日本では、しっぽを切られたコーギーやトイプードルがスタンダード。しかし本来はふさふさのしっぽを持っており、すでに西欧ではしっぽを切る行為(断尾)はほとんど行われていない。元々猟犬や牧羊犬として働いていた歴史から、牛や羊に踏まれたりしないために断尾や断耳(ドッキング)の習慣が根付いたが、現在ではそのメリットや必要性はないという。それにもかかわらず、なぜ日本では今でも変わらず行われているのだろうか。日本獣医師会・佐伯潤理事に聞いた。

■家畜時代にケガを守るために行っていた行為が、現在では“美容目的”に…

――ドッキングの歴史的背景を教えてください。

 まず、犬はもともと家畜であり、人が長い歴史の中で品種改良によって生みだした人為的な動物です。猫や豚、鶏なども同様です。犬種もそのような品種改良の中で、目的・用途に応じて世界各地で生み出されました。特に西欧諸国では活発に行われてきました。世界共通の目的・用途は、狩猟です。いわゆる「猟犬」です。猟犬の役割の多くは、獲物となる動物を見つけ、追跡し、追込むことです。そのため薮や茂み、森林の中を走る必要があり、それに適した身体的特徴をもった犬種が作られました。例えばダックスフントの足が短いのは、茂みの中に逃げ込む小動物を追跡していくためです。猟犬の中には、獲物となる動物と戦うものもいます。その延長線上で「闘犬」に使用される犬もいます。また、牧羊も古くから行われており、羊たちをコントロールするために「牧羊犬」も生み出されました。

 犬種の多くがこのような人の生活の中で役立たせるために作出され、使用されていく中で行われるようになったのが、断耳や断尾です。垂れた耳や長い尾は、牛や羊などの動物に踏まれたり、狩猟では木の枝やとげに引っかかったりしてケガをすれば役に立たなくなります。闘犬や他の動物との闘いでも、咬みつかれやすい場所となります。

 産業革命で狩猟や牧羊が主要産業ではなくなり、犬はペットとして「犬種」が確立されていく中で、断耳や断尾の目的は、前述のような実用的な目的から、犬種を特徴づける形式的なもの(犬種標準)や美容目的に変化し、現在に至っています。その他、西欧では、歴史的に狂犬病が何度も流行しており、人々の脅威になってきました。狼男やドラキュラ伝説も狂犬病と関連していると言われています。そのような背景の中で、咬まれやすい垂れた耳や長い尾を切断することは、狂犬病を避けるおまじない的な意義もあったと言われています。

■「動物は自然の一部」避妊・去勢手術は行わず、断尾・断耳行為は行い続ける日本の矛盾

――現代でもドッキングが行われているのはなぜでしょうか。

 西欧諸国ではほとんど行われなくなっています。しかし、日本では一般的に行われています。この理由は複数あると思います。1つは、日本人の西洋や純血種への憧れやこだわり、犬種標準を守ろうという真面目さです。もう1つの理由として、動物に対する考え方の国民性も関係しています。

 西欧では、長い歴史の中で犬という動物を作りだし、犬種として確立させてきました。そのために「管理」をおこなってきました。また、狩猟民族であり、自然に対して、“克服し、コントロールして管理する”という考え方を持っています。一方、日本人は農耕民族であり、“自然=神様”につながり、“人が“管理するもの”ではなく“付き合っていくもの”というのが古代からの考えにあります。動物も自然の一部とも考えています。

 この考え方の違いは、イルカやクジラの問題や自然保護問題全般にも関係することです。犬に対する付き合い方についても、この考え方の違いが大きく見られます。例えば、避妊手術や去勢手術は、西欧やアメリカでは行うのが当然で、ほとんどの犬猫は避妊去勢手術が行われています。これは、動物を管理するという考えが自然に受け入れられるからです。日本では、「かわいそう」とか「自然のままに」という考えをする人が多く、避妊手術や去勢手術を行わない飼い主もたくさんいます。

 近年、西洋諸国では、アニマルウェルフェア(動物福祉)という考えが浸透してきています。これは、日本人にはなかなか説明しにくい考え方です。犬や猫などペットだけではなく、動物園にいる動物や肉として食べる牛や豚、鶏に至るまで対象とされる考え方です。簡単に言いますと、生きている限りはできるだけ苦痛なく快適な生活を保障する、命を奪う必要がある際には苦痛が無いように行うということで、「管理」が根底にある考え方です。日本では、「動物愛護」という言葉が広く用いられていますが、アニマルウェルフェアは動物愛護ではありません。愛護の定義も難しいですが、愛護は言葉の通り、愛し護ることですので、いかなる理由があっても命を奪ってはいけないということにつながり、現在の殺処分ゼロの考えに至っています。これは動物の「管理」とは異なっています。

 西欧諸国では狩猟や牧畜に犬が使われることが減ったということと、アニマルウェルフェアの考え方が広がる中で、断尾や断耳が行われなくなりました。また犬を飼うことは文化的な歴史もあり、産業的なものではないというのも関係しています。西欧には日本のようなペットショップはありません。一方日本では、本来の文化の中で生まれ育った風習的なことではなく、「この犬種はこういうものである」という犬種標準という概念も犬とともに輸入したので、変えることを考えていないということや、純血種への憧れやこだわりがある中で、現在も行われ続けています。また、ペットは産業化されている中で、犬を生産するブリーダー、販売するペットショップと流通過程がある中で、機械的あるいは顧客のニーズから断尾や断耳が行われていることもあるかと思います。

■現代における断尾は百害あって一利なし?「犬の体重バランスと感情表現奪う行為」

――ドッキングは、日本においてどのような動物のどの部位を対象に行われていますか。

 柴犬や秋田犬などを除き、チワワやトイプードルなどは、全て海外から日本に持ち込まれた犬種です。そのため、前述のような歴史的な経緯を踏まえてのことになります。つまり、西欧で確立された「犬種」の特徴に従うために断耳や断尾が行われています。

 小型犬種では、トイプードル(断尾)、ヨークシャーテリア(断尾)、シュナウザー(断尾、断耳)、ミニチュアピンシャー(断尾、断耳)、ジャックラッセルテリア(断尾)などです。指の数も多い場合には切断することもあります。

 中型犬では、ウエルシュコーギーベングローブ(断尾)、コッカースパニエル(断尾)、大型犬では、ドーベルマン(断尾、断耳)、ボクサー(断尾、断耳)、エアデールテリア(断尾)などです。このように横文字の犬種が並ぶのは、前述の歴史的理由からです。日本犬では、断尾や断耳をする犬種は基本的にはありません。

――どのような場所、方法でドッキングが行われているのでしょうか。

 断尾と断耳では異なります。断尾では、動物病院などで獣医師が行う場合とブリーダーが行う場合があります。獣医師が行う場合には生後1週間以内に無麻酔で尾を切断します。生後1週間以内では痛みを感じにくいとされているからです。ただ、科学的根拠は薄く、痛みを感じていないのではなく、表現しにくいだけというのが正しいと考えられます。ブリーダーで行う場合には、尾の根元を輪ゴムやヒモできつく縛り、血行を遮断して、尾を壊死(生きている体の一部を死なせること)させます。壊死した尾は、自然と落下します。獣医師法では、「業」としての動物に対する獣医療行為は、獣医師以外はできないとしていますが、人が自ら保有する動物に対して獣医療行為を行うことは制約されていません。しかし、場合によっては、動物の管理及び愛護の法律で動物虐待をみなされる場合があります。

 断耳は、垂れている耳をピンとたたせることが求められます。成長してから全身麻酔医で耳をカットして整形しますので、動物病院で獣医師が行います。かなり高い技術が求められますし、ドーベルマンなどごく一部の犬種でしか行われず、トラブルになるケースも多いため、現在では断耳ができる獣医師は少なくなっています。

――ドッキングのメリットや必要性、デメリットやリスクを教えてください。

 メリットや必要性は、これまで説明してきましたように、過去には狩猟や牧羊のためにはあったと言えます。また、現在でも狩猟や牧羊に従事する犬にはメリットかもしれません。ただ、ペットの犬としてはメリットや必要性はありません。あえて言うと、断尾はお尻周りが汚れにくいということはあるかもしれません。

 デメリットを理解するには、犬の尾が何のためにあるかを理解する必要があります。尾は走る際には体のバランスをとるのに役立つ面があります。また、どなたもご存じの通り、尾を振ることは、感情表現でもあり、これは犬同士でも役立っています。尾が短くなることで、犬同士の「会話」や意思疎通に支障が出ることはあり得ます。

 リスクは、前述しましたようにブリーダーが処置をする場合には、感染のリスクがあります。獣医師が行う断尾についても生後1週間以内であっても痛みを感じていないとは言えず、無麻酔で切断することは大きな苦痛を与えている可能性があります。

――ドッキングは必要だと思われますか。

 日本獣医師会としても、私個人としても、断尾や断耳には反対の考えです。理由については、今までも述べてきましたように、本来の目的がすでに失われ、美容的な面や形式的な面だけとなってしまっています。また、断尾については、生後1週間以内の子犬であっても痛みを感じている可能性があり、安易な理由で苦痛を与えることは好ましくないと考えるからです。しかし、実際の現場では業者や飼い主からの依頼に応えざるをえないのが現状です。獣医師が行わなければ業者が不衛生な状態で行ってしまう心配もあります。業者や飼い主の問題もありますが、獣医師側も動物福祉愛護について真摯に考える必要があると思います。本来の日本人の動物観や避妊手術や去勢手術も不自然と考える人が多いことからすれば、断耳や断尾の現状を理解していただければ、日本でも行われなくなるのではないかと思います。
 
――日本のペット事情において、ほかに課題に感じられていることがあれば教えてください。

 昨年、動物の愛護及び管理に関する法律が改正されました。今回の法改正では大きな変化が2つあります。1つは動物虐待に対する罰則強化と対応強化です。対応強化の部分では、獣医師に虐待が疑われる動物を診察した際の通報義務が課せられました。また、行政機関には多頭飼育など不適切な飼育に対する指導権限の強化が行われました。もう1つはブリーダーやペットショップなど動物取扱業者への規制強化です。特にブリーダーを対象として、安易な繁殖を抑える基準や飼育管理のための厳しい基準が適用されることになります。

 これらは、毎日のように報道されている不審死を含めた動物虐待を疑う事件への対応や殺処分ゼロに関連して安易な動物の飼育防止と保護動物の譲渡促進がその背景にあります。しかし、これらの根底には、人気犬種を煽るマスコミなどの在り方や流行に扇動される国民の動物に対する意識の低さ、動物が商品として流通し、売買されている現状と「動物=自然」と考える国民性との矛盾など、広く大きな問題があります。単に「かわいそうだから」ということだけでは、動物を巡る問題の解決は難しく、家族同然となった犬猫などのペット、食べるなど人が利用するための家畜の扱い方、増えすぎて農作物の食害が問題となっている野生動物との関係など、本質的な「人と動物、人と自然」との関係を考え、議論しなければ、感情的な議論では永久に解決することはないと考えています。