美しい和菓子で人々を魅了する"和菓子作家"の坂本紫穗さん。国内のみならず海外からも注目を集める売れっ子だが、もともとはIT企業勤めのビジネスマンだったという。なぜ伝統的な和菓子の世界に進んだのか。その異色のキャリアについてお話しを聞いた。(写真:吉田和本 取材・文:Voice編集部(田口佳歩))

※本稿は『Voice』(2023年12月号)「令和の撫子」より抜粋、編集したものです。


和菓子を誰もが楽しめる存在に

淡いグラデーションですっきりとしたデザインの、手のひらサイズの小さな和菓子。坂本紫穗さんの作る和菓子は多くの人を魅了する。店舗で出されるメニューの監修など、企業からの依頼も絶えることがない。

そんな坂本さんが大切にしているコンセプトが、「印象を和菓子に」だ。季節や自然などから受け取った「印象」を、和菓子という形で表現する。そこには、「自分ならではの見方」を大事にしてきた坂本さんの生き方があらわれている。

和菓子作家になる前はITベンチャー企業で働いていた。しかし会社が大きくなるにつれて「誰でもできる」仕事の仕方が求められ、自分の個性や感性を活かしきれない状況に居心地の悪さを感じるようになった。

そんなある日、ふと夢に出てきたのが和菓子だ。歳の離れた妹が幼い頃、乳製品アレルギーだったため、代わりに家族でよく食べていた和菓子は、坂本さんにとって「身近な人を笑顔にできるもの」だった。

和菓子作家になってからは、会社員時代には発揮することができなかった「自分ならではの視点」を何よりも大事にした。たとえば依頼された季節のテーマについてある程度情報をインプットしたら、ひたすら一人考える時間をとる。坂本さん自身の解釈をへて、和菓子に一つのメッセージが込められる。

そんな坂本さんがめざすのは、より多くの人が和菓子を楽しめるようにすること。食べることはもちろん作ることも身近にしたいと考えている。

「私にとって和菓子は、誰かを笑顔をするものです。子どもをはじめ幅広い世代の方々が、日常でカジュアルに楽しめるものであってほしいですね」(坂本さん) 

幼少期から味わっていた和菓子は、坂本さんならではの感性によって、いまも多くの人を笑顔にしている。

【坂本紫穗(さかもとしほ)】
和菓子作家。オーダーメードの和菓子を作品として制作・監修。日本国内および海外で和菓子教室やワークショップ・展示・レシピの開発を行う。「印象を和菓子に」をコンセプトに、日々のあらゆる印象を和菓子で表現し続ける。