一般的に、記憶力は20代から降下する傾向にあると言われています。年齢を重ねてくると「何しにキッチンへ来たんだ?」「スマホはどこに置いたんだっけ?」などと物忘れがひどくなっていることを実感したりしませんか。物忘れというワードを聞くと「認知症」を思い浮かべたりするものですが、物忘れと認知症は異なるのか、どのような症状が出ると認知症を疑うべきなのかなど、精神科専門医の田中伸一郎さんに聞きました。

“認知症もどき”の状態もある

Q.歳を重ねると「物忘れ」をしてしまうのは、なぜでしょうか?
田中さん「一般に、年齢を重ねると、日常的な物忘れが増えてきます。例えば、覚えていたはずのことをうっかり忘れる、日にち・曜日・場所・人の名前を思い込んだり、間違えたりする、などがあります。その原因は、加齢に伴って記憶力、注意力などの脳機能が低下するためと考えられています。他にも、普段は、ちょっと時間をかけて何とか思い出したり、次から物の置き場所を固定したりするなどの対応によって忘れる一歩手前でカバーするのですが、忙しかったり、寝不足だったり、心身の調子が悪かったりすると脳に負担がかかり、物忘れが出ることがあります。つまり、物忘れは、加齢性の脳機能低下と何らかのストレス状況の相互作用によって出現すると考えてよいでしょう」

Q.「物忘れ」が続いた場合、「認知症」を疑った方が良いのでしょうか?
田中さん「もし物忘れが続くなら、認知症の発症を疑うよりも、まず、知らず知らずのうちにストレスが溜まっていないかを探ることから始めましょう。そうして見つかったストレスに対して何らかの対策を講じても、なお物忘れが続くような場合には精密検査を受けてもよいかもしれません。ただ、精密検査を受けても、必ずしも認知症確定ではありません。“認知症もどき”の状態などの可能性があります」

Q.「認知症」のほかに、「仮性認知症」という症状があるようですが、どのような症状なのでしょうか? また、認知症とどのような違いがあるのでしょうか?
田中さん「先述のように、物忘れが続いても、必ずしも認知症と診断されるわけではありません。気づかないうちに中年期・初老期のうつ病を発症することによって認知機能の低下がみられる場合があり、こうした“認知症もどき”の状態は『仮性認知症』と呼ばれます。

例えば、物忘れ以外にも、考えようとしても頭が働かない、集中力が続かない、選択肢があるとどれを選んだらいいか判断できない(普段は選べていた)などの症状がみられます」

Q.「物忘れ」「認知症」「仮性認知症」などを判断・改善するために、自身で対策を練るなどは正しいのでしょうか?
田中さん「物忘れ、認知症、仮性認知症をひとまとめにして対策するというのは難しいと思います。物忘れに関しては、普段からメモ・スケジュール帳・カレンダーを使用したり、ちょっと時間をかけて何とか思い出す努力をしたり、物の置き場所を定位置に決めたりするなどの生活上の工夫を行うとよいでしょう。繰り返しになりますが、ストレスの軽減を図って脳の負担を減らすことも大切です」

Q.「物忘れ」「認知症」「仮性認知症」などを判断するために、どのようなタイミングで受診を受けた方が良いのでしょうか。また、どういった病院に行くのが適しているのでしょうか。
田中さん「タイミングとしては、数カ月間にわたって物忘れが続き、特に大事な忘れ物、失くし物が連続して起きるような場合には精密検査が必要かもしれません。その際、検査機器が十分にそろっている総合病院がよいと思います。物忘れ外来などの専門外来があれば、なおよいでしょう」