自宅でメンチカツを作ったことはありますか。揚げたて、熱々のメンチカツはたまらなくおいしいですが、自分で作るとなると、タマネギを刻み、挽き肉とこね合わせ、成形し、溶き卵やパン粉で衣をつけて揚げるといったように、結構な手間がかかります。読売新聞の掲示板サイト「発言小町」には、メンチカツを作っている途中で面倒になり、ハンバーグに変更してしまったというユーモラスな投稿が寄せられています。料理研究家の藤井玲子さんに、最後まで仕上げたくなる、おいしいメンチカツを作るコツを聞きました。

「メンチカツの呪い」のタイトルで投稿してきたのは、トピ主「マリアージュ」さん。自宅で熱々のメンチカツを食べようと、材料を買ってきたものの、タマネギを刻んで炒め、挽き肉をこね始めるときになると、毎回必ず“悪魔がささやく”のだそう。

そのささやきとは、「このあと、まだ丸めて衣を付けて揚げなきゃならないんだぜ。面倒だからハンバーグにしちゃおうぜ」。トピ主さんはこの誘惑に負け、これまで2回ほどハンバーグに変更したことがあるそう。「メンチカツはおいしいんだけど、調理過程が『ハンバーグ+トンカツ』というのが、すごく面倒くさい。手順だけなら、もっと面倒な料理もあるけれど、メンチカツの場合は、途中に『ハンバーグ』という逃げ道があるのが悩みです」とつづります。

子どものころ、食卓にはよく母親が揚げたメンチカツが登場したそうで、なぜ面倒くさがらずに作っていたのか、母親に聞いてみると、「お父さんの歯が悪くて、トンカツは食べられないと言うから、仕方なく作っていた。メンチカツはつなぎでかさ増し出来るので、トンカツより食費が安く上げられるのが利点だった」とのこと。昔からお財布にもやさしい、庶民の味だったようです。

この投稿には、「面白い」ボタンが400回以上押されています。「呪い」という言葉が入ったタイトルにひかれた人も多いようです。

「すごい! トピ主さんはメンチカツを(自宅で)作るんですね。私は50代ですが、いまだにメンチカツを作ったことがありません」と書いたのは、「アクビおばちゃん」さん。

メンチカツにまつわる思い出をつづった人もいます。「昔近所にあったお肉屋さんのメンチカツが絶品で、キャベツだけ用意して電話で注文し、熱々を夕飯にいただきました。揚げ油はおそらくラードだろうと思います。香ばしくカラリと揚がった肉汁あふれるメンチカツはとても私には真似できません。ところが、翌日になると、どうにも胃がもたれてしまうのです。それがわかっていても、また食べたくなる。これが私の『メンチカツの呪い』でございます」(「nene」さん)

ふるさと納税でメンチカツを取り寄せるという「明暗」さんにも呪いが。「なぜか冷凍庫がいっぱいの時に来る。今年はセカンドフリーザーを買いましたが、それでもパンパン。これが我が家のメンチカツの呪いです」

呪いは、メンチカツのほかにも。

「私なんか、ハンバーグを作ろうと思って挽き肉を買ったけど、結局面倒くさくなってそのままお肉を冷凍しちゃった。ハンバーグの呪いです」(「ひきわり」さん)。

「うちは、そういえば、時折コロッケが呪われてますね。タマネギと挽き肉を炒めて冷凍したものもあるので、そちらを解凍しつつ、ジャガイモをゆでるんですが……。挽き肉がささやくんです。『ここで使われなければ、卵に入れて簡単キッシュでもうまいじゃん?』と。ジャガイモがささやくんです。『別に、ツナ缶と混ぜて小判焼きでもいい感じ』と」(「超流動的」さん)

「私が感じる呪いといえば、ラザニアです。いやもうミートソースでよくね? スパイス使うし、平たいパスタじゃなくてスパゲティでよくね? ホワイトソースめんどくさ、と毎回思います。メンチカツはちょっといい牛粗挽き肉が安い時に作ります」(「りーず」さん)。

この投稿を藤井さんに読んでもらいました。藤井さんはレシピサイト「れこれしぴ」を開設し、2021年にレシピ動画「キャベツたっぷりメンチカツ」をYouTubeで公開したところ、5万3000回以上視聴され、チャンネル登録者は2万7000人を超えました。

「メンチカツは、家庭料理の中ではかなりハードルが高い方だとは思います。でも、ちょっとしたコツを押さえれば自宅で挑戦できる料理です。マリアージュさんのように、料理を始めてから、同じ材料なんだからと気が変わってしまうということがあるかなあと考えてみたんですが、料理上手な人ほど、引き出しが多いですから、それで迷ってしまうのかもしれません」と話します。

藤井さんの「キャベツたっぷりメンチカツ」では、具材は合い挽き肉とキャベツだけ。挽き肉と同じ分量のキャベツを入れるので、キャベツのシャキシャキとした食感と甘みを楽しむことができます。タマネギではなく、キャベツをたっぷり入れたメンチカツのタネは、見ためもハンバーグのタネとは明らかに異なるので、“悪魔のささやき”が聞こえてくることはなさそうです。

まずはキャベツをみじん切りに。キャベツのやわらかい葉の部分と芯の部分では、同じみじん切りでも切り方は変わります。葉はクルッと巻いて千切りにした後、向きを変えてみじん切りに。芯は薄くスライスした後に千切りにして、さらにみじん切りします。みじん切りにしたキャベツに塩をひとつまみ入れ、軽く手でもみ、数分おいた後、水気を絞ります。

これを挽き肉と合わせてタネを作ります。成形するとき、大きく作り過ぎてしまうと、揚げたときに火の通りが悪くなるので、空気を抜きながら直径7センチほどの円形にしていきます。

衣付けには、平たいバットを使います。「薄力粉→溶き卵→パン粉」の順番で、表面、裏面、側面と念入りに衣付けします。この作業は1回に2個ずつで、右手は溶き卵、左手はパン粉といったように両方の手で役割を分けると、スムーズに衣付けができるそうです。

初めて挑戦する人へのアドバイスとして、藤井さんは「まずはレシピ通りに作っていただくことですね。分量や時間なども、忠実に再現します。味を濃く、あるいは薄くなどと、アレンジを加えるのは、一度レシピ通りに作ってからにするのがおすすめです」と話します。

まずはレシピ通りに作ってみて、「初めてとは思えない仕上がりだね」となれば、次も挑戦しようという気持ちが起きるかもしれません。

「ぎんねこ」さんからは、「私の家は、春先の新ジャガが手に入るころ、自家製コロッケを山ほどつくるのですが、そのついでに、ハンバーグのタネにパン粉や衣をつけて、一緒に山ほど揚げます。メンコロ定食です。北海道のジャガイモを1箱お取り寄せしたから、コロッケを作るついでに、明日はメンチカツもやろうかな〜」というコメントが寄せられました。

熱々ホクホクのメンチカツとコロッケが山盛りされた「メンコロ定食」。家族みんなで楽しんだのだろうなあと思うと、想像するだけでも食欲が刺激されます。料理のレパートリーを広げて、作りたてのおいしさをもっと楽しめるといいですね。

(読売新聞メディア局 永原香代子)