ミュンヘン・ハイエンドの開催期間中は、メイン会場であるMOC以外にも近隣のホテルやイベントスペースでもオーディオショウが開催され活気を呼んでいる。ここでは、「MOTORWORLD」(その名の通りヴィンテージカーなどがたくさん展示された車好きには夢のような場所)にて開催されたVERTERE(ヴァルテレ)の新製品発表会などをレポートしよう。

トラジ・モグハダム氏が主催するイギリスのオーディオブランドVERTEREは、今年は「MOTORWORLD」にブースを構え、プレスカンファレンスでは新たにフォノイコライザー「CALON」とトーンアーム「Super Groove II PTA」を発表した。

「CALON」の開発背景についてトラジ氏は、「レコードの音溝から引き出された信号をいかに精度高く保存して、次の機器にきちんと受け渡すかを考えて開発しました」と語り、単体の性能だけではなく、レコードプレーヤーからスピーカーまで連なる一連のアナログ再生システムの中でのフォノイコライザーの役割を強調する。

CALONは非磁性体のステンレス筐体で構成されており、MM/MCカートリッジの両方に対応。3つのゲインステージで構成され、初段は+10dB/+20dBから選択可能なゲインステージで、RIAAカーブの調整もここで行われる。高域はパッシブ、低域はアクティブフィルターになっているとのこと。続けて0-8dBまで2dB刻みでゲインを調整できる(フロントパネルから調整可能)中段ステージがあり、最終増幅段に送られる。

サブソニックフィルターが搭載され、超低周波によるノイズを抑えるとともに、アンプ側に無駄な負荷をかけないことで、「スピーカーのポテンシャルをより引き出すことができます」と訴える。バランス出力にはフェーズインバーターも搭載し、レコードに合わせて設定が可能だ。

フロントパネルのスイッチで、MCカートリッジについてはインピーダンス、MMカートリッジについては負荷容量も細かく設定できるようになっている。なお、CALONはRCA入力のみで、バランス入力は搭載していない(出力はXLR端子あり)。その理由についても「グラウンドが関係してくるのはプリアンプ以降で、フォノイコライザーにバランス入力は不要と考えています」と明確だ。

もうひとつのトーンアーム「Super Groove II PTA(SG-II PTA)」は、フラグシップである「Reference Tonearm」と、「Super Groove Precision Tonearm」の中間価格帯の製品として生み出されたモデル。

トラジ氏によると、「基本的なジオメトリーはSG-1 PTAと大きく変わりませんが、内部配線やベアリングシステムなどをすべてアップデートして新設計しています」と説明する。航空グレードのシリコンとタングステン素材の3点ピボットのベアリングにより、ふらつきのない音溝からのピックアップを実現するという。

アームチューブは軽くて硬いカーボンファイバーで、ヘッドシェルはチタン製。アームチューブに取り付けられたステンレスリングは、ウェイトの調整をさらに精度高く行うためのものだという。

会場では、FMアコースティックのプリ&パワーアンプに、PMCのスピーカー「fenestria」を組み合わせてデモンストレーションを実施。SN感の良さは抜群で、楽器そのものが目の前で鳴っているかのような驚異的なリアリティを聴かせてくれる。アントニオ・フォルチオーネのアコースティック・ギターは切れ味抜群ながら余韻もリッチ。アンネ=ゾフィ・ムターのヴァイオリンは、演者が弦を擦るその一瞬前の空気感から生々しく捉え、ステージングを雄大に再現する。レコードの旨みをこれでもかと引き出してくるトラジ氏のマジックにすっかり魅了されてしまう。

ほかにもMOTORWORLDではいくつかのオーディオブランドがブースを展開。スタジオモニターユースとしても知られるKii Audioは、アクティブ・ワイヤレススピーカー「Kii SEVEN」などを展示。シンプルな構成だが洗練されたオーディオ世界を表現しており、しばし聴き入ってしまった。LINKWITZスピーカーは平面バッフル+ウーファーをキャビネットに納める独特のデザインが特徴。

ドイツのMARTION AUDIOSYSTEMEというブランドは、独特の“同軸ホーン”スピーカー「Aeonor」(アンプ内蔵のアクティブモデルとのこと)を展示していた。なかなか日本ではお目にかかれない珍しいスピーカーが味わえるのもミュンヘン・ショウならではの醍醐味だ。