今年4月にオープンした山形市南部児童遊戯施設『シェルターインクルーシブプレイス コパル』(通称:コパル)。早くも、利用者数3万人を突破し、近隣の子どもや親御さんたちの間で話題となっています。これまでの箱物事業とは明らかに違う事業体制で全国の行政や団体からも注目を集めるコパル。今回は、運営担当のNPO法人生涯スポーツ振興会(アプルス)の須貝守さん・美奈子さんご夫婦に、コパルの魅力について教えてもらいました。

すべての子どもがいつでも安心して遊べる場所

稜線とリンクする曲線的な外観。モダンながら温かみのある建物は、街の新しいシンボルになりそう

蔵王連峰を望む美しい田園地帯。JR蔵王駅の程近くにコパルはあります。保護者同伴の小学生以下が利用できる遊戯施設で、屋外に5つの広場、屋内には大型遊技場や体育館、図書コーナーなどさまざまなスペースがあり、それらをほぼ無料で利用できます(※デジタルアトラクション、教室など別途有料のものもあり)。また、施設内に子育て支援センターもあるため、プレママ・パパにとっても心強い場所になっています。

―― 市内の他の遊戯施設との違い、コパルの魅力は何でしょうか。

美奈子さん:障がいの有無や国籍などに関係なく、すべてのお子さんが安心してのびのびと遊んでいただける施設ということです。コパルができる前、多くの市民からこういった施設が欲しいという要望が市に寄せられていたそうです。

守さん:これまでの児童遊戯施設では、さまざまな理由から障がいのある方々など一部の方の利用をお断りしなければならないこともあり、忸怩たる思いをしてきたようです。そんな中、山形市長の『どんな人でも安心して利用できる施設を目指してほしい』という想いと我々の想いが合致し、現在のコパルが生まれました。

ホームページより抜粋。コパルは、すべての子どもたちが互いを認め合い、楽しく遊べる施設を目指している

守さん:山形は雪が多い地域なので、家の中に閉じ込められるような状況が何ヶ月も続くことになります。そんな環境の中、コパルは屋内施設がメインなので、季節や天候に左右されることなく遊べるという部分でも安心していただけると思います。

美奈子さん:一般的な屋内の遊び場は、子どもだけでボールプールで遊ばせて親は外から眺めるしかないなど、大人が一緒に遊べないところもありますが、コパルはどこでも親子で一緒に遊べるように作られているので、ただ座って見ているだけの親御さんは少なくて、みんなで一緒に遊ぶ光景が多く見られますね。

――ということは、障がいのあるお子さんや介助者の方も利用しやすいですね。

守さん:そうですね。大きい滑り台で障がいのあるお子さんが遊ばれているときも、周囲にいる親子はごく自然に受け入れておられますね。必要な場合はスタッフがお手伝いしますので、気兼ねなくご利用いただけます。

あらゆる専門家の声を反映した最高の施設

コパルは山形市の公共施設ですが、多くのプロによって成り立っています。例えば、アプルスの守さんと美奈子さんは、山形市内でスポーツクラブを運営する傍ら、子どもから高齢者まで、幅広いスポーツ振興で地域に貢献。児童発達支援・放課後デイサービスを行っている合同会社ヴォーチェと共に運営を担当しています。

――たくさんの企業や団体がコパルを支えているんですね。

美奈子さん:名称にある「シェルター」は、避難場所という意味のシェルターではなく企業名なんですよ。コパルは民間企業が設計・運営・管理などを行うPFI事業で、その代表企業である株式会社シェルターがネーミングライツを獲得し、「シェルターインクルーシブプレイス コパル」という名称になりました。

守さん:PFI事業と言うと、建物が出来上がった状態で外部に建物の管理を委託する“箱物事業”が一般的だと思うのですが、その場合、出発地点が不明瞭で指定管理者になったとしても建物を有効活用できないなんてことが多いんですよね。でも我々の場合は、設計の段階からすべての代表者が同じ机に座り、いろんな議論を交わして合っているので、「設計はすべてお任せします」ということも「私の仕事は終わったので、はい、さよなら」ということもない。各担当が責任を持って関わり続ける施設なんです。

――実際にどのような議論が交わされましたか?

美奈子さん:立場によって思いや理想は違うので、施設内の手すりひとつにしても何度も論争を交わしましたね。普通の手すりだけでなく、子どもたちが遊んで楽しめるような手すりもつけたいということで、設計事務所サイドが普通の手すりの下に遊べる手すりを設置する案を出したんです。そこから「危ない」、「本当に手すりが必要な子もいるから2つ並べるのは問題じゃないか」、「じゃあ遊びの手すりはやめよう」、「いや、遊びも大切かもしれない」、「それなら、普通の手すりとは反対の壁に遊びの手すりを設置しよう」、「やっぱり、手すりが必要な子が来たときに遊んでいる子たちが『どうぞ』と譲れる環境も大事だよね」とそれぞれが納得できる案に到達する。そういう話し合いを何度も重ねてこの施設が出来ています。

――異なる理想を持つ人たちが意見を出し合うことで、あらゆるニーズに応えられるものに近づけることができたんですね。

上下に2本設置された手すり。はめ込まれた木球を動かして遊べる

守さん:私たちにとってもコパルは格別なんですよ。以前、コパルに携わっている方が「普段なら自分の担当外で何が起きようが関係ないけど、コパルには愛着がある。こんな仕事はしたことがない」とおっしゃっていましたね。

美奈子さん:何より建物自体にすごく魅力があるんですよ。曲線が多くて真っ直ぐなところがほとんどないから、入っただけで心の角が取れてしまうみたいな。この建物が発する雰囲気が利用者さんだけでなく私たちにもプラスになっています。こういうことも、箱物事業じゃないからできたことですよね。

おもちゃ病院やマルシェなど、みんなで楽しめるイベントも!

コパルではたくさんのイベントが行われています。例えば、スタッフによる手遊びや体操、映像に合わせて体を動かすデジタルアトラクション(有料)は毎日開催。その他にも、工作教室や音楽会、大人向けのヨガ教室など、実にさまざまなイベントが毎週のように実施されています。

――家族みんながワクワクするような素敵なイベントがたくさん開催されていますが、パラスポーツの体験会を開催されたこともあるんですよね。

美奈子さん:オープニングイベントということで、障がいのある方もない方も楽しめるようなスポーツイベントがやりたくて、パラリンピック競技の体験会を企画しました。最初は車いすバスケットボールも予定していたのですが、ちょうどコロナの感染者数が増えてきたタイミングだったので、少人数で距離を保ちながらできるボッチャのみの体験会になりました。

守さん:それでも50〜60名が参加してくれましたよ。プレー中に、障がいの度合いによって滑り台のような器具(ランプ)を使ったり、いろいろな戦い方ができるスポーツだということを説明してね。東京パラリンピックの印象があるもんですから、映像でしか見たことないものが自分で手に取って自分の感覚で体験できるっていうことで大いに喜んでいただきました。

4月、体育館で行われたパラリンピック競技体験イベントの様子。たくさんの親子がボッチャを楽しんだ

美奈子さん:自由度が高い競技ですごく実施しやすかったですね。今後もいろんなタイミングでボッチャを体験していただこうと思っていますが、いつかゴールボールやシッティングバレーボールのイベントもやりたいですね。

守さん:大人も子どもも関係なく楽しめるという点でもパラスポーツはすごく魅力的なんですよね。ただ、道具が買えない。私たちのような施設に貸し出してくれる団体やシステムがあると嬉しいですね。

コパルから地域全体に広がる、優しい未来

「生きる力」、「インクルーシブ」、「地域共生」の3つを柱に、遊びを通して子どもひとりひとりの豊かな発育を支えるコパル。今後、これらの柱はますます太く力強いものになっていきそうです。

――今日お話を伺って本当に素敵な施設だと思いました。これからたくさんの人にコパルを利用してもらいたいですね。

美奈子さん:そうなんです。土日に関してはなかなか予約が取れない状況になっていますが、朝9時から当日の入館整理券を配布しておりますので、初めての方にもぜひ利用していただきたいと思っています。今後も、幅広い年齢層の子どもたちに「コパルに行ったら楽しいことがある」と思ってもらえる仕掛けやイベントをいろいろ計画しているので、楽しみにしてください。

――利用の範囲を広げる予定はありますか?

美奈子さん:新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、しばらくの間は山形市在住もしくは山形市内に通園・通学・通所しているお子さんと保護者の方のみのご利用に制限していますが、今後はもう少し利用範囲を広げられるといいと思っています。あと、コパル内の子育て支援センターでも、地域の高齢者の皆さんも一緒に集える場を提供していきたいという想いがあるので、今後はますますインクルーシブな空間になると思いますね。

守さん:インクルーシブって、頭で考えるよりも自分の肌で感じていただいた方がわかりやすいと思うので、ぜひ一度、お子さんとコパルに来ていただくか、大人の見学会に参加していただきたいです。

屋外広場が5つもある広々とした施設。敷地内にある食育カフェ「littleJAM」(火曜定休)は、居住地に関係なく予約なしで利用できる

――コパルのように楽しみながらインクルーシブを体感できる施設が全国にできるといいですね!

守さん:そうなんですよ。私個人の意見ですが、コパルのようなインクルーシブな施設は、新たなまちづくりに貢献できると感じています。例えば、我々の世代は子育てを母親任せにするのが当たり前だったけど、コパルに来る家族連れの方々を見ていると、若いお父さんが子育てに参加しているでしょ。そうやって社会の意識が時代とともに変わるのは当然なのに、やっぱり受け入れられづらい部分もある。そういった意味でも、ひとつひとつ丁寧に発信し、体感してもらう場所を提供することもできるんですよ。

現在コパルでは、全国の自治体や建設関係者からの見学希望が多く寄せられているそう。子どもやその家族にとって居心地のいい場所であると同時に、地域の未来を明るく照らす。そんな可能性に満ちたコパルがロールモデルとなり、日本中の遊び場が変わる日も近いのかもしれません。

シェルターインクルーシブスペース コパル(山形市南部児童遊戯施設)
山形市大字片谷地580-1
https://copal-kids.jp

text by Uiko Kurihara
写真提供:シェルターインクルーシブプレイス コパル