各種調査や研究を行う機関「Job総研」を運営するライボ(東京都渋谷区)が、社会人男女を対象に実施した「2022年コロナ感染に関する意識調査」の結果を8月1日に発表しました。調査によると、新型コロナの「感染経験がある」「コロナの疑いのある症状があった」と回答した人のうち、31.9%が、感染について「職場に申告しなかった」と答えました。

 申告しなかった理由については、「フルリモートだから」が最多でしたが、「申告すると手続き等が面倒そうだから」「休まざるを得ず、業務に支障をきたすから」といった回答もありました。フルリモートの場合、他の社員にうつす心配はなさそうですが、他の理由の場合は、職場で感染が広がる可能性もありそうです。こうした行為によって、法的責任は発生しないのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

責任追及される可能性も

Q.自主的な抗原検査で陽性と出た人が、職場に報告しなかった場合、法的問題は発生するでしょうか。「フルリモートでの勤務だから、他の社員に迷惑はかけない」という理屈は通用するのでしょうか。

佐藤さん「抗原検査で『陽性』と出たことを職場に報告しなかっただけで、損害賠償責任を追及されたり、罪に問われたりすることはないでしょう。ただし、会社との関係で、注意や処分を受ける可能性はあります。

まず、会社の就業規則で、新型コロナウイルスの感染や感染疑いについて報告する義務を定めている場合、抗原検査で『陽性』の結果が出たのに報告しなければ、就業規則違反になり、注意を受けたり、始末書の提出を求められたりすることがあるでしょう。また、懲戒処分の対象になる可能性もあります。

就業規則の内容にもよりますが、通常、抗原検査で『陽性』の事実が判明した場合には、その他の事情を問わず、報告を義務付けていることが多いように思います。そうであるならば、『フルリモートでの勤務だから、他の社員に迷惑をかけない』という気持ちで報告しなかったのだとしても、就業規則違反の責任を問われることはあり得るでしょう。

一方、会社の就業規則で報告義務を定めておらず、会社から報告を求められていなかったのであれば、報告しなかったとしても責任を問われることはないでしょう。

ただし、いずれにしても、会社は労働者の健康や安全に配慮する義務(安全配慮義務)を負っており、従業員も業務を遂行できるよう健康状態を整え、会社の健康管理措置への協力が求められています(労働安全衛生法26条)。抗原検査で『陽性』が出た事実は、重要な個人情報でもありますが、自主的に職場に報告するのが望ましいと思います」

Q.検査は受けていないものの、発熱など新型コロナを疑われる症状があるのに、職場に報告しなかった場合ではどうでしょうか。「フルリモートだから…」という理屈は通用するのでしょうか。

佐藤さん「就業規則で、感染疑いや体調不良などについても報告義務が定められている場合、先述したように、就業規則違反の責任を問われる可能性があります。フルリモートであったとしても、規則に基づき、報告するのが基本です」

Q.自主的な抗原検査で陽性と出た人が、その事実を報告せずに職場へ出勤した場合はどうでしょうか。また、その人の出勤後に職場でクラスターが発生した場合はどうなりますか。

佐藤さん「抗原検査で『陽性』の結果が出たのに、その事実を報告しないまま出勤した場合、職場内に感染を広げるリスクが高く、業務にも悪影響が及ぶ可能性があります。そのため、出勤した従業員は、企業秩序を守る義務や、雇用主の利益に配慮して誠実に行動する義務などに違反しているとして、就業規則違反の責任を問われる可能性があります。

抗原検査『陽性』の従業員の出勤後、職場でクラスターが発生した場合、就業規則違反の責任を問われるだけでなく、会社から損害賠償責任を追及される可能性も、理論的にはあります。

ただし、一般に、会社の従業員に対する損害賠償請求は限定的な場合にしか認められませんし、職場でのクラスターの原因が、『陽性』を隠して出勤した従業員にあることを明らかにするのは困難であり、実際に会社が損害賠償訴訟を提起する可能性は高くないでしょう。

いずれにせよ、新型コロナウイルスの感染力、特にオミクロン株の感染力は非常に高く、時期によっては医療が逼迫(ひっぱく)することもあるため、抗原検査で『陽性』が出たのであれば、出勤も含め、外出を控えるべきでしょう」

Q.検査は受けていないものの、発熱など新型コロナを疑われる症状があるのに、その事実を報告せずに職場へ出勤した場合はどうでしょうか。

佐藤さん「発熱など新型コロナ感染が疑われる症状がある場合、感染が判明していない段階であっても、会社は従業員に対し、休業や帰社を命じることが可能と考えられます。職場に報告しないことで、会社が休業などを命じる機会を失い、職場での感染拡大につながる恐れがあるため、体調不良については、早期に報告することが望ましいでしょう。

先述したように、就業規則の内容によっては、体調不良を隠して出勤したことをもって、就業規則違反になることもあるので注意が必要です。

体調不良のまま出勤し、その後、職場でクラスターが発生した場合、抗原検査『陽性』の従業員の出勤後クラスターが発生した場合と同様、会社から責任追及を受ける可能性があります。

会社も含め、さまざまな場所で体温を測定するサーモグラフィーカメラが導入されている今、発熱した時点で外出を控えることが大切だと思います」

Q.感染の事実を隠したり、虚偽報告をしたりして法的問題が発生したケースがあれば、教えてください。

佐藤さん「会社に対して感染の事実を隠したケースではありませんが、感染者が入院施設を抜け出し、感染の事実を隠した上、温泉施設を利用し、偽計業務妨害罪で逮捕された事例が存在します。

感染者の身勝手な行動は、感染症法上、または民事上、刑事上の法的責任を生じさせることがあります。感染拡大を引き起こす危険性のある行為は厳に慎みましょう」