作文、メール、レポートから小説まで、いい文章を書くには、何を心がければいいのか。

中学生から大人まで役立つ技術を、著書累計510万部の人気児童書作家はやみねかおる氏が上梓した『めんどくさがりなきみのための文章教室』では、実は多くの人が教わったことのない文章の書き方を小説形式で教えている。

本稿では、同書より読点「、」の使い方について触れた一節を紹介する。

※本稿は『めんどくさがりなきみのための文章教室』(飛鳥新社刊)より一部抜粋・編集したものです


読点の位置が変わるだけで、文章の意味が変わってしまう?

作文の宿題に苦労する中学生・健のもとにあらわれた謎のぽっちゃり猫。名前は「マ・ダナイ」。10万回くらい生きて作家とも暮らしたというダナイが、健の部屋に住み込んで文章レッスンを進めている。

「今日、学校で、妙なことがあったんだ。放課後、翔に自転車を貸してもらうよう約束してたんだけど、なかなかあいつが待ちあわせ場所に来ないんだ。それで、あいつの机のところに行ったらメモが置いてあったんだ」

【【健、悪い! おれは自転車に乗って本屋に行った花奈ちゃんを追いかける。】】

「ぼくは、翔が乗っていったのなら仕方ないと思い、自転車を借りるのを諦めた。なのに、自転車置き場に行ったら、あいつの自転車が置いてあったんだ。ダナイに、この謎が解けるかい?」

「簡単な推理だね」

そう言うと、どこから手に入れてきたのか、シャーロック・ホームズみたいな服を着て、ダナイが謎解きを始めた。

「さて─ 自転車に乗った翔君が、本屋に行った花奈ちゃんを追いかけた。なのに、自転車置き場には、翔君の自転車が残っていた。健は、この謎を解けというのだね」

「そうだけど……。解けるのか?」
「あまりに簡単すぎて、あくびが出る。まず、次の文を読み比べてくれ。

 (A) おれは、自転車に乗って本屋に行った花奈ちゃんを、追いかける。
   (B) おれは自転車に乗って、本屋に行った花奈ちゃんを、追いかける。

(A)の文では、自転車に乗ったのは花奈。 (B)の文では、翔。
メモを読んだ健は、Bの意味だと読み取った。しかし、翔君は、 A の意味でメモを書いた。これ以上の謎解きは、必要ないんじゃないか?」

「了解した。つまり、悪いのは『、』を打たなかった翔ということだな」


どこに読点を打つかで、文の意味が変わってくる

「でもさ、自転車に乗って本屋に行った花奈ちゃんを追いかけるのに、どうして翔は自転車を使わなかったのだ?」

「……その謎は、深い」

「そういえば、翔が花奈ちゃんに『今度、映画に行くんだけど、一緒に行かない?』って誘ったんだ。花奈ちゃんは『いいよ』って言ったそうで、翔は舞い上がってるんだけど……。ぼくは、なんかイヤな予感がするんだ」

「どうして?」
「客観的に見て、翔に誘われて、花奈ちゃんが OK するとは思えないんだ」

「たしかに、花奈ちゃんはOKしてないのかもしれないね」
「どういうことだ? 花奈ちゃんは『いいよ』って言ってるんだぜ」

「じゃあ、訊くけど─ 。健、肩こりしてないか? マッサージしてやろうか?」
「いいよ。ぼくは、若いんだぜ。肩なんか、こってないよ」

「今、健は『いいよ』って言ったよ」
「それは、『必要ない』って意味だ」

「花奈ちゃんの『いいよ』も、そっちの意味だったんじゃないのかな?」
「……」
「『いいよ』の語尾を上げるか下げるかで、意味は伝わる。でも、翔君は、花奈ちゃんと話すのに緊張して、語尾が上がってるか下がってるか気づかなかったようだね」
「文を書くというのは、難しいね。読み手が、意味をどう取るかまで考えて書かないといけないんだ」