『366日』(フジテレビ系)、『アンメット ある脳外科医の日記(同)、『9ボーダー』(TBS系)、『約束〜16年目の真実〜』(日本テレビ系)など、“記憶喪失もの”がひしめく4月期だが、重くなりがちなこのテーマをカラッとポジティブに描く『くるり〜誰が私と恋をした?〜』(TBS系)に注目だ。作中でポジティブな余韻で作品を支える「めるる」ことモデル・俳優の生見愛瑠(22)は、2023年「ブレイク俳優ランキング(女性編)」1位の実力で注目。同作で光る彼女の新境地について、ポップカルチャー研究者の柿谷浩一氏(早稲田大学招聘研究員)に解説してもらった。

■苦悩よりも“今を生きる”ひたむきさ描く

 偶然ながら今クールは「記憶喪失」を描いたドラマが複数並んで、注目が集まっている。そんな中でも、記憶を失くしたヒロインの悲劇を変に誇張し過ぎず、非日常的な出来事ながら、親近感のわく世界観を届けてうまいのが、火曜ドラマ『くるり〜誰が私と恋をした?〜』だ。

 記憶を欠落させる設定と役は、どこか重たく、じめっとした陰鬱さがどうしてもつきやすい。でもこの作品は、そのいやらしさを感じさせない。記憶をめぐる「苦悩」も描かれているものの、前半部を通じて印象的だったのは、ヒロインが事故にあう前「どんな人間だったか」。その「自分探しの物語」のベクトルがネガティブでなく、前向きで活力に満ちている点だった。

 過去の「自分探し」をしつつも、今ある瞬間を生きる自分、そして関わる周りの人間たちの現在を最大限に認めて、ときに大いに喜び、その充実をかみしめる。実際の過去がどうであれ(物語が進んでどんなものだと分かっても)、前半部で描かれた、そんな彼女の「小さな幸せ」を大事に、明るくひたむきに凛々しく運命を生きようとする姿は、何とも清々しく、また潔く、記憶喪失の物語として新鮮な気持ちよさで愉しませてくれている。

■シリアスだけには収めさせない「幸福オーラ」

 これを可能にしているのは、主演の生見の存在感と演技力に他ならない。

彼女の最大の武器にして、魅力なのは「笑顔のパワー」。笑顔が魅力的な俳優はたくさんいるが、生見の笑顔には「喜」が満載。笑うときの胸にあふれるハッピーが、よく伝わってくる深みがある。生見特有の「笑顔のドラマ」が、作品と役によく活きているのだ。

 うれし笑いでも、おかしさのほほ笑みでも。その何気ない短い仕草に、不思議とただのポジティブな感情以上の「幸せそう」な色が強く漂う。その笑顔が作りだす、類まれな「幸福オーラ」が、物語の節々に華やかな光を与えて軽妙な劇運びにしている。

 同時に、会話の中で見せる「ニコニコ」した表情、「ニコっ」とした際のなまなざしが、記憶喪失の悲運というヒロインの境遇をすっかり忘れさせる瞬間も少なくない。圧倒的な笑顔力が、愛くるしさたっぷりの没入感で“ヒロインの一挙一動”へぐいぐい惹き込んで魅惑的。大変な状況にあるヒロインに、ノイズなく「歓喜」を感じて共鳴できる。シリアスだけには収めさせない、この作品のパワーであり妙である。

 人物の心理劇は「一喜一憂」から成るもの。その“喜”の質が極めていい。その表現・伝達力に奥深さがある。そんな生見ならではの演技エッセンスが、しっかり作品の「軸」となって、魅力たっぷりな仕上がりとなっている。

■ “めるる式” リアル&ナチュラルがさそう共感

 恋愛ドラマという視点でも、生見の演技は気持ちよい見応えがある。

 過去の自分(生見)を知る3人の男性に好意を寄せられる四角関係。相関図的にドロドロで、さまざまに交渉がありながらも、ひどく男性側に「翻弄」されたり「当惑」したりする印象を残さず、軽妙に恋愛は進んでいく。“あざとさ”を感じさせない演技とキャラ作りも特色だ。

 3人の男性へ向ける言動や反応には、たっぷりの〈幸福〉感が交じる。また決して多くはないが、前半の5話の中には「ハグ」「頭ポンポン(の手乗せ)」「手つなぎ」「肩ズン」など、キュン必至なアクションも幾つかあった。

 でも、そこにも過剰で押しつけがましい胸キュン演出感はなく、どれも絶妙に“しっくりくる”カットで「愛おしい出来事」のテイスト。起こって描かれているのは、相当にドキドキにも関わらず、不思議とそこに「くどくない恋模様」が広がる。

 ラブストーリーで失敗を作りやすいのは、恋のメインキャラクターへのアレルギー。そして、ロマンスが行き過ぎたための興覚め。その点、生見がみせる恋愛風景は、実に清々しいまでに初々しく、視聴にほどよい等身大の距離感と温度感で、嫌みがない。記憶喪失/回復をめぐり、変に恋愛に寄りかかったり、走ったりしない。3人の男から愛される中でも、あくまで「恋の一歩手前」でしかと留まって、やみくもに誘惑やロマンスに流されていない。そのベタベタし過ぎない恋を、生見が好演している。

 また恋愛に鈍感ながら「なぜ気づかない?」「気づいて!」といったモヤモヤした感じもあまり持たせない。むしろ「恋愛スイッチがオフ」のまま、誰か(へ)の行動や思いを一つひとつ大事に受け止め、愛らしくリアクションする。その姿も、人間らしくて尊い。

 決して刺激や激情は強くない、むしろちょっと薄めにも映る、“めるる式”の「恋の演じ方=見せ方」。でも、それが何ともリアルでナチュラルで、日常感を醸しだして、性別や世代を問わない好感と共感を見せている。今、大衆に受け入れられるラブストーリーのテイストと雰囲気。それを設定と役柄をこなしつつ、わざとらしくない形で巧みに作りだせる。それが出来る “旬な役者”の一人が、生見である。かわいいだけではない、彼女の魅力がよく発揮された演技と役どころだ。