手の甲や腕などを見ると、血管が浮き出ていることがあり、病気ではないかと心配になった経験がある人は多いのではないでしょうか。SNS上では、「加齢で血管が浮き出るようになった」「手の血管はなぜ浮き出る?」という内容の声が上がっています。

 そもそも、血管が浮き出てくるのはなぜでしょうか。病気の可能性はあるのでしょうか。TCB東京中央美容外科(代表院:東京都新宿区)の特別指導医で、「日本脈管学会 専門医」や「日本外科学会 専門医」などの資格を持つ安本匠(やすもと・たくみ)医師に聞きました。

加齢や気温の変化が原因

Q.手の甲や腕などを見ると、血管が浮き出ていることがありますが、なぜなのでしょうか。考えられる原因について、教えてください。

安本さん「手の甲や腕の血管が浮き出る原因は、人によってさまざまです。大まかに分けると、次の4つの原因があると言えます」

(1)皮下脂肪が少ない
体質的な部分で言えば、主に皮下脂肪と血管の太さのバランスが関係してきます。つまり、皮下脂肪が少ない男性の方が女性よりも血管が浮き出る傾向にありますし、筋肉質な体質の場合も同様に血管が目立ちます。

(2)加齢
加齢とともにタンパク質の一種であるコラーゲンなどが減るため、これにより血管より表層にある組織が薄くなり、結果的に血管が浮き出て目立つようになります。

(3)気温の変化
血管は気温に応じて拡張や収縮をするため、季節によって、血管が浮き出て目立つ場合があります。気温が高くなると血管が拡張し、血液を多く流して熱を効率的に体外へと逃がすため、その結果、血管が浮き出てきます。一方、気温が低い場合、血管が収縮し、血管内を流れる血液の量を減らすことで体内から熱が逃げないようにするため、血管が浮き出ないようになります。

(4)姿勢
血液は重力で移動するため、手を高い位置に上げた状態を維持すると血液が心臓に戻りやすくなり、血管が目立たなくなります。一方、手や腕をずっと下げ続けた状態を維持した場合、手や腕に血液がたまり、血管が目立つようになります。

なお、血管内の水分量によっても、血管の目立ち方に差が生じる場合があります。体が脱水傾向にある場合、血管中の血液量が少なくなるため、普段、血管が浮き出ている場合でも目立たなくなります。

Q.手の甲や腕などの血管が浮き出ている場合、病気の可能性はあるのでしょうか。下肢静脈瘤(りゅう)のような症状が手や腕に生じることはあるのでしょうか。

安本さん「手や腕の血管が目立つ場合、先述のように体質や加齢によって血管が目立っているか、気温の上昇で血管が一時的に拡張している状態と考えてよいでしょう。病気の可能性は、ほとんどありません。

足の血管がこぶ状に膨らむ病気として、下肢静脈瘤があります。これは、足の付け根にある大きな静脈弁の機能不全により、静脈血の逆流が慢性的に起こり、静脈の拡張やむくみ、倦怠(けんたい)感、こむら返りなどの症状を引き起こす病気です。手や腕の静脈は静脈弁に負荷がかかりにくいため、静脈弁の機能不全による逆流は起きないとされており、基本的に静脈瘤が生じることはありません。

ただし、手や腕に硬いしこりが生じた場合、『血管腫』という血管の腫瘍の場合があります。治療が必要な場合もあるので、形成外科を受診しましょう」

Q.血管が浮き出ている状態が気になる場合、改善する方法はあるのでしょうか。効果的な改善対策について、教えてください。

安本さん「自身でできる効果的な改善方法は、残念ながらありません。もし写真撮影の際に手や腕の血管が目立って気になる場合、撮影の直前に腕を上げたり、撮影時にできるだけ腕を上げたポーズを取ったりするなどして工夫するとよいでしょう。

また、接客業やピアニスト、茶道の先生など、職業柄どうしても人前で手を見せる機会が多く、血管が浮き出た状態が気になる場合、自由診療となりますが、レーザー治療や硬化療法で血管を目立たなくさせることは技術的に可能です。

レーザー治療は、血管内にレーザーのファイバーを挿入して麻酔をした後に血管を焼く方法です。一方、硬化療法は、蛇行している血管に対してポリドカスクレロールという薬剤を血管内に注入して、血管を潰す方法です。いずれの方法も、1カ月程度で血管が目立たなくなります。これらは、血管外科や美容外科で『ハンドベイン』『アームベイン』という名称で施術を行っている場合があるため、気になる場合は相談をお勧めします」