DYNAUDIOの創設者として知られるウィルフリート・エーレンホルツ氏が、新たにPEAK(ピーク)というオーディオブランドを立ち上げた。そしてその輸入代理店業務を、PROSTO(株)(旧社名・DYNAUDIO JAPAN(株))が担当することが決定した。ミュンヘン・ハイエンドの会場にて、エーレンホルツ氏にPEAKの音作りのこだわりをたっぷり語ってもらったのでお届けしよう。

1977年にデンマークで創業したスピーカーブランドDYNAUDIOは、スピーカーユニットのOEM供給からスタートし、その後コンシューマー向けのスピーカーシステムやプロオーディオ機器、カーオーディオ向けユニットの展開にも力を入れる世界最大規模のスピーカーメーカーのひとつに成長した。しかし、2014年に中国のGoerTek社に買収され、DYNAUDIOはエーレンホルツ氏の手から離れた(なお、GoerTek社がDYNAUDIOを買収した大きな理由には、成長する中国のEV市場向けユニット供給を期待したと言われている)。

「10年前にDYNAUDIOを退職してからは、しばらくオーディオのことをあまり考えずに過ごしていました。ですが、自分が納得できる音のスピーカーがなかなか市場には見つからない、と感じていた時に、PEAK Consultから、また一緒にスピーカーメーカーをやらないか、と声をかけてもらったのです」(エーレンホルツ氏)

ちなみに会社名がPEAK Consult、オーディオブランドとしての名前はPEAKとなる。「PEAK Consultは小さい会社ですが、今まで私がみたことのないレベルのクオリティのキャビネットを作れることがわかりました。このキャビネットのクオリティと、私が40年間の間培ってきたスピーカーユニットの技術を一緒にしたら、素晴らしいスピーカーが作れるのではないか、と考えてブランドを始めることにしたのです」(エーレンホルツ氏)

PEAKのキャビネットは北欧家具の伝統を継ぐデンマークですべて製造しているが、非常に精度の高い測定機材をドイツに持っており、その共同作業としてスピーカー開発を行なっていると言う。

「私のスピーカーづくりのノウハウについて少しお話ししましょう。最高の製品を作るためにはいいパーツが必要です。ですが、いいパーツをなんでも集めれば良い、と言うものではありません。それを仕上げるためには“シェフの腕”が必要なのです。

オーディオ業界の傾向として、すぐに技術のことをどうこうするばかりで、音楽を聴くことに集中できていないと感じることがあります。半導体を使おうが真空管を使おうが、私たちの最大の目的は、“音楽を素晴らしいクオリティで再現すること”に尽きます。私たちは3年間かけて、最高レベルのスピーカーを生み出すことができたと自負しています」(エーレンホルツ氏)

現在のPEAKのラインナップは4種類。上のグレードから「Dragon Legacy」「El Diablo」「Sinfonia」「Sonora」の4モデルで、一番下位のモデルでも日本円で400万円超というハイエンドスピーカーである。ちなみに「Sonora」は一見フロア型に見えるが、エーレンホルツ氏によると「ブックシェルフに大型のスタンドが付いたもの」として考案されたものということで、キャビネットの下部には細かい砂が詰められていると言う。

仕上げは北欧らしい木目仕上げをメインとするが、モダンなライフスタイルに合わせてピュア・ホワイトとミッドナイト・ブラック仕上げを用意している。

「製品開発において一番重要視しているのは、音楽をどれだけ自然に再生できるかと言うことです。高い周波数の音がどれだけ伸びているかとか、低域がどれだけパワフルかとか、そういうことを考えて作っているわけではありません」(エーレンホルツ氏)

だが、スピーカー開発においては、徹底したディテールへのこだわりが最終的な仕上げに大きく関わってくるという。

「特にクロスオーバーのパーツは入念に選定しています。普通の価格の何十倍もするようなものでも、音質が良ければそれを採用しています。なので私たちのクロスオーバーは非常に大きいのです。また、クロスオーバーはユニットの配置されたキャビネットから完全に独立しています。不要な振動を避けるとともに温度を一定に保つことで、性能をよりよく発揮させることができるのです」(エーレンホルツ氏)

間近で見ると、デンマーク家具の伝統を継ぐキャビネットデザインも美しい。そのこだわりについても教えてもらった。

「キャビネットはアメリカン・ウォルナットとウェンジを組み合わせています。木材は湿度や温度などで曲がってしまうことがありますので、そう言った影響を受けにくい素材を選定しています。3層を特別な接着剤で貼り合わせることで、不要な振動を排除しています。またフロントバッフルはレザーで、斜めのデザインも音質を考えて調整されています」(エーレンホルツ氏)

PEAKならではのこだわりの技術は足元にも光る。「フットはセラミックのボールをデカップリングすることで、ミリメートル単位で高さ調整ができるようになっています。スパイクよりも安定性が高いと考えています。またセラミックとスチールでも比較試聴を行いましたが、セラミックの方が音質的によかったこと、また床材がどのようなものであっても影響を受けにくいと考えています」(エーレンホルツ氏)

もうひとつ、エーレンホルツ氏がDYNAUDIO時代から重視しているのが「トランジェント」(過渡応答性)というポイントだ。

「改めてお伝えしたいことは、私たちは自然な音楽再生を目指している、と言うことです。ヴァイオリンはヴァイオリンらしく、ギターはギターらしく、女性ヴォーカルも歌っているその声をそのままに再現したいと考えています。そのためには、正確なトランジェントが大切だと考えています。これはDYNAUDIOを立ち上げた時からずっと言い続けていることですが、当時は笑って誰も相手にしてくれませんでした(笑)。ですが、現在ではスピーカー開発のとても重要なポイントになっていますね」(エーレンホルツ氏)

現在セールス&マーケティングを担当しているマイク氏(彼も元DYNAUDIOスタッフである)も、初めてPEAKの音を聴いた時に「なんて三次元的な音がするだろう!」と感激したのだと言う。そんな立体的なサウンドステージの再現には、やはりトランジェントの追求が必要になる。

だが、優秀な測定システムによる測定はもちろん重要だが、最終的に音質を決定するのはやはり「人間の耳」である。「測定だけで全てを決めることはできません。測定はマイクの位置を少し変えただけで結果がガラリと変わってしまうからです。いい音楽があくまでリファレンス。それを忘れてはなりません」(エーレンホルツ氏)

PEAKの国内導入の詳細(モデル、価格等)は追って発表される予定となっている。こちらも楽しみに待ちたい。