エポック社(本社・東京都台東区)の女児向け玩具シリーズ「シルバニアファミリー」のファンが、大人にもすそ野を広げています。1985年の発売以来、ドールハウス遊びの定番として子どもたちに親しまれてきましたが、近年はお気に入りの人形と一緒にお出かけして写真撮影したり、衣装や小物を手作りして着飾らせたりする“シル活”愛好者が増殖中。熱烈な“シル活”実践者とドールハウスの専門家に会い、大人をひきつける理由や楽しみ方を聞きました。

「これが私の分身バニア『ひつじちゃん』と、夫の分身バニア『くま夫』です」。お気に入りの人形の写真を見せてくれたのは、千葉県内在住のribbonさんです。

シルバニアの愛好者たちは、自分の分身としてかわいがっている人形を「分身バニア」と呼びます。ribbonさんの夫にも「くま夫」という分身バニアがいて、どこに出かける時も一緒に連れて行くそうです。

人形本体はエポック社の商品ですが、身にまとっている衣装はすべて、ribbonさんの手作り。すでに衣装だけで数十着も作ったほどの熱の入れようです。

ribbonさんのシルバニア愛好歴は30年以上にも及びます。子どもの頃は単純に小さくてかわいいものにときめき、おままごと遊びの延長線上で楽しんでいたそう。それが、大人になった今でもひかれ続けています。その理由としてribbonさんがいの一番に挙げたのが、「抜群の癒やし効果」です。

「触り心地も優しいですし、単純に見ているだけでも癒やされます。また、エポック社さんが作っているストーリーなどでは、シルバニア村は平和で争いごとなどもありません。その世界観も、ストレス社会で生きている大人たちに求められているのかな」とribbonさんは説明します。

また、SNSを通して「住む場所も環境も違うのに気の合うシルバニア友達(シル友)ができたのも良かった」とも。

シル友と一緒に茨城県や埼玉県などで開催されるシルバニア関連のイベントに出かけるときも、必ず「ひつじちゃん」を連れて行くそうです。

「友達と撮る写真よりも分身同士の写真の方が多いですね」とribbonさんは笑みを浮かべます。

シルバニア愛が高じたあまり、ribbonさんはとうとう、人形たちのくつろぎの場や遊び場など、さまざまな設定のドールハウスを制作するプロになってしまいました。2022年のことです。

日本ドールハウス協会(あいさわかずこ会長)で19年から制作の講義を受け、プロ作家として後進を指導できる講師の認定を受けたのです。コロナ禍で「おうち時間」が長くなったのを機に、作家になろうと決意したのだそう。

「あいさわ先生がハウス担当、私がお人形の衣装を担当して、パン屋さんのハウスを共同制作したこともあります。生地メーカー『リバティジャパン』(東京都渋谷区)とのコラボ作品でもあったので、家具や洋服には小花柄で知られる『リバティプリント』の生地を使用しました。このほかの作品も全国各地のイベントなどにプロの作品として展示されています」(ribbonさん)

あいさわ会長は、シル活の広がった背景をこう分析します。「発売から約40年がたち、おばあちゃん、ママ、お孫さんの3世代がシルバニアを愛好するようになりました。確かに女児向けのおもちゃではあるのですが、幅広い年代で愛され、自然とすそ野が広がりました。完成度の高いおもちゃなので、年齢を問わず楽しめます」

また、シル活が広がったもう一つの要因としてあいさわ会長が指摘するのが、食玩などの製造・販売を手がける「リーメント」(本社・東京都千代田区)のミニチュアフィギュアの隆盛です。「この5、6年、ミニチュアフィギュアが爆発的なブームになっています。ribbonさんや私のようなプロ作家だけでなく、多くのシルバニア愛好者が、このミニチュアをシル活にうまく使っているんですよ」

シルバニアファミリーが集うドールハウスも、愛好者たちはエポック社の商品を改造したり、一から十まですべて手作りで仕上げてしまったりするそうです。その工程で、ミニチュアフィギュアが小物として巧みに取り入れられているのです。

あいさわ会長によると、シルバニアを楽しむのに最も重要なのが「遊び心」なのだそう。「ドールハウスを作るときに、見た目や機能性だけにとらわれない心が大切です。例えば、一見すると無駄に見える扉を一つ、壁面に付けてみる。そうすると見る人は扉の向こう側に広がる世界を想像できるようになるでしょ。そんな遊びが、シルバニアファミリーたちが生きる世界も豊かにしてくれるんです」

シル活で感じる小さな幸せが、争いやストレスのない平和な生き方につながるといいですね。

(読売新聞メディア局 市原尚士)