コロナ禍において“免疫力”は重要なキーワードのひとつ。その免疫力を高めるのにいいとされるのが腸活。腸内環境を整えることで、健康や美容、人間の身体能力にまで影響を及ぼすという研究結果も出ているが…。そこで、約800人分のアスリートの便を集めてそのデータを取り、スポーツ選手のコンディショニングや人々の健康に役立てるという事業を行っている、浦和レッズ一筋に16年間活躍し、サッカー日本代表にも選ばれた、あの鈴木啓太氏に腸活の重要性とその方法について伺った。

アスリートの腸内細菌には “多様性”がある


その名の通り、まるでお花畑のようにさまざまな腸内細菌が生息している「腸内フローラ」

サッカー日本代表、そして浦和レッズの選手として長い間第一線で活躍してきた鈴木啓太氏が引退したのは2015年シーズン。その後、選手時代の経験や人脈を生かし、バイオベンチャーの会社「AuB(オーブ)」を立ち上げた。同社では、アスリート約800人から「便」を提供してもらい、アスリートの腸内環境を研究。そこから得たデータをヘルスケアの領域に生かしている。
「800人近い検体から得たデータを見て面白かったのは、アスリートの腸内フローラが多様性に富んでいるということです」(鈴木啓太氏、以下同)

ヒトの腸内には約1〜2kgの重さの腸内細菌が棲んでいます。種類にして500〜1000種類とも言われる腸内細菌は、ヒトが食べた食物を分解し吸収してくれています。これらの腸内細菌が集まり生態系となって腸内に存在することを腸内フローラといいます。
(AuBホームページより)

腸内フローラの状況は、食べ物や運動量、生活環境などの影響を受け常に変化している。そのため、腸内細菌の種類や数は人によって千差万別。そんな個性豊かな腸内フローラだが、アスリートに共通していたのが、一般の人に比べ多様性に富んでいた、つまり腸内細菌の種類が多かったということだ。腸内細菌の数が多いことが、いったい人間の身体にどんな影響を及ぼすのだろうか。

持久力アップも可能? 多様な腸内細菌がもたらす健康メリット

アスリートの腸内細菌の特徴のひとつとして鈴木氏が挙げてくれたのが“酪酸菌”。この菌は腸内の悪玉菌の増殖を抑えるとともに、私たちの健康に重要な短鎖脂肪酸を作り出すのに欠かせない善玉菌だ。なんとこの酪酸菌がアスリートの腸内には一般人の2倍もあったという。この他にもAuBのデータを裏付けるような研究結果が、世界中で発表されているという。

「たとえばある研究で、無菌のラットにボストンマラソンで上位に入ったアスリートの腸内細菌を移植したところ、普通のランナーの菌を移植したラットに比べて、13%も持久力が上がったという結果が出ています。アスリートの腸内細菌には、こうした特徴があるんですよ」

腸内細菌が違うだけで、これだけの差が出るというのは凄いことだが、一方でアスリートでない人は、自分にはマラソン選手のような持久力は必要ないと思うかもしれない。しかし、持久力は多様な腸内細菌がもたらす影響のほんの一部。

「これも海外の大学の研究結果ですが、コロナで重篤化する人は、腸内細菌の多様性が低い傾向があるそうです」

つまり腸内細菌が多様な人のほうが、コロナに感染しても重篤化する可能性が低いかもしれないということだが、ここで大切なのは腸内細菌の数を増やすことではなく、多様性を高めるということだと、鈴木氏は言う。

「腸活とは腸内環境を整えるということですが、それは腸内細菌のバランスを整えるということです。たとえば免疫力が下がると風邪をひいたりしますが、免疫力が過度に働いてしまうと、アレルギー症状が出たりしますよね。それと同じで、何かひとつの腸内細菌が突出して多いよりも、いろんな腸内細菌がバランスよく存在することが大事なんです」

鈴木流、腸内細菌を多様化する腸活方法

では、具体的に腸内細菌を多様化させるにはどうしたらいいのか? 鈴木氏が考える腸活のポイントを3つ挙げてくれた。

1)自分の便をしっかり観察する

まず、腸活をする前に自分の腸内細菌がどんな状態なのかを知ることが必要だ。それには自分の便を観察することが重要だと鈴木氏。

「便は食べたモノのカスだと思っている人が多いようですが、実際は60〜70%が水分で、食べ物のカスは5%程度。残りの25〜35%は役目を終えた腸内細菌の死骸や腸壁がはがれたものなんです。つまり、便の量が少ないということは腸内細菌が少ない可能性があります」

腸内環境はストレスなどでも変化するが、このように便の量のほか、色やかたち、ニオイなどを毎日観察することで、自分の健康状態の変化を知ることができると言う。

「あるアスリートがジャンクフードを食べた翌日は、便がよく出ると言うんですよ。普通ジャンクフードは体に悪いと言われますが、その人は油分が多いものを食べると便がでやすいかもしれないし、ジャンクフードを食べることでストレスから解放されているのかもしれない。これはその選手の傾向なので、誰にでも当てはまるわけではありません。自分が何を食べると、何をすると、どんな便が出るのかを知ることで、自分の体にとっていい生活、悪い生活の傾向が見えてくるんです」

2)いろんな菌をバランスよく摂取する

腸活として毎日ヨーグルトを食べている人も多いだろう。実際、コロナ禍において腸活をして免疫力をあげようとする人が増え、納豆やヨーグルトの売上げが上がったそうだ。しかし、この食べ方にもポイントがある。

「ヨーグルトを食べるのはいいことです。ただ、ヨーグルトに含まれる菌はだいたい1種類ですから、毎日同じヨーグルトを食べていたのでは、腸内細菌は多様化しないということ。どうせ食べるなら、毎日違うブランドのヨーグルトを食べた方がいいですね」

最近は商品名自体が菌の名前になっているものも多いので、今日は○○菌のヨーグルト、明日は△△菌のヨーグルトと、なるべく多くの種類の菌を摂取するほうがいいそうだ。

ヨーグルト以外にも納豆やキムチ、粕漬け、ザワークラウトなどの発酵食品。さらに味噌や醤油、塩麹、酢などといった発酵調味料からもいい菌を取り入れることができる。このように、さまざまな発酵食品を意識的にとることによって多様な菌を摂取できるのだ。

3)朝食には温かいスープを飲んで腸内細菌を活性化

最後に鈴木氏がぜひ習慣化してほしいという腸活が、朝食にスープを飲むということ。ヨーグルトや納豆を食べて腸内の善玉菌を増やしたところで、栄養となるものがないと菌はうまく働くことができない。

「よく、朝は甘いパンとコーヒーだけという人がいます。甘いものは脳の栄養と言われて、血糖値が急激に上がりますが、その効果は一時的です。1日のパフォーマンスを上げるには、脳よりもむしろ腸内細菌を活発にした方がいいと思います。そうするためには、しっかりと栄養素を摂ることが大切です。前日の夜に冷蔵庫にある野菜を鍋に入れて煮ておくだけで、いろんな栄養素がスープに溶け出します。そこに豆腐などのタンパク質を入れるさらにいいですね。腸は温めた方がいいと昔からいいますから、そういう意味で温かいスープは腸活にぴったりじゃないでしょうか」

鈴木氏は毎日自分の便をチェックし、夜寝る前は自社の29種類の菌を配合したサプリメントを飲み、朝は温かいスープを飲むようにしているという。

「僕はサッカー選手として決して上手ではなかったと思います。僕より上手な選手はたくさんいました。それでも16年間やってこられたのは、足りないスキルを補うために集中力を高めたり腸活などをしたりして、常に体のコンディションを整えていたからだと思います」

鈴木氏は「毎回100点満点は出せなくても、いつでも80点以上のパフォーマンスができるようコンディションを整えてきた。その一環が腸内環境のバランスを保つことだった」と言う。今日100点満点のパフォーマンスができたとしても、翌日体調不良で0点のパフォーマンスしかできなかったら、その人はどんな世界でも一流にはなれないからだ。それは一般の社会にも通じることで、健康は人が生きていく上で、何よりも大切なこと。
昨年、コロナウイルスに感染して重篤化した人々の腸内細菌はバランスが崩れている傾向にあったという研究結果が報告された。さらに研究が進めば、私たちの健康に多様な腸内細菌を持つアスリートのデータが大きく貢献する日がやってくるかもしれない。
アスリートの力が新しい未来を作る可能性に期待したい。

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
photo by Yuji Nomura,Shutterstock