今後、日本のコンシューマー市場を作り変えていくのは、海外企業ではなく、おそらく国産のディスラプターになるだろう。なぜならば、日本人特有の消費者心理や行動を熟知しているのは長年ビジネスを展開してきた日本企業だからであり、そんな日本人の様々なニーズに応えるサービスを提供するために欠かせない他企業との連携もやりやすいからである。

 ベイカレントでは、その代表格として、通信キャリア(NTTドコモ、au、ソフトバンクに楽天を加えた4社)に注目しており、これからの大経済圏を席捲していく最有力候補と見ているという。楽天の今をベイカレント・チーフエバンジェリスト八木典裕氏に伺った。


高いロイヤリティでユーザーを囲い込む「楽天経済圏」

“経済圏”と聞いて、まず思い浮かべる企業は楽天ではないだろうか。

 2006年に楽天経済圏の構想が発表されてから10数年、幅広い業界にわたって経済圏を構築してきた楽天は、その完成度が群を抜いているといえる。その特筆すべき点は多々あるが、ここでは他の追随を許さない経済圏プラットフォーマーとしての強みを解説する。


(1)サービス間を相互送客するSPU(スーパーポイントアッププログラム)

 SPUとは、楽天経済圏のサービスを複数にわたって利用することで、「楽天市場」でのポイント還元率がアップする制度のことである。

 例えば、「楽天トラベルを利用した月はプラス1倍」「楽天銀行と楽天カードを利用しているユーザーはプラス1倍」というように、複合的に利用することによって、どんどんお得になっていく。

 このSPUを戦略的にカスタマイズすることによって、ユーザーの行動を誘導することすらできてしまう。

 例えば楽天名物の「お買い物マラソン」は、その期間中にショップを買いまわりすることで、どんどんポイント還元率が膨れ上がっていく。仮に還元率3倍の人が、10回買い物をすると13倍にまで増えることになる。これをポイント数で表現すると、1万円の商品を買って300ポイント付いていたのが、1300ポイントにまで増えるというイメージだ。

 このような楽天経済圏でしかあり得ないような還元率を実現できてしまうことが、ユーザーを囲い込める大きな理由なのである。


(2)わかりやすく統一されたサービスブランド

 楽天経済圏のほとんどのサービスには、「楽天」または「Rakuten」のワードが入っており、サービスブランドが統一されていることを感じることができる。消費者は、サービス名を見ただけで、楽天スーパーポイントが貯まるサービスであると認識できるため、「せっかくならポイントが付く楽天サービスを使おう」といった判断になりやすい。これが、経済圏に囲い込んだ消費者を、新たなサービスに誘導することへとつながっている。

 逆に、「楽天」のワードが付かないサービスは、驚くほど楽天経済圏の意識は持たれていないようだ。例えば「ぐるなび」は、2018年に楽天と資本業務提携を行い、楽天経済圏に仲間入りしたのだが、多くの人がこの事実を認識していないことがわかった。

「楽天経済圏のサービスである」というわかりやすさを徹底させるために、「楽天」の冠を付けたサービス名には強いこだわりを持っているはずだ。


(3)Eコマースとクレジットカードの2大キラーサービスが織りなすシナジー

 楽天には、礎となった「楽天市場」、そして決済手段である「楽天カード」という2つのキラーサービスがある。そして、この2つは相性が良いことが非常に大きな効果を発揮している。「楽天市場」での決済に「楽天カード」を使用するとポイント還元率が高くなるため、両サービスをあわせて使っている経済圏住民が極めて多いのだ。

 まず、普段から「楽天市場」を使ってきた人が、よりお得なポイントに引き寄せられて「楽天カード」に入会するというケースは、誰もが予想できるだろう。

 しかし、この逆にあたる、「楽天カード」から使い始めるユーザーが多いことは、意外と知られていない。実は、初めてクレジットカードを持とうとする学生は、審査が通りやすいといった理由で「楽天カード」を選ぶ確率が非常に高いのだ。そして、「楽天カード」を普段使いするうちに、ネットショッピングは「楽天市場」を選ぶようになるというわけだ。

 弊社が行った消費者行動調査のうち、「楽天経済圏のサービスをどの順番で使い始めたか」というアンケートでは、1番目に使い始めたサービスが「楽天市場」と「楽天カード」に大きく二分される結果となった。この2大キラーサービスは、楽天経済圏への入り口として機能しており、顧客のシェア拡大に大きく寄与しているといえるだろう。

 2大キラーサービスを使っているユーザーが「楽天銀行」や「楽天証券」も使い始めることで、一気に利用サービスが増えていくケースも多く、フィンテック系のサービスが経済圏へ囲い込むことに効果があることもわかった。

 以上3点の強みから、楽天経済圏はユーザーに高い価値を提供し、さまざまなサービスで囲い込むことに成功しているといえる。上述した消費者行動調査でも、その裏付けとなる分析結果がいくつも得られた。

 例えば、旅先のホテルを予約する際、一般的には“地名”と“ホテル”などでWeb検索するものだが、楽天経済圏の住民の場合は、まず「楽天トラベル」にアクセスし、サイト内だけでホテルを決めてしまう可能性が高いことがわかった。

 楽天経済圏の住民は、できる限り楽天のサービスを使うことが習慣化している。この習慣化こそが、ユーザーを経済圏に囲い込むことができた結果である。楽天は経済圏プラットフォーマーとして高い完成度を誇っているといえるだろう。


プラットフォーマー成功の鍵は「参入障壁」

 楽天が創り上げてきた経済圏は、他社が真っ向から対立する気にはならないほど、高い参入障壁を誇っている。楽天ポイントを超えるようなサービスを、新たに作り始めようとする企業はほとんど皆無といってもいい。

 そういった意味では、楽天は自ら参入障壁を築き上げているということだが、これこそがプラットフォーマーが勝ち残るための重要な鍵であるのだ。

 そして、参入障壁をさらに高くするためのコツは、金融にもサービスを侵食させ、経済圏内でお金の流れまで掴んでしまうことである。消費者の収入や決済情報といったお金の流れを掴むことができれば、消費者行動の入り口と出口を把握することができるため、サービスの付加価値を進歩させることにつながるからだ。

 そして、経済圏を築き上げようとしている企業のなかで、楽天ほど金融に力をいれてきた企業はいないといえる。楽天経済圏のなかには、楽天銀行、楽天証券、楽天生命、楽天損保など、Fintechを軸としたオンラインに強い金融サービスが揃っており、お互いがシナジーを発揮することでユーザーの囲い込みに効果が出ているのだ。

 例えば、「楽天市場」や「楽天カード」の購入履歴と、「楽天銀行」の口座残高や給料予測のデータを見比べることによって、そのユーザーの返済能力などが浮き彫りになる。残高が少なくなっている時には、リボ払いに変更するような提案までできてしまう。逆に、残高が着実に増えている場合には、「楽天証券」の金融商品をお薦めすることもできるだろう。

 金融関連にも侵食することで、ユーザーよりも先に金回りの状況を察知し、より便利なサービス使いを提案できるのだ。

 また、プラットフォームは、大抵の場合、いきなり汎用的なものを目指してもうまくいかないものであり、最初に始めるサービスは尖った領域から始めることが肝要だといえる。最初はターゲットを絞り込み、圧倒的な価値を提供することで、徐々にシェアを拡大していくのだ。そして、ある程度のシェアを獲得した先は、サービスを拡充していくフェーズへと移行していき、プラットフォームはより汎用的なものへと変化していく。

 これを踏まえて考えると、楽天はまず「楽天市場」や「楽天カード」でシェアを獲得し、少しずつサービスラインナップを拡充してきた。そのうえで汎用的なプラットフォームを創り上げたのが現在の楽天経済圏の姿だ。

 楽天経済圏が築いた参入障壁は、Eコマースやポイントの圧倒的シェアだけではなく、汎用プラットフォーマーとしてユーザーの生活に寄り添えることに、他の追随を許さない真髄があるといえるのだ。