好みや生活リズムなどによって異なる、夕飯とお風呂の順番。「夕飯を食べてからお風呂に入る」か「お風呂に入ってから夕飯を食べる」か、あなたはどちらですか。毎日のルーティンとして順番を固定している人もいれば、日によって違うという人もいるでしょう。この順番、果たしてどちらが健康によいのか、気になったことがある人もいるかもしれません。

 そこで、「夕飯を食べてから入浴」と「入浴してから夕飯」のどっちが“医学的に推奨”されるのか、eatLIFEクリニック(横浜市旭区)院長で内科医・糖尿病専門医の市原由美江さんが解説します。

どちらも「消化・吸収」に影響するけど…

「食事をしたとき」と「お風呂に入ったとき」、体内ではそれぞれどんなことが起こっているのでしょうか。

 まずは「食事をしたとき」。食べ物が胃に入ると、胃酸や消化酵素によって食べ物が分解され、どろどろの状態に変化します。その後、胃の動きによって、3〜5時間ほどかけてどろどろの状態の食べ物が十二指腸に運ばれます。十二指腸を含む小腸は、消化酵素で食べ物をブドウ糖やアミノ酸に分解し、小腸の表面から吸収して血液中に運んでいます。

 次に「お風呂に入ったとき」。入浴によって体温が上がると、毛細血管が拡張して全身の血流がよくなります。血流がよくなることによって、代謝が改善したり、血液中の老廃物や乳酸などの排せつが促されたりするため、疲労の回復が期待できます。シャワーよりも湯につかる方が、全身が温まるので、こうした効果は大きくなります。

 では、「夕飯を食べてからお風呂に入った」ときと「お風呂に入ってから夕飯を食べた」とき、体内で起こると考えられることについて解説しましょう。

【夕飯を食べてからお風呂に入った場合】

食後しばらくは、胃腸の動きを活発にするために、血流が胃腸に集中します。夕飯を食べ終えてすぐお風呂に入ると、体表面を含めて全身が温まるため、胃腸に集中していた血流が減ることになり、消化・吸収の速度が遅くなると考えられます。食事の消化・吸収が遅いと、人によっては胃もたれや胸焼けなどの症状が出やすくなることがあります。

【お風呂に入ってから夕飯を食べた場合】

お風呂上がりにすぐ夕食を食べる場合、全身の血流が増加している状態なので、胃腸に血流に集中できず、「夕飯後にお風呂」と同様に、やはり消化・吸収が遅くなると考えられます。そのため、お風呂から出てすぐではなく、1時間程度たってから食事をするのが望ましいです。

しかし一方で、お風呂から出てしばらくたってから食事をすると、食事をしてから寝るまでの時間が短くなると思います。食後すぐに寝ると、寝ている間に胃腸が消化・吸収を行うので、睡眠の質が下がったり、体に脂肪をため込みやすくなったりします。その結果、肥満を招き、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を引き起こす可能性があるでしょう。

 これらのことから、医学的観点からみた場合「夕飯を食べてからお風呂に入る」ことをおすすめします。

 なお、食後、胃の中のものが十二指腸に運ばれるまで、最低でも3時間はかかります。しかし1時間もすると、ある程度の消化・吸収は進行しているので、少なくとも「食後1時間」は間隔を空けてからお風呂に入るとよいでしょう。

 夕飯とお風呂については、他にも注意点があります。

 血圧は食後に下がりやすいのですが、入浴によっても下がりやすくなります。特に降圧薬を内服している人は、食後すぐにお風呂に入ることは控えて、1時間以上たってからにしましょう。

 また、ダイエットをしている人の中には、夕飯とお風呂の順番による「カロリー吸収」への影響を気にする人もいるかもしれません。食べ物の消化・吸収のスピードが遅くなる可能性について先述しましたが、だからといって、それがカロリーの吸収に比例するわけではありません。摂取したカロリーは、お風呂に入るタイミングはもとより、入る・入らないにかかわらず同じです。

 人によって毎晩のルーティンは異なると思いますが、生活スタイルを見直したいときなどに、参考にしてみてください。