「うつ病」を発症した際、回復へのプロセスで重要となる「主治医との関係」。患者と主治医との相性がよくなかったり、治療方針に不一致がみられたりするケースでは、思うように回復が進まないこともあるようで、「うつ病の治療中、主治医と合わないな…と感じていて、それがストレスになっていた」「うつ病は特にセカンドオピニオンが重要だと思う」「うつ病が悪化することもあるの?」など、さまざまな声が聞かれます。

 うつ病の患者にとっての、理想的な「主治医との関係」とはどのようなものでしょうか。精神科専門医の田中伸一郎さんに聞きました。

相性が悪いと副作用が出ることも

Q.まず、「うつ病」の症状について教えてください。

田中さん「うつ病を発症すると、憂鬱(ゆううつ)な気分、意欲の低下と焦燥感、『申し訳ない』という自責感、『もうだめだ』という否定的思考などの精神症状が見られます。また、『死にたい』などの気持ちを表出することがあります。身体症状としては、自律神経失調による睡眠障害、食欲減退など、さまざまな体の不調が見られます」

Q.うつ病には、どのような治療方法がありますか。

田中さん「治療方法は、うつ病の重症度によって変わります。症状が重い場合は、まず休養を指示し、抗うつ薬による投薬治療を行います。一方、症状が軽い場合は、日本うつ病学会の治療ガイドラインにも明記されているように、投薬治療を行う前に、睡眠時間の確保、散歩などの運動の推奨、節酒・禁酒の勧めといった生活指導や認知行動療法などを行います」

Q.うつ病において、患者と主治医との相性や治療方針の不一致は、病気・症状にどのように作用し得るのでしょうか。

田中さん「残念なことに、患者さんと主治医の相性が悪かったり、治療方針が合わなかったりするケースでは、薬の効果が得られないどころか、副作用ばかりが出てしまうことが知られています。これは『プラセボ効果』(偽薬による有効作用)の反対で、『ノセボ効果』(偽薬による副作用)と呼ばれるものです。もちろん、うつ病の症状自体も改善しません。

うつ病の治療では、患者さんと主治医のお互いに信頼のおける関係が重要です。そのためにも、患者さんには自分の病状について、包み隠さず話していただきたいと思います。一方、主治医もこれからの治療方針について丁寧に説明する必要があります。うつ病の患者さんは、症状の影響で集中力・判断力が落ちていることがあるので、何度も繰り返して治療方針を相談するようにしたいところです。

特に治療開始時には、薬の効果と起こり得る副作用について十分な説明を受けましょう」

Q.うつ病において、セカンドオピニオンが必要と思われる状況とは。

田中さん「本来、セカンドオピニオンとは、主治医は1人に固定したまま別の医師を受診し、主治医とは違う診断や治療方法などがないかを相談するものです。つまり、別の医師に相談した後は元の主治医に戻って、診断・治療方法について改めて話し合うことになります。

うつ病の患者さんが『主治医を変えてほしい』『病院を移りたい』と希望することは、セカンドオピニオン“的”ではありますが、正確にいうと『転院(または転医)』ということになります。先述のように、うつ病の患者さんは判断力・決断力が低下していますし、性格的に真面目な人が多いので、自分から目の前にいる主治医に転院(または転医)を申し出ることが難しいかもしれません。

そのため、家族側から『主治医の先生とよく相談できているの?』『今度、僕(私)も一緒についていこうか?』と持ちかけ、患者さんと主治医との相性が良いのかどうか、治療方針が合っているのかどうかを探ってみるのもよいでしょう。

初診から2〜3カ月もすれば、多少なりとも治療効果が出てくるはずです。家族として悪い方向への変化しか感じられなければ、患者さんとセカンドオピニオン“的”に、病院を移ることができないかなどの相談を始めてもよいかもしれません」

Q.うつ病患者の家族や周囲に求められる理想的なサポートとは。

田中さん「まずは、普段の(うつ病になる前の)患者さんと比べて睡眠と食事がどのように変化しているのかを観察することです。細かいところでいえば、会話の長さとテンポ、表情の変化、感情の表出、動作のスピードなどに注目するとさらによいです。

うつ病の患者さんに対する接し方や距離感の基本は、『恥ずかしくて周囲に隠してしまいたい』といった気持ちを乗り越えて、うつ病という病気を受け入れ、きちんと患者さんと向き合って生活を共にすることに尽きると思います」