ゴールデンウイークを利用して、車や電車、船で遠方に旅行中の人も多いことでしょう。旅行といえば、心配なのが「乗り物酔い」です。乗り物に酔うと食欲が減退してしまいますが、食べ物や飲み物の中には、酔いを緩和するものがいくつかあるようです。

 いざというときのために知っておきたい、乗り物酔いを緩和・予防する食べ物、飲み物について、管理栄養士の岸百合恵さんに聞きました。

「かむ」ことで予防につながる

Q.乗り物に乗る前の食事について、どんなことに注意すればいいですか。

岸さん「乗り物酔いは、乗り物の揺れなどによって起こる症状で、『動揺病』とも呼ばれます。不規則な揺れだけでなく、睡眠不足、体調不調、乗り物内での読書、スマホの操作なども原因となります。

食事については、食べ過ぎでも空腹でもよくありません。空腹だと血糖値が下がって脳の働きが悪くなり、満腹だと胃壁が食物から受ける刺激が大きくなる他、どちらの状態も自律神経に影響を与えるため、乗り物酔いを誘発するのではないかとされています。乗り物に乗る直前ではない時間帯に、軽食程度の食事を済ませ、車内で空腹にならないよう、簡単に食べられるものを持ち込むとよいでしょう」

Q.乗車前に食べることで、乗り物酔いの「予防」に効果が期待できる食べ物、飲み物はありますか。

岸さん「交感神経を優位にさせることが、乗り物酔いの予防のポイントとなります。『ガム』や『スルメ』などをかむことによるリラックス効果の他、『チョコレート』や『あめ』をなめることによって血糖値が上昇すると脳が覚醒し、交感神経を働かせることで乗り物酔いの予防につながります。

また、『炭酸水』のパチパチとした刺激は、清涼感によって気分転換しやすく、交感神経を働かせる効果もあります。乗り物に乗る前の水分補給としてはよい可能性がありますが、胃腸にも刺激を与え、げっぷも出やすくなるため、体調に注意しながら、一気飲みではなく少しずつ摂取するとよいでしょう」

Q.逆に、乗り物酔いを「誘発」しやすい食べ物、飲み物はありますか。

岸さん「胃腸の状態がよければ、乗り物酔いによる胃の不快症状の予防や軽減ができるので、胃腸に負担をかけないことがポイントです。乳製品や、脂質が多いもの、においが強いもの、消化の悪い飲食物を取るのは避けましょう。また、アルコールでの酔いも三半規管の働きを鈍らせ、さらに、乗り物酔いも起こしやすくなります。

かんきつ類も、避けたい物の一つです。オレンジやレモン系の飲み物や食べ物は、さっぱりしていて摂取してしまいがちですが、かんきつ類に含まれる酸っぱい成分は胃の働きを活発化させ、胃酸の分泌を促し、乗り物酔いを誘発する場合があるのです。

一方で、かんきつ系の食べ物や飲み物などは、人によっては胸の不快感を緩和し、逆に予防になるという意見もあります。どの食材も、少量であれば問題ないケースも多いため、神経質になり過ぎず、食べ慣れたものを中心に、先述したものは『避けた方が無難』程度で考えておくとよいと思います」

Q.乗り物酔いしてしまったとき、「緩和」の効果が期待できる食べ物、飲み物はありますか。

岸さん「酔ってからの一番の対処法は、乗り物から降りて安静にすることですが、それが難しい場合は冷たい刺激を得られるものを取るとよいでしょう。温かい刺激よりも冷たい刺激が自律神経の揺らぎを抑えるので、氷を口に含んだり、冷たいミネラルウオーターやノンカフェインのお茶、スポーツドリンクといったスッキリする飲み物を飲んだりするのがお勧めです。

また、ショウガやミントには消化を促し、吐き気を抑える働きがあります。酔ったときのために、ジンジャーティーやミントティーなどを準備しておくのもよいでしょう。ただし、吐き気を感じている場合は、無理にそういったものを飲む必要はありません。また、胃腸に負担を与え、興奮作用もあるため、カフェインは避けてください。

乗り物酔いは、体質や体調、睡眠、食事などさまざまなものが関係しており、心理的な要因が多いのも事実です。特定の飲食物で予防効果を体験することで、『これを食べれば(飲めば)酔わない』といった『プラセボ効果』も期待できるといわれています。食事や食品は薬ではないので、予防や緩和の効果は気休めと思われるかもしれませんが、プラセボ効果であったとしても自分に合った対策を見つけておくと心強いですね。

効果があるとされるものを上手に取り入れつつ、気分転換もしながら、乗り物酔いを乗り切りましょう」