『宮本から君へ』(公開中) ©2019「宮本から君へ」製作委員会

年末年始は観逃した映画を自宅でゆっくりとDVDか動画配信で鑑賞したい、もしくは久々に映画館に足を運んでみたいと考えている人も多いはず。2019年の日本映画シーンを賑わせたメジャー系の大ヒット作からヒットチャートには反映されなかった話題作までを回顧。さらに2020年の注目作も先取り紹介。観逃していた作品をぜひチェックしてほしい。

ファンが受け入れた人気コミックの実写化

令和元年となった2019年は、新海誠監督の長編アニメーション『天気の子』が興収140億円超えのメガヒットを記録、洋画もディズニー映画『アラジン』『トイ・ストーリー4』が100億円を超える好調ぶりで、日本映画界全体の年間興収は過去最高になることが見込まれている。邦画の実写作品では、アクション大作『キングダム』が57億円でトップ。東野圭吾のミステリー小説が原作の『マスカレード・ホテル』が46億円、コメディ映画『翔んで埼玉』が37億円、三谷幸喜監督のオリジナル作『記憶にございません!』が33億円、人気TVドラマの劇場版『コンフィデンスマンJP ロマンス編』が29億円、と興収ランキングの上位に入っている。

『キングダム』(ブルーレイ&DVD 発売中) ©原泰久/集英社 ©2019 映画「キングダム」製作委員会

邦画実写部門の第1位となった『キングダム』は累計発行部数4500万部という大ベストセラーコミックをベースに、『GANTZ』(11年)や『アイアムアヒーロー』(16年)など実写とCGとの融合を得意とする佐藤信介監督が原作の世界観を壊すことなく、手堅くまとめ上げた。下僕の身分から大将軍を目指す主人公・信を演じた山﨑賢人がクライマックスで叫ぶ「夢を見て何が悪い? 夢があるから立ち上がれるんだろうが」という台詞が、若い世代の胸に刺さったようだ。のちの始皇帝となる嬴政と孤児役の漂の二役を演じ分けた吉沢亮も、若手演技派としての評価を高めた。

予想外のヒットとなったのが、魔夜峰央原作コミックのまさかの映画化『翔んで埼玉』。「埼玉県民にはそこらへんの草でも食わせておけ!」と埼玉県民を徹底的におちょくった内容だったが、GACKTが高校生、さらに二階堂ふみが男子高校生役とリアリティのまるでない配役が功を奏し、ナンセンスなギャグ映画として受け入れられた。1982〜83年に発表された原作コミックは未完のままだが、映画版では虐げられてきた埼玉県民が差別を助長する中央政府に対して決起することになる。二階堂とGACKTはともに沖縄出身だけに、最後の一斉蜂起シーンは沖縄の基地問題を個人的には連想させたが…。

2019年、スクリーンで輝いた女優

長澤まさみのスクリーンでの活躍が目立った1年にもなった。ここ数年は年間3本ペースで映画出演していたが、2019年は出演作がどれも大ヒット。『キングダム』では山の民を率いる女王役を凛々しく演じ、本格的なアクションは初挑戦ながらダイナミックな二刀流を披露した。木村拓哉と共演した『マスカレード・ホテル』では利用客へのサービスを第一に考える優秀なフロントクラーク、『コンフィデンスマンJP ロマンス編』では天才詐欺師と、いくつもの異なる顔を見せている。大人の女優としての充実期を迎えたようだ。

小松菜奈も、異色時代劇『サムライマラソン』では男装のお姫さま、音楽ロードムービー『さよならくちびる』ではインディーズ系アーティスト、『閉鎖病棟 ―それぞれの朝―』ではDVで苦しむ女子高生と、多彩な役を演じた。一作ごとに成長する、目が離せない女優となっている。

ミニシアター系でスマッシュヒットとなったのが、岸井ゆきの主演作『愛がなんだ』。角田光代の同名小説を原作に、『退屈な日々にさようならを』(17年)などオリジナル作品で高い評価を受けてきた“恋愛映画の旗手”今泉力哉監督が、岸井、成田凌らブレイク中の若手キャストたちとがっつり組んだ快作となった。恋心とはビミョーに異なる、惚れた相手に嫌われたくない、なれるものなら相手そのものになってみたいという、言語化されていない不思議な感情が描かれている。

『愛がなんだ』(Blu-ray・DVD 発売中) ©2019映画「愛がなんだ」製作委員会

コロコロと変わる岸井の表情の豊かさと、その表情を巧みに引き出してみせた成田の助演ぶりがお見事。成田は『さよならくちびる』や現在公開中の主演作『カツベン!』でも役になりきっている。今泉監督は新作『mellow』と『his』の公開が年明けの1月17日(金)と1月24日(金)に控えており、2020年も注目したい。

台風の目となった“スターサンズ”

興収ランキングにこそ顔を出していないが、劇場に足を運んだ観客に強烈なインパクトを与えたのは、池松壮亮と蒼井優が共演した劇場版『宮本から君へ』。2018年にテレビ東京系で放映された深夜ドラマ『宮本から君へ』の劇場版と思われがちな企画だが、じつはTVシリーズと劇場版は制作会社が異なっている。TVシリーズで一度終わった企画を、原作をリスペクトする主演の池松と真利子哲也監督が大変な熱量で再起動させ、完成に至った苦心作だった。

新井英樹の原作コミックの前半部分をドラマ化したTVシリーズに対し、劇場版では映像化不可能とされていた宮本と靖子との過激なベッドシーン、衝撃的なバイオレンスシーンが盛り込まれた後半部分をきっちりと描いている。不器用ながらも自分の信じる道を一途に走る主人公・宮本役を池松はこれ以上ないほどの熱さで一心同体化してみせた。また、池松の熱演をしっかりと受け止めてみせた蒼井の“受け”の演技もすごい。劇場で観る機会があれば、ぜひスクリーンで堪能してほしい。

『宮本から君へ』(公開中) ©2019「宮本から君へ」製作委員会

劇場版『宮本から君へ』を手掛けた制作会社“スターサンズ”は近年、邦画界の台風の目となっている。安藤サクラ主演『かぞくのくに』(11年)、菅田将暉とヤン・イクチュンが共演した『あゝ、荒野』(17年)などの快作を放っている。2019年も韓国の人気女優シム・ウンギョンと松坂桃李というユニークな顔合わせとなった社会派ミステリー『新聞記者』をヒットさせ、日本社会にはびこる“同調圧力”の不気味さを題材にした森達也監督のドキュメンタリー映画『i-新聞記者ドキュメント-』も話題を呼んでいる。

大手映画会社が敬遠しがちな骨太な題材に“スターサンズ”は果敢に挑んでおり、企画のおもしろさで人気若手俳優たちのキャスティングにも成功している。リスクを排除する方向で進むメジャー系の映画会社とは異なる映画づくりで存在感を示している、インディペンデント系ならではの映画会社だ。

Netflixが人気コンテンツを生み出せる理由

動画配信サービスNetflixも映画界を大きく揺るがした。日本オリジナルコンテンツとなる山田孝之主演ドラマ『全裸監督』の配信が8月から始まり、大反響を呼んだ。ビデオ業界で成功を収め、バブル期には年収100億円を稼いだ村西とおる監督の破天荒な生き様を、『百円の恋』(14年)などで知られる武正晴監督らが全8話の実話系ドラマに仕立てたもの。オーディションで選ばれた森田望智ら若手女優たちの体当たり演技に加え、世間の常識に縛られない村西監督のワイルドな処世術が、映画館から足が遠のいていた大人たちの心を捉えた。日本だけでなく、『全裸監督』はアジア各国でも人気となっている。

Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督』(独占配信中)

Netflixは『全裸監督』に続いて、ハリウッド進出が決まっている園子温監督の『愛なき森で叫べ』も10月から配信している。『冷たい熱帯魚』『恋の罪』(ともに11年)などの実話ベースの過激な犯罪映画で大ブレイクした園監督が、やはり実在の犯罪事件からインスパイアされて撮り上げた上映時間2時間32分の大作だ。

第2シーズンの制作も決まった『全裸監督』や、『愛なき森で叫べ』から分かるように、Netflixはクリエイターの表現を尊重しており、有料配信としてどこまでの表現が可能なのかコンプライアンス面からも検討し、安易な自主規制によって企画や表現の幅が狭くなることを回避している。製作費も潤沢にあることから、自由度を求める監督たちの参入が今後も増えるに違いない。

新時代を担う若手監督たち

2019年は山崎貴監督が『アルキメデスの大戦』『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』『ルパン三世 THE FIRST』、白石和彌監督が『麻雀放浪記2020』『凪待ち』『ひとよ』と、実績のある監督たちの新作映画が次々と劇場公開され、シネコンを賑わせた。その一方、今後の活躍が楽しみな新人監督たちもデビューを果たしている。是枝裕和監督、西川美和監督の監督助手を務めてきた広瀬奈々子監督は柳楽優弥主演作『夜明け』、ポン・ジュノ監督の助監督だった片山慎三監督は障害者たちの承認欲求をテーマにした『岬の兄妹』、かつての岩井俊二監督の作風を彷彿させる奥山大史監督はサンセバスチャン国際映画祭で最優秀新人監督賞を受賞した『僕はイエス様が嫌い』で、それぞれ監督としての第一歩を歩み始めた。3人とも伸び代を感じさせ、これからの活躍が期待できる。

『メランコリック』(公開中)

田中征爾監督のデビュー作『メランコリック』も個性的な作品として注目された。町のオアシスである昔ながらの銭湯がじつは深夜だけ殺人、および遺体処理の場所として裏社会に貸し出されているという奇抜な犯罪ミステリーながら、観賞後の喉ごしは不思議なほど心地よい。主演の皆川暢二がプロデューサーを務め、やはりメインキャストである磯崎義知がアクション演出をしている。製作費はわずか300万円、キャストはワークショップ参加者から抜擢というスタイルで制作された、上田慎一郎監督の長編デビュー作『カメラを止めるな!』(17年)が大ヒットしたことも記憶に新しい。おもしろい作品なら、メジャーな映画会社の配給作品かインディペンデント系の作品かは関係なく、観客は楽しむ土壌ができつつあるように思う。

五輪イヤーの注目作はこれだ!

最後は五輪イヤーとなる2020年の展望を。6月には庵野秀明監督のオリジナルアニメーション『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開。さらに7月、8月には大友啓史監督のアクション時代劇『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』が連続公開される。ファンに熱狂的に支持された人気シリーズはどのようなフィナーレを迎えるのか気になるところだ。

『Fukushima 50』(フクシマフィフティ) (2020年3月6日公開) © 2020「Fukushima 50」製作委員会

東日本大震災から9年、3月6日(金)に公開されるのは若松節朗監督の『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)。福島第一原発内に残り、放射能事故が拡大することを命がけで防いだ職員たちの実録ドラマだ。佐藤浩市、渡辺謙、吉岡秀隆、安田成美、吉岡里帆ら多彩なキャストが出演。国際情勢や政権への忖度で動く東京の本社に対し、家族や故郷を守りたいという一心で事故対応に当たった現地職員たちの奮闘ぶりが対照的に描かれている。廃炉化はまだ途中であり、避難民たちの多くはいまだに帰郷できずにいる。原発事故はまだ終息していないことを忘れずにいたい。

『初恋』(2020年2月28日公開) ©2020「初恋」製作委員会

ほかにもベテラン監督たちの注目作が、2020年にはラインアップされている。三池崇史監督の『初恋』(2月28日公開)は、ボクサー役の窪田正孝とオーディションで抜擢された小西桜子とが一夜の逃避行をともにするという三池監督らしからぬ甘酸っぱさを感じさせる内容となっている。とりわけ、ベッキーの怪演ぶりは見もの。フレッシュなキャストたちの熱演が、ベテラン監督の創作意欲を刺激したのかもしれない。岩井俊二監督が故郷・宮城を舞台にした『ラストレター』(1月17日公開)では、広瀬すず、森七菜が岩井ワールドに新しい潤いを与えている。

時代小説好きなら観逃せないのは、司馬遼太郎の人気小説を54年ぶりに映画化した『燃えよ剣』だ。アクションコメディ作『ザ・ファブル』でも相変わらずの身体能力の高さを見せた岡田准一と、『関ヶ原』(17年)の原田眞人監督との再タッグ作。従来の価値観が大きく揺れ動いた幕末という時代の中を、流星のように駆け抜けた剣客・土方歳三の生き様にどこまで迫ることができるだろうか。『燃えよ剣』は5月22日(金)の公開予定。新しい映画との出会いを楽しみに年末年始を迎えたい。

文/長野辰次

映画・DVD情報 『宮本から君へ』

公開中
配給:スターサンズ、KADOKAWA
©2019「宮本から君へ」製作委員会
※Blu-ray・DVDは2020年3月6日(金)発売

『キングダム』

ブルーレイ&
DVDセット プレミアム・エディション 初回生産限定:7990円(税抜)
ブルーレイ&DVDセット 通常版:4743円(税抜)
発売中
ソニー・ピクチャーズ
エンタテインメント
©原泰久/集英社 ©2019 映画「キングダム」製作委員会

『愛がなんだ』

特装限定版 Blu-ray:5800円(税抜) DVD:3800円(税抜)
発売中
バンダイナムコアーツ
©2019映画「愛がなんだ」製作委員会

Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督』

独占配信中

『メランコリック』

公開中
配給:アップリンク、神宮前プロデュース、One Goose

『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)

2020年3月6日(金)公開
配給:松竹、KADOKAWA
© 2020「Fukushima 50」製作委員会

『初恋』

2020年2月28日(金)公開
配給:東映
©2020「初恋」製作委員会