アパレルショップなどで洋服を買うと、店員が「出口までお持ちします」と言い、わざわざ、店の出口まで出てきて見送りをすることがあります。美容室などでも同様の見送りの光景をよく見ますが、中には、こうした見送りが苦手という人もいるようです。確かに、出口まで店員と一緒に歩くときの“間”に気を使いますし、「出口まで出てくる時間を他の客の対応に当てられるのではないか」と思ってしまいます。

 店員の出口までの見送りは必要なのでしょうか。経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。

江戸時代の呉服店で実施か

Q.店員が店の出口まで出てきて、見送りをするようになったのはいつごろからで、どのような店で行われるようになったのでしょうか。

大庭さん「起源は明確ではありませんが、少なくとも江戸時代の呉服店では、店員による『お見送り』が行われていたといわれています。当時の呉服店は現在の百貨店(デパート)の前身です。客の要望を聞き、その要望に見合った商品を店の奥や蔵から持ち出し客に見せ、気に入った商品を買ってもらう販売方法でした。有名なのは三井高利が開業した、現在の三越の前身である越後屋呉服店です。客との関係性を強化することで、来店の頻度を高めることが狙いの接客だったと考えられています」

Q.なぜ、わざわざ、店の出口まで出てきて客を見送るのでしょうか。

大庭さん「店員がお見送りをする最大の目的は、心のこもった接客を行うことでリピーターを増やすことです。客に代金を支払ってもらったところで接客を終わらせるのではなく、客が店の外に出るまでの時間、心のこもった接客を行うことで、客の印象をよくすることが目的です。

代金を受け取ったときに、短い言葉で『ありがとうございました』と言うだけの場合と、店の出口までお見送りをして、感謝の思いを伝えた上で『またのお越しをお待ちしております』と言う場合とでは客への気持ちの伝わり方が全く異なります。加えて、お見送りをすることで一定の時間、客との間で一対一のコミュニケーションを取ることができるため、客との関係を強化することができます。

日用品の購入の場合は、お見送りをすることによる効果は期待できませんが、嗜好(しこう)品やぜいたく品などの購入の場合は客に『大切な客だと思われている』と感じさせることで、リピートや固定客化を促す効果が期待できるでしょう。このことから、デパートやアパレルショップ、美容室、宝飾品販売店などでは、店員によるお見送りが当たり前のように行われています」

Q.出口まで出てきて客を見送るのは日本独自の接客方法なのでしょうか。海外でも行われているのですか。

大庭さん「お見送りという接客形態が、海外で営業している店でどの程度定着しているのかは定かではありませんが、ブランド店や高級な商品を販売する店などでは、店員が得意客に対し、お見送りをしている実態があります。理由は日本の店と同様、心のこもった接客を行うことでリピーターを増やすことだと考えられます」

Q.店員の出口までの見送りは必要なのでしょうか。

大庭さん「必要ないとする意見もありますが、私は『お見送り」は店にとって必要な業務ではないかと考えています。理由は、店が客に対して心のこもった接客を行うことが客と店の両者にとってメリットになると考えるからです。客にとって、店や店員と気持ちの通じ合える関係になることで、自分の要望を気兼ねなく店に伝えることができるようになり、その結果、欲しい物やサービスを手にすることが容易になります。

それにより、客の満足度が高まり、来店や購入の頻度も高まれば、店の経営も安定しますし、心のこもったお見送りは競合店との間の差別化要因ともなります」

Q.「出口までの見送りはいらないけど断りにくい」という声も聞きます。もし、店員から、「出口まで見送る」と言われたとき、必要がないと思う客はどのように断ればよいのでしょうか。

大庭さん「2つの対応が考えられるのではないでしょうか。1つ目は客の方から、『今日は丁寧に対応してもらい、ありがとうございました。とても満足しています』などと、今回の買い物に満足している気持ちを伝え、お見送りを遠慮する方法です。客が満足していることを知ることで、店員も『リピーターになってくれるのではないか』という期待を抱くことができ、お見送りをしないことへの不安も払拭(ふっしょく)されます。

2つ目は『他のお客さんもいるので、私への対応は結構です』などと、自分のために時間を使わせるのは申し訳ないという気持ちを伝えた上で、お見送りを遠慮する方法です。そうすることで、店員も『客に気を使わせてはならない』と感じることにより、波風を立てることなく、お見送りをやめることができるのではないでしょうか」