「パワハラ」「セクハラ」などのハラスメント行為が社会問題となっています。職場で上司や同僚からパワハラやセクハラなどの被害を受けた人の中には、周囲に相談できず、退職に追い込まれる人もいるようです。

 会社の責任者や周囲の人がハラスメント行為を目撃したにもかかわらず、そのまま放置した場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

故意に隠そうとした場合は証拠隠滅罪の可能性

Q.職場で上司や同僚からパワハラやセクハラなどの被害を受ける人がいます。周囲の人や会社の責任者が、こうしたハラスメント行為を目撃したにもかかわらず、そのまま放置した場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。

牧野さん「会社の経営者や管理職の人がハラスメント行為を放置した場合、法人としての責任が発生します。管理職ではない一般社員の場合、行為の程度にもよりますが、基本的に法的責任を問われることはありません。

事業者に対してパワハラの防止措置を義務づけた、いわゆるパワハラ防止法があります。『パワハラの被害報告を受けたにもかかわらず放置した』など、同法に関する違反が発覚した場合、事業者は厚生労働省から勧告を受け、その際に適切な対応を取らなかった場合は、社名とパワハラの内容が公表されます。罰則はありません。

セクハラについては男女雇用機会均等法が適用され、その場合、事業者は、厚生労働大臣または都道府県労働局長から報告徴収のほか助言、指導、勧告を受けることがあります。その際、もし勧告に従わなかった場合は、社名が公表されます。また、報告をしなかったり、虚偽報告をしたりした場合は同法に基づき、行政罰として20万円以下の過料が科せられる可能性があります。

悪質な犯罪行為に当たる場合には、加害者本人が罪に問われる可能性があります。セクハラでは、主に強制性交等罪(旧強姦罪)や強制わいせつ罪、名誉毀損(きそん)罪、侮辱罪、パワハラでは暴行罪や傷害罪、強要罪、脅迫罪などがそれぞれ該当します。

一般社員も含め、周囲の人がこうした悪質な犯罪行為を故意に隠そうとした場合、証拠隠滅罪や犯人隠避罪などに問われる可能性があります」

Q.もし職場で同僚がハラスメントの被害に遭っているのを目撃した場合、どのように対処すればよいのでしょうか。会社側に報告すべきなのでしょうか。

牧野さん「会社の経営者や管理職の人以外は、悪質な犯罪行為で証拠隠滅罪や犯人隠避罪などに当たる場合を除き、法的には報告義務はありません。ただ、ハラスメントやハラスメントに該当する可能性がある行為を目撃した場合、まずは会社の公益通報窓口などに報告することが奨励されています。

非正規の人を含め、常時雇用する労働者の数が300人を超える場合、公益通報者保護法が適用され、会社には、公益通報窓口を設置し、公益通報対応業務従事者を指名する義務が発生します。違反に対しては、行政指導や勧告などの行政措置が行われますが、勧告に従わない場合は社名が公表されるリスクがあります」

Q.ハラスメントの被害者やハラスメント行為を目撃した人が会社側に報告したところ、不利な扱いを受けたケースがあるようです。この場合、会社側はどのような法的責任を問われるのでしょうか。

牧野さん「そもそも公益通報者保護法は、主に従業員が法律違反に該当する行為を通報した場合、通報を理由に、事業者から解雇などの不利益な扱いを受けないために定められた法律です。

公益通報者保護法では、事業者が公益通報窓口を設置しており、同法の通報対象となっている違法行為に関する報告があった場合、通報者に対して、解雇や減給などの不利益を課すのを禁止しています。違反した事業者に対しては、報告徴収のほか、助言や指導、勧告が行われる可能性があります。

報告により不利益を受けた社員は、会社に対して、民事の雇用契約違反や不法行為に基づき、損害賠償請求を行うことができます」