東京五輪・パラリンピックの大会組織委員会元理事が受託収賄容疑で逮捕・起訴されました。元理事の主導で、東京大会は五輪史上最高額のスポンサー収入を記録したと言われていますが、なぜここまで五輪の商業化が進んだのでしょうか。なぜ贈収賄事件が起きてしまったのでしょうか。スポーツビジネスにも詳しい、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事の江頭満正さんに聞きました。

恣意的なスポンサー選考可能に

Q.そもそも、なぜ五輪の商業化が進んだのでしょうか。

江頭さん「1980年のモスクワ五輪までは、オリンピックは開催国に大きな経済的負担をかけていました。1976年のモントリオール大会では、利払いも含め27億ドルの赤字が発生し、増税によって30年間かけて解消しました。モスクワ大会は共産主義国家(当時)による開催であったため、収支に関する情報は開示されていませんが、モントリオールと同様だったと思われます。

そこで、1984年の大会に1都市だけ立候補した米ロサンゼルスは、立候補時点から民間主導で行い、公費からの支出をしない条例まで作り、住民の不安材料を払拭したばかりでなく、国際オリンピック委員会(IOC)に損失保証までさせています。

ロサンゼルス大会から、スポンサーは1業種1社とし、最も高額を支払う会社がスポンサーとなる方式を採用。テレビの放映権も見直され、人気競技だけ購入することができなくなり、番組提供時間が長くなったことに伴って、放映権料金も値上がりしました。これも同一地域内での入札方式が採られています。結果的にロサンゼルス大会は2億ドル以上の黒字を計上しました。

こうして、オリンピックは、国家の負担ではなく経済効果が見込めるイベントに変身しました。その後、1988年ソウル、1992年バルセロナと、当時IOC会長だったサマランチ氏が、ロサンゼルスの成功策を拡大して、大型化したのです」

Q.五輪のスポンサーになることは、企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。

江頭さん「ロサンゼルス大会から1業者1社になったことで、世界中で広告効果が出せるようになりました。ロサンゼルス大会の公式スポンサーになった富士フイルムは、アメリカの会社であるコダックを抜き、世界的な品質であると消費者に訴求することに成功しました。時計のオメガは1932年から公式時刻計測を行い、その性能を世界中が信用しています。

この『世界中』という点がポイントで、世界人口の45%を占めるBRICsでもオリンピックは放送されており、ワールドワイドパートナーになると、全世界に該当業種のトップブランドであることが知れ渡り、企業の知名度アップ、業績向上が期待できます」

Q.スポンサーの「1業種1社」の原則が東京大会では崩れたように思います。

江頭さん「ワールドワイドパートナーに関しては、1業種1社のルールは守られています。しかし、日本国内に限定したスポンサーに関しては、NECはパブリックセーフティー先進製品とネットワーク製品に関して、富士通はデータセンターパートナーに関してと、業種の分類が厳格さに欠けていると思えるようになりました。

さらに東京大会では、みずほ銀行(銀行)、三井住友銀行(SMBC)(銀行)と、同業種としての表記を堂々と行っています。これに関しては、日本オリンピック委員会(JOC)と、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会からマーケティング専任代理店に任命された電通が、IOCを説得した可能性があります。

この1業種1社方式を見直したことが成功要因の一つであると、大会報告書には記載されています。次に挙げるのが、その記述です。『過去のオリンピック・パラリンピック競技大会においては、一部の限られた例外を除いて、原則1業種1社であった。一方で、東京2020 大会もその原則は維持しつつ、希望企業が複数社あった場合には、競合する希望企業全社が合意し、かつIOCが承認した場合は、同一カテゴリー(業種)であっても参加を可能とした』

また、『オリンピック・パラリンピック競技大会のマーケティング活動の実務に長(た)けた民間事業者の知見を活用するため、IOCとの合意の下、専任代理店を選任した』ことが『大会のマーケティング活動の進展に大きく貢献した』とも記載されています」

Q.なぜ贈収賄事件が起きてしまったのでしょうか。

江頭さん「電通は、東京開催が決まった2013年、東京五輪招致委員会の口座に約6億7000万円を寄付し、さらに日本陣営の代表として、開催都市決定への投票権を持つ人物にロビー活動を行い、IOC規約の『中立性』に抵触しかねない動きをした、とロイター通信が報道しました。

電通は、1982年にアディダス社51%電通49%出資で『インターナショナルスポーツアンドレジャー(ISL)』を設立し、1984年にはIOCの国際マーケティング権を取得しています。その後ISLは主なスポーツの世界的大会のビジネス面を支援していきました。だがISLは大会を招致するためのロビー活動に使う水面下での資金提供など、影のうわさも多かったのです。

今回の大会スポンサーに関する贈収賄は、ISLの設立時代から電通がIOCに近づき、2020東京大会で満を持してJOCの専任代理店になり、1業種1社の入札方式から、『競合する希望企業全社が合意し、かつIOCが承認すれば可』にルールを変更したことにより、恣意(しい)的なスポンサー選考が可能になったことが原因と考えられます」

商業化に歯止めは?

Q.今後、五輪の商業化はどこまで進むのでしょうか。あるいは、今回の事件で歯止めがかかる可能性もあるのでしょうか。

江頭さん「オリンピックの商業化は、まだまだ進むでしょう。参加アスリートが1万1000人を超え、放映権料が30億ドルを超えても、まだ需要があるからです。

IOCの収益となる巨額マネーの90%は、世界のスポーツ振興に分配されています。発展途上国や、競技者の少ない種目では、このIOCからの資金に頼らざるを得ない事情もあるのです。『IOCはもうけ過ぎ』という批判もありますが、東京五輪が1年延期になっても、競技振興資金の分配はIOCから行われていました。発展途上国や紛争国のアスリートでも十分なトレーニングを行い、世界最高のパフォーマンスを出すためには、オリンピックの収益金は必要なのです。

もちろん、このままでいいわけはありません。商業化の水面下で動いている、強欲な人たちの存在が問題であり、彼らこそスポーツマンシップを学ぶべき人たちです。今回のようなスポンサー選定の問題だけでなく、大会の招致でも賄賂が飛び交い、毎回のように逮捕者が出ています。

東京五輪招致では、フランスの捜査当局がJOCの竹田恒和会長(当時)を贈賄の容疑者とする捜査が行われ、竹田氏は会長職を退任しました。リオ五輪では、投票権を持つ有力なIOC委員だった国際陸連前会長のラミン・ディアク被告(セネガル)らに200万ドルの賄賂を渡したとされ、組織委員会会長だったカルロス・ヌズマン被告に対して、禁錮30年11月の判決が下されています。

今後の課題は、賄賂を受け取っても便宜を図ることができない仕組みづくりになるでしょう。少なくとも、スポンサーの選定は入札方式に戻すべきです」