民団体からの批判は避けられない。

 県議会野党の攻勢が予想される中で、玉城知事は就任以来最大の正念場を迎える。

 辺野古・大浦湾埋め立てはあまりにも問題が多い。最も懸念されるのは環境保護の面だ。

 多様なサンゴが生息する大浦湾は、海外の研究者らによつて、日本初の「ホープスポット(希望の海)」に認定された。

 環境保護団体が指摘するように、辺野古・大浦湾埋め立ては「生物多様性国家戦略」や「生物多様性おきなわ戦略」の趣旨に反する。

 防衛局は5月からサンゴ類の移植作業を始めた。対象は大浦湾側に生息するサンゴ類約8万4千群体。

 これまでに移植したサンゴの生存率は高くない。工事を前提にしているため生存率の評価も甘くなりがちだ。

 移植時期を疑問視する専門家もおり、工事ありきの印象は拭えない。

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 市民団体との話し合いの場で県の前川智宏土木建築部長は「防衛局に対して県はこれまで、45回の行政指導を行ってきたが、防衛局はそのほとんどに従っていない」ことを明らかにしたという。

 驚くべき指摘である。

 政府は昨年末、地盤改良工事に必要な設計変更申請の承認を県に代わって「代執行」し、工事着手の権限を得た。

 代執行は地方自治法に盛り込まれた制度ではあるが、地方分権改革の趣旨に反する劇薬であり、過去には一件も例がない。

 県の45回に上る行政指導のほとんどに従わず、その上、県から承認権を取り上げ、自分が提出した設計変更申請を自分が承認する。

 憲法で定められた地方自治を根本から掘り崩すようなもので、ここまで来たらもはや、制度そのものが崩壊したというしかない。

 政府はなぜ、強行策を取り続けるのか。

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 米軍は地位協定によってさまざまな特権を与えられており、日本の主権や国民の人権に関わる問題であっても、米軍の言いなりになるケースが多い。

 国内法の適用が大幅に制限されている現状は、地位協定の国際基準から見ても異常である。

 埋め立て承認の再撤回を求める市民団体の声に県はどう応えるのか。

 生物多様性の保護・回復という世界的な課題を正面から見据え、国際世論を引きつける具体策を示すことが県に求められる。