エンタメ体験も刺激的

■様々な役割を担う画期的なメインカメラ

片目ずつ4K高解像度の映像の圧倒的な精細感にも心躍らされたが、それにしても、本体に内蔵するメインカメラと連携する機能が秀逸だった。

メインカメラで被写体を左右の異なるアングルから撮影し、奥行き方向の情報も記録する「空間再現ビデオ・写真」をApple Vision Proで表示すると、とても美しい。この素材を撮影するためにはApple Vision Pro本体を様々な場所に持ち出す必要がある。ただし、これを撮影するために、その都度本体を頭に装着するのはあまり現実的でないように思うので、もしかすると秋に発売される新しいiPhone、または関連するフォトアクセサリーを使って「空間再現ビデオ・写真」が撮れるようになるのかもしれない。

Apple Vision Proは専用のvisionOSに最適化されたFaceTimeビデオ通話アプリが使える。FaceTime通話時に、ユーザーはApple Vision Proを装着している自分をカメラで撮る手段がないため、自身の姿にそっくりなアバターである「Persona(ペルソナ)」をあらかじめ用意する。

今回のデモでは体験者のPersonaをつくる機会がなかったため、FaceTimeの通話相手のPersonaを画面越しに見た。筆者の通話相手は男性の方だったが、肌の質感やヒゲ、瞳の透明感などPersonaの描画は驚くほどにリアルだった。この仕組みを知らずに体験していたら、ホンモノの人物を撮影している映像と区別が付かなかったかもしれない。

■オーディオも高音質

Apple Vision Proの本体に内蔵する「Dual-driver audio pods」という名称のスピーカーユニットによる、とてもパワフルでクリアなサウンドにも物欲をそそられた。FaceTime通話の際にも空間オーディオとダイナミックヘッドトラッキングの効果が働き、顔の向きを変えても、通話相手の声があるべき場所に定位する。

3D映画の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のデモンストレーションを視聴した際にも、目の前に迫り来る立体映像と力強く鮮明なイマーシブサウンドのコンビネーションに息を呑んだ。画面上に最大100フィート(約33メートル)相当の大きなスクリーンを表示して、周囲を暗くした状態で映像作品に没入できる「シアターモード」もある。エンターテインメントを楽しむためのヘッドセットとしても、Apple Vision Proはとても刺激的だった。

■MacやiPadに近い “空間コンピュータ” の操作感

visionOSのユーザーインターフェースがとても洗練されていたことにも刺激を受けた。アイトラッキングとハンドジェスチャーでアプリを操作し、複数のウインドウを開きながらマルチタスクをこなす操作感は、MacやiPadによる体験にとても近く、洗練されている。

Apple Vision Proを装着して動画を視聴している間、近くに人が来て話しかけられても、サウンドシステムは完全にオープンエアのスタイルなので、声は聞こえる。

また会話したい相手の方を見つめていると、数秒でその人の周りの映像が、顔が見えるほどにまで透過する。今回は試せていないが、Apple Vision Proのフロント側にあらかじめ作成したユーザーの目の映像を表示するEyeSight機能も有効になる。

このようにApple Vision Proは、自分の世界に没入するだけでなく、周囲とのコミュニケーションを阻害しない使い勝手を実現している。Apple Vision Proは、従来のAR/VRヘッドセットとは似て非なる、世界初の “空間コンピュータ” であることを、短時間のデモンストレーションで強く実感できたことから、筆者も本気でこれが欲しくなった。

仮にApple Vision Proが今から約1年3ヶ月後、2024年の9月に日本で発売されるとしよう。3,499ドルのデバイスを買うためには今から約450日、毎日約1,200円の貯金を準備しなければならない。なかなかストイックな暮らしが求められそうだ。

何はともあれ、メガネユーザーが必ず必要になる光学インサートも含めて、Apple Vision Proの販売方法に関する続報など、今後のニュースを心待ちにしたい。